第36話 演出と回収

 馬車で空を走っていると、直ぐに東門へと到着した。


 馬車は、そのまま高度を上げて東門を飛び越える。

 すると、その先には、群集に囲まれる様に、大きな水のドームが見えてきた。


「あれは……ミアの魔法?」


 見たところ、水のドームに宿る魔力は、ミアの持つ奇麗な青色の魔力に感じる。


 初代様のゴーレムは、その水のドームに守られる様に、巨剣を杖代わりに大地に突き立て、片膝をつく様に座り込んでいた。


「はい。彼女には、現場保存と初代様のゴーレムの護衛を命じておきました」


「え? もしかして……昨日から、ずっと?」


「ええ、彼女は純属性持ちですので、あの様な、大規模かつ長時間の魔法行使を得意としておりますから」


 ミアは、昨日の雨の魔法の時も凄いなと思ったけど。

 ああ見えて、水の魔法に関してはスペシャリストなのだそうだ。


 髪と目の色が同じ属性色をしている者は、純属性持ちと呼ばれ。

 私の様な特殊属性を除けば、これはこれで、かなり希少な存在だと前に聞いた事がある。


 他属性の魔法が極端に苦手にはなるけど、その代わりに得意とする属性の魔法に関しては、とても優秀な使い手となるらしい。


 らしいけど、今にも寝落ちしそうになりながらも魔法を使っている彼女を見るに、ただ単に、昨日の不手際とかの罰も兼ねてるだけなんじゃ……?


 よくよく見てみると、他にも見知った顔の人も居るわね……


 水のドームの周囲を警備している兵士らしき人達も居て。

 その中に、昨日、訓練場や城壁の門で出会った人達が混じっていた。


 もしかして、連帯責任みたいな事になってるのだろうか?


 ミアや警備の人達は、空から私達の乗った馬車が近付いてくるのに気が付くと、やっと終わる!といった表情を見せ、馬車の着陸地点を確保し始めた。


 水のドームの一部が空いて、ゆっくりと弧を描く様に穴へ馬車が進む。

 そして、ドームの内部へと入り、馬の脚と車輪が地面へと着くと、そこで馬車は止まった。


 私は馬車の中で少し待つように言われ、先にルインが外へと出る。

 その彼女から「まだ気を抜くな!」といった感じの無言の圧力が発せられ、一瞬にして周囲の空気が引き締まった。


 そこへ現場指揮を執っていたらしき、一人の人物が、金に輝く髪を靡かせ歩いてきた。

 その人は、ドレスと見間違うかの様な煌びやかな鎧に身に纏い、身の丈を超える水晶の槍みたいな物を軽々と片手で持ち、ルインの方へと歩いてくる。


 一瞬、誰だか分らなかったけど、セレイナママンだ。


 ママンは王城での装いとは違い、まるで戦乙女とでもいった感じの装いをしていたので、最初ママンだと気が付けなかった。


「やっと来てくれたのね。ティアルは馬車の中?」


「はい。今の所、体調も問題ないご様子です」


「そう、それは良かったわ。それで、あの初代様のゴーレムの回収は可能なの?」


「それに関しては問題なく行えるようです」


「それも吉報ね……。だめそうなら、リカルドと第二近衛の者達で城まで空から運ぶか思案してたところだったわ」


「詳しくは馬車の中で、姫様達からの説明を受けていただきたいのですが……ボリス王はどちらに?」


「男性陣はあっちよ」


 若干あきれ気味なママンの視線の先には、初代様のゴーレムをキラキラとした眼差しで見上げながら談笑をしているパパン達の一団があった。


 パパンや貴族っぽい豪奢な衣装に身を包んだ人達は、初代様のゴーレムの大きさや力強さを感じ取る様に羨望の眼差しで見上げ。

 装甲の厚さや重さを確かめる様にペタペタと触り、機体に刻まれた傷跡を撫でては過去に行われた戦いに思いをはせる様に溜息をもらしている。


 うんうん……わかる、わかるよ。

 私も、実物大で再現されたロボットの立像を初めて見た時は、あんな感じだったもん。


 冷めた反応のママンやルインとは違い、私も心情的にはあちら側よね。


 パパン達の様子を見たルインは、やれやれといった感じに少し頭を振ると、ボリスパパン達の所へと歩いて行った。



 しばらくすると、パパンとリカルド兄さんが、ルインに引きずられる様に馬車の方へと連れて来られた。

 そのまま、馬車の中で、回収の際の説明とミニチュアを使ったリハーサルを行う。


「――ふむ。手順としては分かった。それを私が行えばよいのだな?」


 と、キリッとした表情で話すパパンだが、先程の様を見た後だと、威厳なんかは微塵も感じられない。


「はい」


「よし。では、直ぐにでも始めてしまおう」


 テーブルをはさみ、セレイナママンとルインに正面から冷ややかな目で見られながら説明を受けたパパンは、ベディを受け取ると、そそくさと馬車を降りる。


 それに続いて、ママンとリカルド兄さんが出て行ったので、私も馬車から降りて、近くで巨大ゴーレム回収ショーを見ようとしたら、ルインから待ったがかかった。


「姫様は、馬車から出てはなりません」


「え……? なんでよ!?」


「ただでさえ微妙なお立場なのですから、群衆の目にお姿を晒すのはおやめください」


「そうかもしれないけど、一応とはいえ演出を考えた発案者として結果の確認は――」

 

「姫様の目であれば、ここからでも十分にお見えになるはずですよね?」


「――ぐぬぬ」


 それはそうだけどさ!

 こういう物は特等席で見たいじゃん!


 とは言えず、私はルインの監視の下、馬車の中でお留守番となってしまった。


 仕方なく、馬車の中から外を眺めていると、しばらくしてミアの水のドームの防護魔法が解除された。

 そこからは打ち合わせ通りに、ボリスパパンが目立つように初代様のゴーレムの正面に行き、手に持ったベディを高く掲げる。


 ここからの手順は、ベディが全て行うので、パパンは立っているだけでいい。


 掲げられたベディが眩く輝くと、事態を見守っていた群衆から、どよめきが起こる。


 そして座り込んだ初代様ゴーレムの下に、いくつもの光の環が広がり、その中が文字とも図形とも受け取れる図柄で埋め尽くされ。

 魔法陣風の円環が複雑に幾重にも重なり、光の輪の中でぐるぐると回りながら輝きを強めてから、重なりが解ける様に初代様ゴーレムに沿って登りはじた。

 それらが全体を包むと、さらに一際眩しく輝き、その光が薄れると、初代様のゴーレムはベディの収納魔法の中へと消えていた。


 こうして、街道のど真ん中を塞いでいた初代様のゴーレムが撤去されると、周辺を警備の指揮を執っていたママンや兵士の人達は、一様にほっとした様子を見せた。


 見ていた群衆の人達も、ド派手な収納演出に大盛り上がりの様子だし。

 即席で考えた割には、なかなかカッコイイ感じになったと思う。


「うーん……今度やる時は、これに効果音とか足してみても良いかもしれないわねぇ……」


「何ですか? 姫様?」


「いえ、なんでもないわ。それより、これで問題も解決したし。もうお城に帰っても良い?」


 これで無事に撤去も終えたし、私的には早く帰って、ルークスの修理とかもしておきたいのよね。


 ルークスの事は、気絶する前に、ミアに回収の事を頼んだはずだけど、ここには見当たらないし何処に運ばれたんだろう?

 破損個所の詳細や度合いも調べておきたいし、もしかしたらベディが収納してるんだろうか?


 今回の事で色々と改修しなきゃいけない点も見えてきたので、直ぐにでも修理と改修作業に取り掛かりたい。


「そうですね……私としても、姫様だけでも先にお帰ししたいところですが……もう少々お待ちください」


 だけど、どうにも事態が収拾したとは言い切れない様子がルインの顔を曇らせた。

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