第26話 作戦

 教会を離れてから数分。


 私は行動を決めあぐねていた。


「問題は、どこに伝えるかと、伝え方なのよね……巫女とバレないように」


「王国の騎士団が無難だとは思うが。ティアルの素性を明かす必要が出てくるだろうな。神殿も同様だ」


「やっぱバレると思う?」


「仮に、神託とは言わずに騎士団に動いてもらったとしよう。魔物が現れなければ、ティアルのわがままに振り回された、で済む話しだが。実際に魔物が現れて撃退した場合、良かった、で済むと思うか? 情報の出どころを聞かれるのは明白だ。そして、君は今まで城の極一部の者としか接点が無いときている」


「ごまかしても、その内、巫女ってバレる可能性が高いか……」


「そうだな。ちなみに、現在は神殿に巫女が不在で、神殿や教会関係者が次代の巫女を探し回っているとの情報も街に漂うマナにはある」


「巫女ってバレたらどうなると思う?」


「巫女とは、人々にとって世界の命運を握る大切な情報源だ。今以上に丁重に扱われるのではないか? 王国側であれ神殿側であれ、厳重な安全体制をしいて、そこに匿われるだろう」


 そうなったら、戦闘訓練とかは無くなるかもだけど、今みたいに隙を見て外に遊びに行くなんて自由も無くなりそうなのよね……


 なんか、この状況は詰んでる気がしてきた。


 誰かが、運良く問題の魔物を倒してくれたりしないかな……


 誰かが……倒す?


「……私が魔物を倒しちゃダメかな?」


「まて、何を言っている?」


 生身の状態ならまだしも、今の私は憧れのロボットをに乗ってるのよ?


 何のために、これを作ったのよ?

 あのロボット達の勇姿に憧れたからでしょう?


 そうよね。


 何を、今まで寝ぼけた事を考えてたのかしら。


「要は、魔物を撃退すれば誰でも良いのよ。私だって。私自身でやれば、ルイン達に怒られはするかもしれないけど、誰にも巫女とはバレないし。街の人の被害も減らせるし、一石二鳥よ!」


「無謀と言う言葉を知ってるか?」


「大丈夫よ。ちゃんと考えもあるわ」


 ベディは反対みたいだけど、方法はこれしかない気がする。


 それに、そろそろ私が城壁の外に居るのが、ミアにバレててもおかしくない頃合いだし。

 本人が捕まえに来るか、騎士団を差し向けて、私の事を探させるはず。


 それも利用してしまえばいい。


「作戦はこうよ。私が東門の外に行くでしょ? そして魔物を見つけて、倒せるなら倒しちゃってもいいし、ダメそうなら、そこに私を探し来たミアや騎士団を誘導するだけでもいいのよ」


「行き当たりばったりすぎる。それに私が心配しているのはそこではない。魔物の戦力や規模と、君の戦闘経験の方だ」


「戦闘経験なら、実戦では無いけどあるわ」


「城での訓練の事か? 君はまだ、基礎の基礎を習いは始めたばかりだろう?」


「違うわ。向こうの世界で、初代様と私とでは生きてた時代が違うのよ。私の時代には、戦闘を体感して学べる物が豊富にあったのよ」


 主にゲームの事だけど。


 ゲームみたいな便利な機能は無いけど、柔軟に動ける分、有利な所もある。


 スラスターやバーニア移動は無し、ロックオンやレーダー機能も無し、用意できる武装は近接がメイン、動作は全てが思考によるマニュアル。

 現状、バーチャ・オンみたいな高速戦闘は無理でも、挙動がリアル寄りなロボゲーくらいの動きは可能なはずだ。


「ふむ……君が、こんな特殊なゴーレムの操作を短時間でスムースに行える様になったのは、それによる物か」


「そうよ。一応、ベディの意見も聞きたいんだけど、私と、このゴーレムって、どの程度の魔物までなら相手できると思う?」


「君の体感したと言う戦闘経験の内容が不明なので、このゴーレムの構成素材やティアルの魔力量からの推測にはなるが、小型の魔物相手なら現状でも戦えはするだろう。中型以上となると不明だ」


「中型以上かぁ……じゃあ、こうしましょう? 行ってみて、中型以上の魔物が出たら無理せず撤退。街壁か門の所の兵士に助けを求めるか、ミアにもらった水の玉を介して危険を伝える」


「……いや、それでもダメだ。単独では危険すぎる。すまないが、行くというのなら、私が先にミア殿に危険を知らせる事になる」


 ベディも頑固ねぇ……


「じゃあ、どんな状況なら行ってもいいの?」


「最低でも、中型以上の魔物を相手取れる複数人の護衛が居れば、だな」


「そんな人達、どこで調達しろっていうのよ? 騎士団や神殿に頼れないから悩んでるって――調達?」


 調達、調達ねぇ……


「ねえ、ベディ? この街に、城の騎士団と神殿以外で、魔物と対峙できる人達って居ないの?」


「ふむ? ……居るようだな。ハンターギルドと、冒険者ギルドと言う組織なら可能な様だが」


 お?


 やっぱりあるのね。


「じゃ、そこで護衛を調達しましょ」


「彼らは騎士団などとは違って営利団体だ。君の素性の心配はいらないかもしれんが、報酬が無ければ動かせんぞ?」


「報酬ならどうとでもなるわ。私の魔法を忘れたの?」


「……そういう事か」


 金銀程度ならジャブジャブ出せるし、報酬で動かせるなら楽勝よ。


「それで、二つのギルドの違いもわかる?」


「ハンターギルドは魔物狩りを専門とする所だ。冒険者ギルドの方は依頼を受けて多岐にわたる活動を行う所の様だな。ハンターギルドは依頼を受けて活動する形式では無いらしいので、ティアルの目的としては冒険者ギルド側が適任だろう」


「ふーん……じゃあ、冒険者ギルドに行きましょうか。それで、一番近いのはどこ?」


「この大通りの東門の近くに、一番大きい冒険者ギルドがある」


「おあつらえ向きな場所ね。急ぎましょうか」


 作戦も考えも決まったので、駆け足気味で東門の方へと向かう。


 幸い、こちらの外見が大柄な鎧姿で、ガチャガチャと音を立てている所為か、通りを歩く人達も避けてくれるのでスムーズに進める。


「とりあえず、その作戦で行くとして。報酬の支払い方法はどうするのだ? まさか、金塊などで渡すつもりか?」


「ダメ……かな?」


「私がクーゲルと共に地上に来た頃は貨幣経済という物は崩壊していたが。今の対価のやり取りは、金銭での支払いが一般的な様だぞ?」


 考えてみれば確かに。

 いきなり金塊をドンッと置いて「護衛を雇いたい」って言っても、怪しい事この上ない……


 下手すると、何処で手に入れた?とか、本物か?とかで揉めそうだ。


「それもそうねぇ……じゃあ、お金を作っちゃいましょ」


「……うん?」


「貨幣なんて、国が発行して流通させる物なんだし。国の代表とも言える、王族の私が作っても問題ないわよね」


「いやまて、理屈として、それは合ってるのか……?」


「お金なんてそんなもんよ」

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