第12話 装備の違い
少し気が滅入る教育方針が決まり、兵士達の訓練場からの帰り。
その道すがら、城内を警備する人達の姿をみて、ふと疑問が湧いた。
「そういえば、少し気になった事があったんだけど」
「気になった事?でございますか?」
「訓練してた人達の装備の違いがね。新人の人達の方は皆同じだったけど、鎧を着こんでる人達が二組に分かれてたじゃない? 鎧とか武器もだけど、二組の装備が大きく違う様に見えて」
「ああ、あれは所属先によって装備と訓練内容が違うのです――」
そう語るルインの言によると、王都や領地の内部を守る予定の者達は、所謂、西洋のフルプレートアーマーみたいな見た目をしていた組の方で。
関節部なども隙間なく覆うタイプの全身鎧を身に纏い、片手剣と小型の盾を基本装備として、主に対人を想定した訓練をしていたそうだ。
そして、もう片方のグループは、城壁の外で街道の巡回を主な任務とする者達らしいのだけれど。
そちらはファンタジーゲームに出てくる様な、身の丈を超える大剣や大盾を装備し、着込んでいる鎧なども印象が大きく異なる形をしていた。
なんというか、鎧の各部パーツは大きく頑丈そうに作られているのに、顔面部や関節の内側など、動きを阻害しそうな箇所は無防備なままで。
街中の衛兵予定の人達と比べると、装備のバリエーションも豊かだった。
「想定する相手が人と魔物で、あそこまで装備が違うのね」
「人は狡猾で、ずる賢く戦いますので、積極的に人体の弱点を突いてきます。ですので、街中などの治安を守り、主に人相手にする者達は、弱点となる箇所を的確に守る装備が必要となります」
「魔物の場合は?」
「脅威となる魔物の大半は中型から大型の魔物です。そういった魔物は、わざわざ人間の弱点なんて狙ってきません。圧倒的な力で攻撃してきます。ですので、前衛を務める者は魔物の攻撃を完全に防ぐか、完全に避けるかの能力が要求され。中衛の者達は、臨機応変に対応するため、身軽に動けなければいけません」
なるほど。
かなり軽装なのに肩や膝部分だけゴツイ装備をしてたり、ビキニアーマーみたいな装いの人達が混じっていたのは、役割で装備の機能も形も違うからなのか。
ロボット物でも、リアル系の作品の機体は、役割によって装備や外見が大きく異なる物も多いし、納得の理由ね。
「対人の装備との大きな違いは、咄嗟の回避を阻害しない様、視界は広く、関節部などは動きやすく作られ。攻撃を受けやすい箇所や致命傷になりうる所は、衝撃を受け止めやすく、受け流しやすい形を意識して作られています」
「ふーん、色々と考えられているのね」
「民草の中にも魔物を狩る事を生業としている者達もいますが、おおむね似た様な装備をしておりますね。王国支給の装備では、最悪、魔物の攻撃を受けたとしても一撃で即死しない事を旨としておりますが」
「即死しない事って……重傷を負った時点で詰みなんじゃ?」
「手足の一本や二本やられたとしても、死んでいなければ問題はありません。治療魔法を受ければ、大抵は助かりますので。負傷しても、自身で退避できる状況なら即座に後退する様に訓練を重ねてますし。中衛担当の者達も動けなくなった者を即座にサポートし回収して、後衛の治療師へ受け渡す訓練を重点的に行っております」
わぁお……
魔物の恐ろしさもだけど、治療魔法を前提とした戦いって、そこまで覚悟のガン決まった戦闘方法になるのか……
「訓練中に死者が出る事は稀ですが、意図して重傷を負わせる事もします。傷を負った者を即座に戦線復帰させる治療師の訓練も重要です」
「えーっと……その訓練て、私もする事になったり……?」
「それは、姫様の戦い方や戦闘での立ち位置によります。一応、ご希望をお聞きしておきますが、前衛か中衛をお望みですか?」
「後衛にしとくわ……」
「それがよろしいかと」
巨大ロボに乗ってるとかならまだしも、生身で化物と肉弾戦なんか御免被る。
RPGゲームとかで遊んでた時は、タンク役をガンガン前に出してヒーラーで回復してとか普通にやってたけど。
リアルで、同じ目にあいたいか?と問われる事になるとは……
ファンタジーの世界って怖い。
「王族や高位貴族の方々の役割は、後方からの高威力魔法での攻撃がメインになる事が多いですから。姫様も、体力が付き次第、後衛の立ち回りを学んでいただく事にしましょう」
「うん……そうして」
お城の警備や、すれ違う兵士の人達も、壮絶な訓練を潜り抜けた猛者達ばかりなのかと考えると、見る目も変わって来るわね……
「兵士の人達も大変なのね……あ、そうだ。装備の話に戻るけど、城内を警備してる人達って、訓練してた人達と比べると軽装過ぎるんじゃない? 城内なんだし、もっと、こう、全身を覆うタイプの鎧とか着ているものなんじゃないの?」
お城の中なんだし、対人を意識した装備になると思うのだけど、その割には、胸当て程度の防具に、短めの剣くらいしか携行していない。
人によっては武器さえも持ってない有様だ。
「城内は主に、我々、近衛兵の管轄ですので。王や女王の護衛として外に赴く時以外は、この様に、私も基本的には軽装です。常に完全武装の者が傍に居ては、王族の皆様も気が休まりませんし。近衛の者は、全員、徒手空拳でも中型の魔物程度なら――」
んんん?
「ちょっとまって。今、我々、私って言った?」
「左様でございますが?」
「もしかして、ルインも近衛の人なの?」
「はい……? ああ、役職でございますか? 私は、王より近衛騎士団の団長を拝命しております」
うん?
近衛騎士団の団長とな?
「えーっと……ちなみに、たまに私の世話をしてくれる、ミアさんとか、アビーさんとか、お部屋の待機部屋に居る人達って?」
「ミアとアビ―は、私の直属、第一近衛騎士団の所属となります。姫様と接する他の者達も同様です」
ふーん……
皆、メイドさんとかじゃなかったんだ?
完全に勘違いしてたわ。
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