第6話 ガレージキット魔法

 何故だか、私の瞳の色をひけらかすと面倒になるという事を知り。

 それからというもの、目に頼らず物を見るという練習を始めてから早半年。


 私は1歳の誕生日を迎えた。


 魔力感知による疑似視覚に関しては、ほぼマスターしたと言ってもいい。


 最初の頃は、見たい物にピントや波長を合わせるのに難儀した。

 けど、最近では近くの物だけでなく家具の中身なども薄っすらと透視できる様にまでなった。


 まだ色や紙に書かれた文字などの判別は難しいけど、目よりも見える視界は広く、目に見えない魔力なんかも色々と見えて便利だ。


 そして、こうして特殊な視界を手に入れた事で気が付いた事が一つある。


 この世界の文明はそれなりに高い。


 部屋の照明や温度を管理する空調、お風呂などの給湯設備、そういった生活環境を整える設備がちゃんと存在するし。

 しかも、それらは電気では無く魔力で動作していた。

 文化的な部分も、紙製の本も普通に流通してるし、服飾に関しても悪くはない。


 さすがに電子機器の様な物は無いけど、総合的に生活の質が下がるといった事は無さそうだ。


 ま、それは良いとして。


 ある程度は自由に動き回っても怪しまれない年頃にもなったので、部屋の外へ探検に行きたいのだけど。

 それが、なかなか成功しないのが最近の悩みである。


 私が元気に育ったおかげか、ルインが日に1~2時間ほど部屋を空ける様になり、その時間帯が狙い目だ。


 でも、部屋の構造が問題なのよねぇ……


 ドアを開けても、メイドさんが常駐する待機部屋みたいな所に繋がっていて、脱走しても直ぐに確保されてしまうのだ。


「うー……」


「はーい、姫様。お部屋で遊びましょうねー」


 で、現在、脱走の現行犯で捕まり、部屋の中に戻されている最中である。


「そとー」


「お外はダメですよー。とは言っても、どうしたものかしら? 玩具やお人形には興味を示さないってルインさんも悩んでたし……」


 そりゃ、ぬいぐるみとか積み木を渡されましても……


 せめて対象年齢8才以上くらいのプラモか、合体変形する玩具を持ってきてほしい。

 それなら部屋の中に籠って、1週間くらい遊び転げるのもやぶさかではない。


「うーん……それじゃあ、こういうのはどうかしら?」


 私を部屋に連れ戻した青色の髪のメイドさんはそう言うと『水よ……』と唱え、私の目の前にいくつもの水の玉を作り出し、様々な動物を作り出した。

 そして、水で作られた動物達は、私を中心にメリーゴーランドの様に回り始めた。


「お……おぉー!?」


 これが魔法!?


 こうして魔法を実演されたのは初めてだ。


 ほー、へー……こうやってやるのか。


「もっと! もっと!」


「もっとですか? それじゃ、弟達に好評だったあれを。えーっと、絵本は……これが良いかな? むかしむかし、神様は大きな大きな木を植えました――」


 この絵本は、たしか『大きな木と大きな人』という絵本だったかな?

 前にルインも読んでくれた気がする。

 

 神様が居なくなった後に、残された大きな木を巡って人々が争い始め。

 その後、魔物が現れ、人々が大きな木の近くから散り散りに逃げ惑う事になり。

 最後に大きな人が現れ、魔物を倒して人々を救ったというお話だ。


 この国では桃太郎的にポピュラーな昔話らしく、部屋の本棚には別バージョンの絵本や小説が複数置いてあった。


 青髪メイドさんは、私に絵本内容を読み聞かせながら、場面に合わせて登場人物や大きな人と魔物との戦いを水で象って見せてくれた。


「――こうして大きな人は、助けた人達と共に大きな国を作り幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」


「おおー!」


 パチパチパチ!


 彼女が、どの程度の魔法の腕前なのかは分からないけど、その制御は緻密だ。


 使われている魔力量は多くは無いけど、手から細く伸ばされた魔力は、生み出した水の造形物を千差万別に変化させ、キラキラと輝く幻想的な世界を作り上げていた。


「もっと!もっと!もっと!」


「もっとですか? えーっと他の絵本はぁ……あ! ルインさん、おかえりなさい」


 もう一度、水を生み出すところから見せて欲しい。と思い、せがんでいると、ちょうどルインが帰ってきた。


「……ミア、あなた何をしているの?」


「え? 姫様のお相手をですが……」


「……とりあえず、こちらへいらっしゃい」


 ルインは、そう言うと彼女を部屋の外へと連れ出してしまった。


 なんだろ?


 青髪のメイドさん、ミアさん?

 彼女に相手をしてもらうのは不味かったのだろうか?


 よくわからんけど、とりあえず、私にも魔法が使えないか試してみよっと!


 詠唱に関しては必要なのかな?


 彼女は『水よ……』とだけ唱えていたけど、その後の魔法制御はイメージのみで行っていた様だった。


 それに詠唱時の時の声も奇妙というか……二重に聞こえた感じがしたけど、詠唱をするには何か特別な方法が?


 まだ、まともな発音も難しいし、詠唱も難しいかかも。


 どんな魔法を試してみようか……

 たしか、私の属性は土だとかなんとか言われていた気がするし、土か粘土みたいな物が出せないか試していこう。


「つちよー!」


 手を前にかざして、土よと唱え、あの水魔法を真似てみる。

 すると、土っぽい何かが中空に生み出され、ボトッと床に落ちた。


 思ったより簡単にできちゃったわね。


 触って見た感じ、普通に土っぽい感触と色だけど、地面を掘り起こした時の様な匂いとかはしない。


 もう少し色々と試してみようかな――



 ――なるほどね。


 生み出したい物と、作り出したい形とを、明確にイメージする事が重要っぽい。


 頭に浮かべる形が鮮明であればあるほど、生み出す物の精度は増す。

 生み出したい物の素材も、粘土みたいな物から石の様な素材まで変化が付けられる。


 これは――ガレージキットが簡単に作れる!?


 それを閃いた私は、向こうの世界で死ぬ前に作った数々の立体物と、山積みとなっていた箱を思い浮かべた。


 何から作ろう……

 鉄板としては宇宙戦士グンダムの初代主人公機が良いだろうか?


 リアル路線ロボット物の金字塔ともいえる初代グンダムの立体物は数多くあるし。

 シンプルながらも、デザイナーによってアレンジが加えられた魅力的な物が多い。


 私もプラモやフィギュアを含め、色々と触ってきたし、あの複雑すぎない形が最初に作る物としては最適な気がする。


 そう考えた私は、イメージを補強するため、視界の隅に『ロボ物見放題(レギュラープラン)』を呼び出した。

 そして、小窓表示で宇宙戦士グンダムを流しつつ、あの象徴的な頭部パーツを作り始めたのだった。

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