第15話 一家団欒
「とりあえず、そろそろ夕方になるし、ルインが来ちゃうかもだから、あなたを何処かに隠さないと」
「ふむ? 私が見られては困る事情があるのか?」
「あんたの事を宝物庫から黙って持ち出してるのよ。バレたら困る――って程でもないのかしら?」
考えてみれば、あんな風に檻の中に保管されていたのは、ベディの能力が不明だった所為らしいし。
こうして、魔道具としての性能が判明したのだから、逆に褒めてもらえるんじゃない?
「……そうよね。うん、きっと大丈夫よ!」
「そうか、問題が無いのであればよかったが。ところで、ルインと言うのは、君の後ろに立ってる人の事か?」
「え?」
私は振り返ると、そこにはルインが立っていて――――
――――めっちゃ怒られました。
頭をガシッと捕まれてギリギリと締め付けられた後、正座をさせられ、理詰めで、こんこんと説教が続く。
生まれてこの方、ほぼ良い子として振舞っていたので、1度も叱られた事など無かったけど。
ルインが怒ると、ここまで怖いとは……
「ごめんなさい……」
「効果の分からない魔道具とは、危険な代物なのです。中には周囲を巻き込み被害を及ぶ物もあり、よほど周到に調べなければ、魔力を込めた瞬間危険に陥る事もあり――」
「失礼します。ボリス王がおいでです」
窓の外の景色が茜色から群青へとうつろい。
私の足が、そろそろ限界に達しようとした頃、ようやく救いの手が現れた。
部屋の戸口から声がかけられ、ボリスパパンが来たのだ。
「これは……どういう状況だ?」
「姫様が吸魔の首飾りも勝手に持ち出しておりまして、それをお叱りさせていただいている最中です」
「初代様の首飾りをか!? ティアルは無事――のようだな……?」
無事じゃ無いよパパン!?
正座させられてて、足の痺れがMAXだよ!
と、私は必死に目で訴える。
「しかし、吸魔の首飾りの収めてあった籠の鍵はどうしたのだ?」
「どうやら、姫様が魔法で籠自体を変形させて取り出したそうでして」
「あれはアダマンタイト製だったはずだが……ともかく、ティアルも反省してる様子であるし、夕食にしてはどうか? 今日はリカルドも城におるので、そろそろ家族全員で食事でもと考えておってな。それで足を運んだのだ」
「さようでございましたか。セレイナ様やリカルド王子をお待たせするわけにもいきませんし。今日の所は、ここまでにいたしましょう」
私のキラキラなお目めで必死にアイコンタクトをしたおかげか、私の願いは通じた様で、ようやく長かった説教が終わった。
ん? 今日の所はって言ったか……?
……それはともかく、やっと足を崩せる。
「あ、足ぃぃ……」
「ああ、うむ。では、ティアルは私が運ぼう」
「では、首飾りの方は私が。夕食の席にて、此度のご説明も致します」
パパンはそう言うと、私を片腕で優しく抱っこし、ルインがベディを回収して食堂へと向かう事となった。
「いだだだ……」
「あまり、ルインを怒らせる出ないぞ? あれは怒らせると怖いからなぁ」
それはもう知ってるよパパン……
「私も子供の頃は、悪戯をするたびに酷い目にあったものだ……」
と、遠い目で語るパパン。
「父上も?」
「あれは、先代の頃から、近衛と王家の教育係を務めておったからな」
「ボリス王、私がなにか?」
「い、いや。なんでもないぞ?」
「さようですか」
そんな事を話しながら数分も歩くと、私達王族だけで使うらしい食堂へと到着した。
扉を開けた先は、広すぎず狭すぎず、内装も落ち着いた感じで、くつろいで食事ができる雰囲気のある所だった。
「あ、ティアルも来たね」
「いらっしゃいティアル。こうして皆で食事をとれるのは初めてねぇ」
既に中には、リカルド兄さんとセレイナママンが待っていて。
そして、深緑の髪の眼鏡をかけたイケメン風の執事さんが、給仕みたいな事をしていた。
「ティアルはここに座ると良い」
「はーい」
パパンは、リカルド兄さんの隣にあった子供用の椅子に私を下ろすと、正面の席にママンと並んで座る。
こうして見ると、全員の服装はあれだけど、なんか普通の家族みたいで、ほっとするわ。
「では、王と姫様もいらっしゃったので、お食事の用意をいたします」
「オスカー、私も手伝います」
眼鏡の執事、オスカーさんが一礼して食事の準備を始めると、ルインも私の座る席の近くのテーブルにベディを置いて手伝いに行った。
このお城って、対外的に見せる場所は煌びやかに作ってあるけど。
王族専用とかの場所は、思ったよりも質素というか、変に飾り付ける事をしないし、近くに侍る人達も必要最小限にしてるのよね。
私としても、キラキラな場所で大人数に世話されながら生活するより、こういう感じの方が緊張しなくて助かる。
「父上。この首飾りって、武器庫の奥にあった初代様の首飾りですよね? なぜこちらに?」
「ああ、うむ。ティアルが今日、持ち出していたそうでな。先ほどルインから叱られておった」
リカルド兄さんは、ルインが置いていった首飾りに気が付くと、不思議そうに尋ね、それにパパンが答える。
「あー……ティアル、ルインを怒らせたのか」
「うん……」
「それは、災難――ではないね! 反省したほうがいいよ!」
リカルド兄さんは、ルインが食事の乗ったワゴンを押して戻って来たのに気が付くと、あわてて方針転換をして私を慰めるのを止めた。
どうやら、父子揃って同じ様な目に会って来たらしい。
「それで、ティアルは何ともないのよね?」
「え? あ、うん、大丈夫。魔力は結構吸われたけど」
並べられていく料理を眺めて、どれから食べようかと思案をしてると、今度はセレイナママンが話しかけてきた。
「そう。魔力枯渇で気を失ってたとかでなくてよかったわ。あまり皆に心配をかけてはダメよ?」
「はーい」
たしかに、そうなってたら収納魔法の中身とかもどうなってたか……
まあ、もう中身の大半はアレだけど、これからは気を付けよう。
「して。ルインよ、吸魔の首飾りを持ち出した後、ティアルの様子はどうだったのだ?」
「宝物庫から部屋に戻った後、姫様が自身の属性魔法の練習を一人で行いたいとの事で、私は雑務を済ませるため、しばし離れておりました。その後、部屋の前に戻りますと、中から姫様が誰かと会話している気配を感じ、部屋の前で待機していた者達に何者かを中に入れたのかを確認したところ、誰も居れていないとの言を聞き、即座に第一近衛を招集し突入準備を行いました。先行して私が部屋の中へと忍び入りますと、姫様が、こちらの初代様の首飾りと会話しているのを発見した次第でございます」
え?
突入準備?
そんな大事になってたの……?
「首飾りと会話をしていた……?」
「はい。詳しい事は、本人と本体に語っていただいた方がよろしいかと存じます」
「君が現国王か。お初にお目にかかる、と言っていいかは悩むところだが、よろしくたのむ」
ルインが説明を終えると、さっきまで黙っていたベディが喋り始める。
「こ、これは喋る魔道具か!?」
「ベディという名をティアルから貰った。差し支えなければ、君等もそう呼んでくれ」
ベディが言葉を発して喋り始めると、ルイン以外の全員が騒然となってしまった。
お腹空いたから、早くごはん食べたいんだけど……
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