異世界ブンドド ~夢とロマンに生きる王女~

あてだよ

胎動編

第1話 君は死にました

 出張先へ向かう飛行機の中。


 私は窓から、雲の下に垣間見える陸地と海を眺める。


 初めて飛行機に乗った時は、多少は胸が高鳴ったけど、何度も乗れば、その感動も薄れる。


 それに、私が本当に乗りたい物は、こんなただ空を飛ぶだけの様な代物では―――



 人は様々な趣味趣向を持っている。


 食、ゲーム、本、映画、音楽、etc……


 大まかにジャンル分けしても、数多くの物が思い浮かぶし、細分化すれば無数にある。


 それらは、成長して大人になっても簡単に止められる物ではなく。

 日常生活から人間関係、果ては人生にまで多大な影響を与える。


 私の趣味趣向が、他の子と違うと気が付いたのは、いつの頃だったか……


 性別が違えば同好の士も多いのだけれど、同性で出会った事は、ただの一度もなかった。


 女の子として生まれた私は、両親の先入観もあり、姉達と同様に育てられた。


 与えられる物は、かわいい服に、可愛らしい玩具。


 周りの友達も、女の子向けの可愛らしいアニメか、成長するとイケメンが活躍する作品や、三次元のアイドルへと傾注していった。


 だけど、それらの物は、私が心から欲する物とは、どこか違った。


 私が、真に心から欲する物に出会ったのは、子供の頃に偶然見たSFアニメのロボットだった。


 空を飛び、大地を揺るがし、宇宙を駆ける。


 人という貧弱な存在に、強大な力を与える様々なロボット達。


 その勇姿と力と活躍に憧れを抱いた。


 乗ってみたい。

 動かしてみたい。

 戦ってみたい。


 しかし、悲しい事に、その憧れと夢を実現するには困難が過ぎた。


 夢に繋がる技術や情報を収集し、調べれば調べるほど、一歩一歩絶望へと繋がる。

 恐らく、現実の科学技術が夢の世界に追いつくには、私が生きている間には無理だと……


 無いなら作る?

 そう豪語できるほど天才だったならよかったけど、私は凡人だ。


 結果、大学の学部を選考する時には、私は夢を断念していた。


 そして、平凡な社会生活を始め、私生活を周囲からひた隠し、憧れのロボット達の玩具を集めた。


 それらを、眺め、手に取り、せめてもの慰めとして空想に耽る……



 そんな日々が、唐突に終わった。





 気が付くと、雲の上に立っていた。


 何を言ってるのか?と思うかもしれないが、私も何を言ってるのか分からない。


「君は死にました」


「ふぁ!?」


 放心状態だったところに、いきなり後ろから声を掛けられ、間抜けな声が出た。


 振り向くと、直ぐ後ろに白い貫頭衣を着た青年?女性……?


 ともかく、恐ろしく顔が整った白い髪の中性的な人が立っていた。


「やあ、私はこの世界の管理保護を担当してる者だ。まぁ……立場的には神様? みたいなものかな?」


「はぁ……え?」


 管理?保護?神様?


 い、いや、そんな事より――


「――死んだ? 私が……?」


「そうだよ。ほら、あそこ、見えるかい? 海の上に浮かんでる飛行機。君は、あれに乗ってたでしょ?」


 そう言われ、指さされた方を見ると、眼下の海にジャンボジェット機らしき物が浮かんでいた。


 よく目を凝らすと、その周りを数隻の船が取り囲み、救助活動らしき事をしているのが見える。


 そういえば、久々の東京出張だったので、空き時間にプラモの大型専門店に寄ろうと計画を立て、ウキウキで飛行機に乗ったのを思い出す。

 そして、なぜか、後頭部にうっすらと鈍い痛みを感じた。


「本当だったら、あの飛行機は、あっちの陸地に落ちる事になってたんだけどね。ちょっと死んでしまうと困る者達が多く乗ってたから、こちらの世界の使途に頼んで、少し運命を変えたんだけど――」


「私は、助からなかったという事でしょうか?」


 一応、神様らしいので丁寧な口調で接しておこう。


 それにしても、墜落したという飛行機を見た感じ、損傷らしい損傷も無い様に見えるけど、なんで私は死んでいるんだろう?

 神様なら全員助けてくれても良さそうなものだけど……


「君の死因は、飛行機が着水した時の衝撃で、機内の物が君の後頭部を強打した所為なんだけど。悪いね。アカシックレコードをどう見回しても、君だけは助けられなかったんだ。世界にとって一番被害の少ない運命を選んだとは思うんだけど、君だけは死ぬ運命しか残ってなかったんだよね」


「そ、そうですか」


 おおぅ……

 心の中も読んで答えておられる……

 さすが神様だ。


「それで……私は、この後どうなるんです?」


 閻魔裁判みたいな物があるんだろうか?


 できれば、天国的な所へ行きたい。


「そんな身構えなくても大丈夫。こちらの力が至らず、申し訳ないとも思ってるんだ。だから代わりに『新しい人生』を君にプレゼントするよ。こちらとしても丁度良かったし」


「は……? え? 新しい人生ですか?」


「そう! こことは違う、異世界での新生活! 君が今まで身に着けた知識や技術、経験を持ち越したまま、新たな生を謳歌できるわけだ! 今流行りの異世界転生、強くてニューゲームってやつだね!」


 まじか。


 何か、説明口調と手振りが大げさで、若干うそ臭く感じるし、妙な勧誘に思えてしまうんだけど……


 状況が状況なだけに、本当に異世界転生が……?


 興味はある。


 現代日本のサブカルチャーに浸っている身としては、それなりに流行り物は履修しているし、とても魅惑的なキーワードだ。


 これが夢や幻覚でないのだとしたら……


「えーっと、君に合う世界は……これだったかな? はい、これ。行くって決めたら、その最後のページの異世界転生同意書にサインをしてね」


 と、1冊のパンフレットとペンを渡された。


 ふむふむ?


『剣と魔法が織りなす大冒険の異世界転生へのご案内!』


 ポップでキュートな感じで描かれた表紙を開くと、どこかで見たかの様なイラストの絵と共に、大きめの文字で異世界転生の楽しそうな出来事やメリットが書いてあった。


 剣と魔法かぁ……

 嫌いではないけど、できれば未来的なSF系の世界が良かったなぁ。


 とりあえず、最初の方を流し読みすると、後半には細かな文字で書かれた『異世界転生に際しての諸注意』というページがあった。


 ・異世界転生サービスを受ける場合は、輪廻転生サービスが一時的に停止されます。

 ・転生の際は記憶の一部が封印され、再度死亡した時に封印は解除され、輪廻転生サービスも有効状態へと戻ります。

 ・肉体と魂が特殊な状態にあると死亡とはみなされない場合があり、その際は転生者本人が能動的に活動できない状態に限り管理者によるサポートが受けられます。


 【使徒契約者特約】

 ・管理者の使徒として転生する場合は、使徒用異世界転生基本セット(内容量無制限の異次元収納魔法、主要言語自動翻訳能力、身体と特殊能力の向上、本人の希望や資質に合わせたユニークアイテムまたは能力)が与えられます。

 ・使徒となった者は、世界管理者からの指示に従う義務と一定のルールを課せられる事がありますが、誕生から終生まで管理者によるサポートを受けられ―――etc…etc…


 他にも勇者やら聖女やら、特殊な立場で転生する際の細かな注意点みたいな物が小さな字で書かれてはいるが――


「この……記憶の一部を封印というのは?」


「それは、生まれ変わる時に覚えてると困る部分の記憶だね。輪廻転生サービスの規約にも似た様な物が盛り込まれてるけど、君が大切にしていた生き物全般に関する記憶を封じるんだ。でも、また死んで魂だけの状態になった時には全部思い出せるから心配はいらないよ」


「困るというと、何か支障があるんですか?」


「いくつかあるけど……大きな理由としては、次の人生に集中してもらう為かな。新しい家族や愛する者との出会いをするにしても、前世の人間関係を覚えてると何かとモヤッとしそうだろう? あと、世界を跨いでの強い心残りに繋がる記憶は、双方の対象に意図しない影響が出る場合があるんだよね」


「なるほど……」


 たしかに、恋人とかは居ないからいいけど、数少ない友人や、実家の親やペットの犬に二度と会えないと思うと心残りはある。


 落ち着いて考えてみれば、まだまだ見たいロボ作品や、作りたい新作のプラモもあるし。

 10万もしたけど、大人気で入手困難だった食玩が届くのも楽しみにしてたのだ。


 生き返れるというなら生き返りたい……


「生き返らせるのは、こっちの世界だと難しいかな。こちらの世界は魔法の様な力が失われて久しいから」


 ん?


「難しい……?って事は、不可能ではないって事ですか?」


「そうだね。そこに使徒契約の特典も書いてあるだろう? 使徒としてなら、生き返らせる事もできるよ。使徒契約の場合は、私達の要望を半強制的に頼む事もあるから、肉体的な寿命まで安心安全のフルサポートを約束するよ」

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