第21話 眠り姫
搭乗型ゴーレム試作1号機を、ゆっくりと慎重に歩かせ、やっと城の外に繋がる扉の所まで来た。
途中で、絨毯を破り、柱の装飾に罅を入れ、花瓶とかテーブルやらを破砕したけど……
これ絶対、パパン達が帰って来た後で怒られるな……
「本当に大丈夫ですか姫様? 心配になってきました……」
「大丈夫よ。少し外を散歩する様なもんだから」
まあ、もうやっちゃった物は仕方ない。
怒られると覚悟をしておけば腹も据わるって物だ。
あと、怒られる時は、おそらくミアも一緒よね。
本人は気がついて無いみたいだけど……
「あまり、兵士さんとかと会っても、近寄っちゃダメですよ? バレたら大騒ぎになりますから」
「大丈夫よ。それも考えて外装をお城の兵士達の鎧に似せたんだから」
話でもして声を聞かれたりしなければ、ぱっと見は大柄な兵士が鎧を着ているだけにしか見えないはずだ。
「あとあと、城壁の外も行っちゃダメですからね」
「分かってるって。これの操縦訓練がしたいだけだもの。城壁の外なんかに用はないわ」
「ミア殿、もしもの時は私もいる。安心してくれていい」
「お願いしますねベディさん。2~3時間したらお迎えに行きますので」
そう言うと、ミアはお城の中へと戻って行き、私は扉を開け意気揚々と外へと出た。
城内の道中で、多少は操縦のコツみたいな物は掴めた。
感覚的には、操ると意識するより、自分の体だと思って動かす方が、動きも反応も良い感じになる。
それと、お城の中を歩行させていた時は気が付かなかったけど、地面の上を歩いて初めて気が付いた事がある。
地面て、柔らかい……
別に雨上がりで、ぬかるんでるとかでもないのに、機体が重過ぎる所為か、歩くたびに足が沈み込む感じがした。
石畳の部分を歩いていても、たまに石にひびが入る音がするし。
やっぱり、こうして実際に動かしてみないと分からない事って多いわね。
「とりあえず、歩かせる事には慣れて来たわね」
「それは何よりだ」
「この狭いコクピットの中から肉眼で見る景色も悪くないわ」
「それは、ただ視界が悪くなるだけだと思うのだが」
機体の首元の装甲には、私の頭部の高さに合わせた飾り穴が設けてあり、そこから肉眼でも外が見える様になっている。
見える範囲は狭いし、胴体を動かさないと見たい方向も見えないけど、これはこれで面白い。
ロボット物のゲームにもあるけど、コクピット視点という物は、無駄にワクワクさせる魅力があるのだ。
そんな事を思いながら、覗き見える景色を楽しみつつ歩行を続けていると、直ぐに訓練場へと到着した。
「やっぱ、歩幅が大きいから、歩く速度も私とは段違いね。さてと、せっかく広い所に来たんだし、次は走らせてみよっと」
「最初は速度を上げすぎるなよ」
「はいはい、わかってるって」
闘技場の中を走り始めて何分が経っただろう。
「うふふふふふ……いいわ! これよ!これ!!」
魔力は使うけど、いくら走っても息切れはしないし、疲れも無い。
脚部の装甲とフレームを通して伝わってくる、力強く土をえぐりながら走る振動がたまらない。
求めていた感覚を味わえて、私の体まで力が漲る様だ。
そんな高ぶる気持ちに任せて走っていると、いつの間にか数人の兵士らしき人達が訓練場の一角に集まっている事に私は気が付いた。
少し速度を緩めて見てみると、ボーリングの様な球をぶつけ合う、妙な球技で遊んでいる様子だ。
「ほう……まだ、あの遊びが残っていたのか」
「知ってるの?ベディ?」
「クーゲルが、こちらに持ち込んだ遊戯だな。たしかボーリングという遊戯とビリヤードを組み合わせたとか言っていたが」
「へぇ」
言われてみると、そんな感じのルールみたい。
番号の振られたボーリングくらいの鉄の球をぶつけ合って、地面に書かれている円に入れるのを競ってるらしい。
「よお! せっかくの休みなのに訓練か?」
ヤバッ!
近くを通った時に速度を落とした所為で声をかけられちゃった。
「(ちょ、どうしよベディ!?)」
「(私が君の声を変える。話をするだけなら大丈夫だ)」
え?
あんたそんな事出来るの?
それじゃ、とりあえず――
「え、あ、そう、だけど?」
ほんとだ。
私の声が低くなって男性の声っぽくなってる。
「お前も一緒にやるか?」
「いや、ルールが分からないから、やめとくよ」
「そうかい。にしても見ないやつだな? そんなフルプレート着込んで走り込みとか、熱心な奴だ。どこの所属なんだ?」
「あー、近衛騎士の見習い、だ」
「近衛かよ。どうりで見かけないし熱心なわけだ」
足を止めて、口からでまかせで答えてるけど、どうやら不審には思われていないみたいだ。
なんとか男の口調で受け答えも出来てるはず……
それに、落ち着いて考えてみれば、侵入者や不審者が訓練場で走り込みをしているなんて思いつくわけないか。
「城壁と外壁周りには駆り出されなかったのか?」
「え? ああ、まだ入って日が浅いからかな? そっちは?」
「俺達は、城の守りに残されただけだよ。と言っても、城壁と外壁は残った近衛と騎士団が固めてるし、城に残ってるのは眠り姫だけだって話だし、俺らは暇なもんだ」
「眠り姫……?」
誰それ?
「王女だよ。近衛のお前でも見た事ないのか? まあ、俺もまだ見た事ないけど」
どうやら私の事だったらしい。
「そろそろ3歳になるって聞いたが、病弱だから部屋を出る事も少ないって話だ」
「俺は見たぜ。この前、ここの観覧席に来てた時にチラッとだけど」
ついつい話し込んでいたら、他の人達まで集まって私の事で話をし始めてしまった。
「へぇ。どんなんだったんだ?」
「病弱で目が見えないって噂は本当らしいな。ずっと目を閉じてたし、近衛の団長様が付きっ切りで世話してたな」
「大丈夫なのかよ、その姫さん?」
「さあ? 俺に聞かれてもなぁ。髪は綺麗な茶だったから、戦いは無理でも、今度の遷都調査が上手く行けば何かの役には立つんじゃないか?」
「土木魔法でか? まあ、それなら目が見えなくてもやれんのかねぇ……で、お前さん、本当にやらんか? ルールなら教えてやるけど?」
私の噂って、なんか散々な内容ねぇ……
とりあえず、長く話してるとボロが出そうだし、誘いは断って離れよう。
「いや、やめとくわ。もう少し体を動かしたいから」
「そうかい? こっちの見習い共なんか訓練が休みになって、もろ手を挙げて街に遊びに出掛けてるってのに、熱心だねぇ。近衛なんか、こんな時でもないと息抜きもできないだろ?」
「そうかも。それじゃ、誘ってくれてありだとう」
「おう! ほどほどにして、お前も街にでも遊びに行って来いよ」
「ああ、分かった。そうするよ」
そう言い、私は小走りにその場を離れた。
「ふぅ……なんか、拍子抜けするくらいバレなかったわね」
「それはそうだろう。こんな鎧の中に子供が入ってるなんて発想は、そう思い浮かぶ物でも無い」
「それは、そうかもしれないけど……もしかして、このまま街に行ってもバレなかったりして?」
「何を言って――まさか、本気か?」
「ちょっとだけよ、ちょっとだけ。前々から行きたい所もあったし♪」
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