第28話 冒険者ギルド
妙な注目を浴びつつ、冒険者ギルドのホールを進み、銀行の受付窓口の様な作りをしている所に行く。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件ですか?」
「依頼をしに来ました」
受付の向こう側には、きれい系の若い女性が何人か居て。
私が近くに行くと、その中の一人が笑顔で迎えてくれた。
「ご依頼でございますね。どちらかの商会の代理の方でしょうか?」
「いえ、依頼主は私で、私の護衛の依頼です」
「ご本人様の護衛依頼……ですか?」
「はい」
受付の人が少し戸惑っている。
まあ、この見た目じゃ、護衛する側にしか見えないよね。
「かしこまりました。詳しい依頼内容をお聞かせ願います」
「えーっと、少し急ぎなんですけど。今日、これから日没あたりまで、東門を出た付近の森を探索したいんです。それの手伝いと、強い魔物が出た場合の私の護衛です」
「これから……ですか? となりますと、現在、ギルド内に居る冒険者のご紹介しかできませんが……」
「できれば、中型以上の魔物でも戦える人がいいんですけど、そういう人って居ます?」
「はい、滞在しておりますので、その点は大丈夫です」
「ちなみに、紹介される人って、あそこで飲んでる人達とかですかね?」
ギルド内に居る冒険者ってことは、あっちの酒場で飲んでる人達よね?
こんな時間から飲んだくれている姿を見せられると、ちょっと不安なんだけど……
「ええ、はい……緊急のご依頼となりますと、そうなります。ですが、ご安心ください。2階などにも待機している者はおりますし、神聖魔法の使い手も居ますので、皆、直ぐにでも酔いを醒まして対応は可能ですので」
「なるほど。そうなんですか」
へー……
さすが魔法があるだけあって、酔っている程度では支障が出ない様になってるのか。
まあでも、そうでもないと、仕事場に酒場なんか併設しないか。
「それで、ご予算の方ですが……」
「ああ、えっと、大金貨50枚で」
「ご、五十枚!? え……? あの?銀貨の間違いではなくてですよね?」
あれ……?
もしかして多かった?
いや、でも、もう言っちゃったし……
別に少ない訳じゃなさそうだし、このまま押し通すか。
「ええ、はい。大金貨五十枚です」
「えっと……そうなりますと、依頼料に関しては問題ないのですが、そのぉ……ご依頼の目的とか、想定が――」
戸惑う受付の人を見て、依頼料は取り下げた方が良かったか?と頭を過る。
その時、私の背後から声が掛かった。
「おいおい、随分と面白そうな話をしてるじゃないの? アリーシアちゃん、その依頼、俺達に回してよ」
声のした方を見てみると、一人の男性が、お酒の入ったジョッキを片手に、こっちへ向かって来るのが見えた。
「あの人は?」
「あちらはAランクのクラン、ハシジェーロのリーダーを務めているジェロウムさんです」
近寄って来る男性の事を受付さんに聞いてみると、そう答える。
Aランクという事は強いのだろうか?
「どうも、ジェロウムだ」
「ルークスです」
「てっきり、あんたは同業者か、ここいらの兵隊さんかと思ってたんだが、まさか依頼人だったとはねぇ……。で、盗み聞きしてたみたいで悪いんだが、話は聞かせてもらったよ。あんた、護衛を探してるんだろ?」
「そうです」
説明が省けて助かる。
見た感じ、三十代前半といったところだろうか?
背は高く、引き締まった身体つきで、こげ茶のウェーブかかった長め髪を後ろで束ね、顔には多少の無精髭がある。
少し酔っているみたいな表情ではあるけど、歳と共に経験を重ねて来たという雰囲気が感じられる男性だった。
「それで、そこらの森を、あんたが散歩するのを夕方まで守り抜けばぁ……大金貨が50枚と? この条件で合ってるかい?」
「ええ、まあ」
「それは、随分と美味しすぎる話だねぇ――」
そう言った彼は、先程まで酒に酔っていたかの様だった表情を、一瞬で鋭い物に変えた。
「――何か裏があるんじゃないか?と、ギルドとしても、俺らとしても疑っちまう様な話だ」
こういう感じの人、前世でも、たまに見たわねぇ。
有能な中間管理職タイプで、敵に回すと面倒だけど、味方だと頼もしいって感じの。
「たとえば、あんたがヤバイ連中に命を狙われてるとか、そいつらをおびき寄せて、俺達に始末させようとか企んでるんじゃないか?とかさ」
ヤバイ連中では無いけど、追われてはいるかも?
でも、見つかったら見つかったで、別に、彼らと戦闘になる様な事は無いわよね。
「あー……なるほど。すみません、こう言った依頼をするのが初めてで、相場も分からなかったもので。不足のない金額を用意しただけで、そんな感じの物騒な事もないです」
「ふぅん……まあ、それならいいさ。それで、森に行く目的をお聞かせ願いたいんだが?」
「それは、魔物と戦うため、ですかね」
「魔物と……? 言っちゃなんだが、あんたのそのなりなら普通に戦えそうに見えるが? どうしてまた、護衛なんかが必要なんだい?」
「保護者がうるさいもので、条件を出されたんですよ。中型以上の魔物を倒せるくらいの護衛でも連れてかないなら門の外には出るな、と」
「そりゃまた、随分と過保護な保護者さんだ……」
今回は味方として動いてもらいたいので、出せる情報は出した方が、こういう時はスムーズに進むはず……
一応の説明で、ほんの少しだけ表情が和らいだみたいだけど、まだ疑いの方が強そうな感じね。
でも、そんな中で、損得勘定も考えている風でもある。
「いいですぜ。その依頼、俺らが引き受けましょう」
お?
どうやら、得の方へと、彼の中の天秤は傾いたようだ。
「ジェロウムさん、お受けになるんですか?」
「いいじゃないの、アリーシアちゃん。こんなおいしい話、見逃す方がどうかしてるってもんさ」
「ですが……」
「まあまあ――だが、条件が二つある。一つは前金で大金貨を10枚。もう一つは、人が襲ってきた場合、俺たちは関与しない。この二つだ。どうだい? ルークスの旦那?」
ジェロウムさんは受付さんをなだめると、指を一本一本立てて条件を言った。
受付のアリーシアさんは反対気味な様子だけど、彼の方は、この条件を飲めば受けてくれそうね。
でも、まだ彼の実力が分からないのが、こっちとして頼んで良いのかの判断が付かない。
「その条件は問題ないですけど、そちらが私の条件を満たしているかが分からないんですが?」
「ん……? そちらの条件てーと……ああ、中型以上の魔物を倒せるかって事か? それなら大丈夫だ。俺たちはAランクのクランだからな」
「ジェロウムさん、ジェロウムさん。王都だと冒険者は、あまり有名じゃないんですから、ランクだけじゃ伝わりませんよ?」
受付さんが私の知りたかった事に注意を飛ばしてくれて助かった。
ランク分けされてる所までは分かるけど、私には、その内容が不明すぎる。
「おおっと、そうだったなぁ……あーっと、ランクってのはあれだ、俺達の実力の階級だな。ランクを決める条件は色々とあるんだが、戦闘面の条件の中に、どの程度の魔物まで倒した事が有るかってのがある。俺のクラン、ハシジェーロはAランクで、クランでなら大型の魔物も倒したことがあるって事だ」
「クランってことは、それなりの大人数なんですよね? 個人個人の実力とかランクってどうなんですか?」
「個別で言うなら俺はBランクで、実力は複数の中型の魔物を倒せるくらいだ。メンバーの平均はC辺りだな。Cでも1人で単体の中型の魔物を倒せる実力は持ってるし、実績もあるから安心して任せてくれていい」
なるほどなるほど……
彼らなら大丈夫かな?
「(どう思う、ベディ?)」
「(彼の言が本当なら、中隊規模の騎士団と同程度の実力はあるだろう。私の見立てでも、同様の実力はある様に感じられる)」
なら、彼らにお願いするか。
「それじゃ、よろしくお願いします。ジェロウムさん」
「オーケー、了解だ。ルークスの旦那」
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