第8話 初めての外出
窓からは春らしい暖かな日差しが差し込み、小鳥たちの囀りが穏やかなBGMを奏でている。
季節の移り変わりと共に、私も日々成長し、無事2歳を迎えた。
そして、今はというと――
「姫様、お外に行きましょう?」
「いぃぃー! やぁーー! ああぁぁぁーーー!!」
――私は駄々をこねていた。
私は今、忙しいの!
この前、グンダムMk2の内部フレームを再現すべく、土魔法や金属パーツを駆使して作っていた時に気が付いたのだ。
関節部や、それに繋がる内部パーツを魔法で変形させれば、まるで本当に操縦しているかの様に駆動部が動く事に!
それを見た時「こ、こいつ動くぞ……!?」と某有名台詞が脳内再生された程の衝撃だった。
何故、ガレキを作ってた時に、この考えに気付けなかったのか、本当に悔やまれる。
フィギュアやガレキの類は、無理に動かしちゃダメという先入観があった所為か……
ともかく、今は実際に動かせる内部構造を模索して、色々な試行錯誤と研究で忙しく。
試したい事が盛沢山で、お部屋の外になどに用は無いのだ!
「困ったわねぇ……これが魔の二歳児が発症するイヤイヤ期という物なのかしら? リカルドの時はこんな事なかったのに……」
私が駄々をこねていると、セレイナママンが呼び出されたらしく、部屋にやってきた。
「いつもは大人しく聞き分けも良いのですが……ここ数日は新しい騎士人形を動かそうとしているらしく、それに夢中でして」
「ゴーレムの魔法練習をしているの?」
「おそらくとしか……何分、私の知っているゴーレムと姫様の作っている騎士人形とでは違いが多すぎるので、判別は難しいのですが」
「教えずとも魔法の練習しているのは良いけど、そろそろ節目の誕生祭へ向けて準備をしないとなのよねぇ」
「その点は急がずとも丈夫かと思われます。姫様は、現状でも言葉の習熟度合も素晴らしく、文字に関しても、ある程度は読み書きができるほどですので」
「あら? そうなの?」
「はい。姫様は物覚えが優秀すぎる程です。なので、節目の誕生祭の際のマナー等も、お教えすれば直ぐにでも覚えてくださるかと。ですので、前倒しでクーゲル王族としての教育訓練を行いたかったのですが、それをするには、この部屋の中では難しく……」
「それで私が呼ばれたのね。母親として何も出来ていない私が力になれるかは不安だけど……ねえティアル? お母さんと一緒にお外に出てみない?」
「イヤ!」
「これは下手な魔物より手強いかもしれないわねぇ……あ、そうだわ! ねえティアル? 何か欲しい物とかはないかしら?」
「ほしいもの?」
欲しい物、欲しい物かぁ……
今は研究時間が一番欲しいとこだけど、コレクション部屋か作業部屋も欲しいのよね。
色々と作りすぎた所為で、もう棚を増やしても飾る場所が確保できなくなってきたし。
収納魔法の中に大量に貯め込んだコレクションや素材類も、一度、何処かで全部出して整理したいし。
あと、そろそろ塗装にも手を出したいから、その塗装ブースや塗料になりそうな物も欲しい。
エアスプレーやコンプレッサーは私が作るか、魔法でどうにかできそうだけど、さすがに、それをこの部屋の中でやるには気が引ける。
やはり、自由にできる部屋が、もう1つ必要よね。
「おへやがほしい」
「お部屋? あー……このお人形さん達を飾るお部屋が欲しいのね?」
「そう!」
「たしかに、もう置き場所が無いものねぇ……」
察しが良くて助かる。
「それじゃあ、ティアルがお勉強をがんばったら、お母さんがお部屋を一つプレゼントするわ」
「お勉強をがんばったら? ぐたいてきには?」
「ぐ、具体的に? ティアルは本当におりこうさんなのねぇ。えーと……」
成功報酬を餌にするのは悪くは無いと思うけど、目標なりゴールなりは明確にしていただきたい。
「そうねぇ……ティアルの3歳の誕生日にパーティーを開くのだけど。その日にティアルが良い子にしてて、ルインから合格点をもらえたらにしましょう」
私の誕生日パーティー?
それに、お勉強が必要なの?
まあ、一応の立場としては王族の姫らしいし、パーティーマナーとか色々あるのだろう。
「わかった!」
と言う訳で、初めての外出をする事となった。
王城の中だから、外出と言っていいのかは分からないけど。
「ティアル。くれぐれも、お部屋の外では目を開けてはだめよ? それじゃ、がんばってね」
「はーい」
「では、姫様。こちらへ」
セレイナママンと別れ、ルインの案内に従い部屋の外へと出た。
初めて部屋から出たけど、さすがは王城。
廊下だけでも二車線道路並みの広さと長さがある。
というか、無駄に広くない?
私の体が小さいから、そう感じるだけかもしれないけど。
私のマイルームも生前の住居より倍以上に広いし、色々とスケールが違うわね……
装飾は、煌びやかというより落ち着いた色合いの絨毯と壁紙で整えられ、所々にある調度品もシックな物で揃えられていて、なんとも品を感じる作りだ。
その中で、少し違和感があるのは窓枠や扉だろうか?
長い廊下には等間隔に窓があるのだけど、そのどれもが妙に太い金属製の窓枠の窓で、簡単には開け閉めできない構造になっている。
部屋を出る際に見たドアの厚さや、廊下の突き当りにある扉なども、過剰に頑丈に作られていて、少し妙な違和感を感じた。
まあ、防犯対策とか、そういうのかしらね。
などと、考え事をしながら、ルインの案内に従って城内の様子を眺めつつ歩いていると。
廊下の先から、騎士らしき人達を連れ立って、十歳前後の男の子が歩いくるのが見えた。
「おや……? もしかして君はティアルかい?」
「はい? そうですけど」
その男の子は、私の姿を見ると話しかけてきた。
外見は、日本人を思わせる艶のある黒髪で、ルビーの様な赤い目をしている。
顔つきはシュッとした西洋風のイケメンだ。
そして、どことなくボリスパパンと似ている感じがする。
あれ? もしかして――
「やあ、はじめましてだね。僕――、俺はリカルドだ。君の兄さんだよ」
あ、やはりか。
兄が居るとは聞いていたけど、思ってたよりも年の離れた兄妹だったのね。
「こちらこそ、はじめまして、リカルド兄様」
「なかなか会いに行けなくて、ごめんね。半年ばかり東側の領地を回ってて、やっと帰ってこれたんだ」
「そうだったのですか。おつかれさまですリカルド兄様」
「う、うん、ありがとう。ねえ、ルイン? ティアルは、何と言うか……ずいぶんとしっかりと喋れるんだね? まだ2歳だよね?」
「はい。2歳と4か月におなりです」
「リカルド兄様は、おいくつなんですか?」
「え? 僕かい? ぼ、俺は今年で12になるよ」
12という事は10歳も年が離れているのか。
自身の事を「僕」から「俺」呼びに変えようと頑張っている所が、年相応で可愛らしい。
顔が厳つい系じゃないし、私は、僕のままでも良いと思うけど。
「病弱とは聞いていたけど、その……ティアルは目が見えないのかい?」
「いえ、姫様は目を閉じていても見えるので閉じているだけです」
と、ルインが代わりに私の現状を説明してくれる。
最近は魔力感知での視覚も精度が良くなり、紙に書かれた文字や絵、物の色なども見える様にまでなった。
作っている土魔法プラモの内部構造まで視認できるので、今では、ほぼ目を閉じた状態で生活している。
「目を閉じていても? もしかして魔力感知で? この前、ドワーフの鍛冶師が同じ事をしているのを見たけど……」
「はい。ですのでご心配には及びません」
「そうか、それなら良かったよ。それじゃあ、僕は父様達に報告に行かないとだから、ティアル、またあとでね」
「はい、兄様」
私に軽く手を振ると兄さんは、また供の騎士達を連れて去って行った。
あれが、リカルド兄さんか……
なんか、聞いていた印象とは大分違う。
暴れて部屋だか王城の一部を崩壊させたみたいな話を聞いてたけど、見た目も、話した感じも、年の割には理知的で優しいイケメン王子という感じだ。
まあ、あちらも私の事を病弱と勘違いしていたみたいだし、実際に会って見ないと本当の所は分からないものね。
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