第35話 空飛ぶ馬車

「良い考え……でございますか? 一応、お聞きしますが、何をなさるのです姫様?」


 うーん

 ルインからの信用が無さげな反応が痛い。


「えーっとね、実際に見てもらうと分かるんだけど、あのゴーレムを回収する魔法って見た目的は地味なのよね。ベディ、ちょっと、このカップを収納して見せてあげて」


「わかった」


 百聞は一見に如かず。

 ルインに説明するため、ベディに収納魔法を実演してもらう。


 私が飲み終えた空のカップが、フッと消えて収納魔法へと吸い込まれる様は、不思議な光景だけど派手さはない。


「これは……!? 教会が保管している神器に、膨大な量の物を入れておける鞄がありますが、あれと似た様な物でしょうか?」


 へー、そういう便利道具があるのね。

 過去の転生者さんの持ち物かなにかな?


「原理的には似た物だろう。私は、それを魔法で再現して使っている。クーゲルから預かっていたゴーレムも、この収納魔法の中に入れてあった」


「そういえばさ、ベディの消費魔力の話した時に、常駐魔法がどうとか言ってた気がするけど、もしかして、あのゴーレムを収納してた所為で多かったの?」


 話を聞いていて、ベディの収納魔法も、私の収納魔法が同じく魔力の常時消費型なのかが気になって訊ねてみた。


「その通りだ。今はティアルの物しか収納してないので、ほとんど魔力を消費しないで済んでいる」


「ほえ? 私の……? ホワッ!?」


 言われて気が付いた。


 私自身の収納魔法が停止している事に。


「も、もしかして、気絶した時に……?」


「ああ。おかげで回収に残りわずかだった魔力を使い、私まで休眠する事にはなったが、君の物は無事だ」


「……それは助かったわ」


 あっぶな……

 やはり魔力枯渇状態になると、その場で中身をばら撒く事になるのか。


 虚空に消え去ったりしなかったのは助かったけど、ベディが居なかったら最悪な事になってたわ。


「もしや、その収納の魔法を、姫様も使えるのですか?」


「え? ああ、うん」


 おっと?

 そういえば、収納魔法が使える事は、まだルインに言ってなかったかも。

 

「この前、ベディに教えてもらったの」


 という事にしておこう。


「私にもお教えしていただく事は可能でしょうか?」


「ルインも使いたいの?」


「いえ、多少は使ってみたい気持ちもありますが、近衛の役割として後学の為に研究が必要だと思いまして。この様な暗器を簡単に持ち運べる様な魔法は危険ですので」


 お、おう

 それは勉強熱心なことで……


「えっと……それはまた今度という事にして。見てもらった通り、あの初代様のゴーレムを回収するにしても地味過ぎるから。回収する時はベディが目立つ方向で、派手に演出する必要があるわけよ。だから、魔法で演出を加えようと思うの」


「魔法で演出ですか……? ベディさんを目立つように掲げて光らせるとかでしょうか?」


「そんな感じのも良いけど。こんな風にしてみれば、もっと良いと思う」


 私はそう言い、100分の1くらいのサイズの初代様ゴーレムをテーブルの上に作る。


 そして、幾何学模様で飾り付けた魔法陣っぽい物も光の魔法で作り、それをホログラムの様に何層かに重ねてゴーレムの下に配置。

 下から幾重もの魔法陣がせり上がる様にしてゴーレムを包み、最後の魔法陣が通り過ぎた辺りで収納魔法へと収納して見せた。


「これを、ベディが派手に光り輝きながらやってみせれば、見てる人達にもインパクトを与えるし、私というより、ベディの能力だって納得もさせられると思うわ」


 やっぱ、ロボットには派手な登場シーンだとか回収シーンの類は必要不可欠な物だと思うのよね。

 こういう気配りの込められた細かな演出が有るだけで、そのロボットの魅力がグッと引き立つのだ。


 そして、魔法物のロボットなら、ド派手な魔法陣を使っての演出は必須だと思うわけよ。


「なるほど……。無意味な魔法陣の積層集合ですが、ここまで多重に見せられると読み取りも難しい上に、意味がある様にも錯覚してしまいますね……。わかりました、この案で回収を行いましょう。ボリス王かセレイナ女王にベディさんを掲げてもらえば、王家の者のみが使える魔道具に因る物だと見せる事が容易になるかもしれません」


「でしょ? ……ん?」


 と、ルインへのプレゼンを終えて一息つく。


 すると、馬車が少し速度を落としたので、何だろう?と私は外に意識を向けた。


「うっわ……すごい人……」


 東門へと続く大通りが、人ごみで埋め尽くされ、馬車も速度を落とさざるを得なかったようだ。


 先導する騎士達が人々をどかして馬車の通り道を確保しようと頑張ってはいるけど、人の数が多すぎて、それもままならない。

 人々側も、この馬車が王家の物だと気が付いてはいるけど、避けるに避けれないといった感じで四苦八苦していた。


「これは確かに、早く何とかしないと大変そうね……」


 最初聞いた時は、比喩かな?と少し思ってたけど、本当に王都中の人が集まっているんじゃないかと思わせるほどの混雑具合だ。


「現状を、ご理解いただけた様でなによりです」


「急がなきゃいけないのは分かったけど、進めないんじゃ、どうしようもないわね……」


「ここからは空を行きますので、問題はございません」


「え?」


 と、私が疑問の声を上げると、ルインは御者に繋がる小窓の所へ行き、何か指示をして戻ってきた。


 すると、ゆっくりと馬車が坂道を登るような挙動をし始め、本当に空を飛び始めたのだ。


「お、おぉ……? お空を飛んでる……」


 地面から4~5mほどの高さではあるけど、人々の頭上を馬車が飛びながら走るという、なんともメルヘンな光景と体験だ。


 どういう原理で飛んでるんだろ?


 馬車に繋がれた馬達は、普通に地面を歩く様に足を動かしていて、まるで見えない道を進んでいるみたいに見えるけど……


「……なるほど。魔法で見えない道を作って、その上を走ってるのね。へー……」


 さすがに、お馬さんが魔法を使っているわけではなく、御者の人が空に道を引いているみたいだけど。

 それでも、空中の透明な道を、恐れる事も無く進む馬さん達も十分にすごい。


「空を飛ぶって、てっきり風とかを操ってする物だと思ってたけど、色々と方法があるのね」


「一般的には、この様な障壁を使って疑似的に空を駆ける方法が使われる事が多いですね。ですが、これは厳密には飛翔魔法というわけではございません」


「本物の飛翔魔法は、あまり使われてないの?」


「あまり得意とする者は少ない魔法かと。飛翔魔法はセンスが問われますので、本人の属性が飛翔魔法に適した物だとしても、戦闘レベルで使いこなせる者は稀です」


 ルインは、時折、こうして魔法雑学を語ってくれるのは助かるんだけど。

 ちょいちょい、戦闘を前提とした話し方をするのよね……


 私への教育の一環なのか、これが彼女の素なのか謎だわ。


「ふーん……今度、本物の飛翔魔法の使い手を見てみたいかも」


「それでしたら、リカルド王子にお頼みすればよろしいでしょう」


「リカルドお兄様に?」


「はい。リカルド王子は、既に熟練の飛翔魔法の使い手とも遜色が無いほどだと聞き及んでおります。それに、リカルド王子直属の第二近衛の者達も、王子の随伴に支障が無いよう、飛翔魔法の使い手を選抜して編成しておりますので、飛翔魔法に関して言えば、国の内外を問わずトップの集まりです」


「へー、そうなんだ」


 リカルド兄さんて、髪が黒だから闇属性の魔法が得意なんだろうけど。

 闇属性の魔法での飛翔ってどんな感じなのかしら?

 重力的な物を操るとか?


 火水風土とか光までは、なんとなくで使えない事も無いけど、闇に関しては、ちょっと感覚がつかめないのよね。


 こんど、飛翔魔法を見せてもらうついでに、色々とお話も聞いてみようかな?

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