プロローグ:陽の入りの星 2
「さて、このゲームの中の、非常に広大な宇宙空間。
そこにはこの衛星コーサを含むような、銀河連邦共和国の首都近郊宇宙――とはいえ、半径数百光年もの領域をもつ広大な――インナースペースと呼ばれる空間。
そして俗に”黒暗宇宙”とも呼ばれる、この銀河のそれ以外の全てである、アウタースペースという二つの大別された空間が広がっています。
そうした二つの宇宙空間が、もちろん壁やなにかで覆っているわけではありません。しかし、そこには俗にグレート・ウォールと呼ばれる中立兵器群が存在し、インナースペースとアウタースペースを繋ぐ航路上への中立地帯も設けられています。
そこから先へ出たほかの星系では、自動的にPvPモードへと移行して、宇宙に出現する敵対エネミーも強くなってしまうわけですね。
さて、先ほど述べたプルーフ・オブ・プレイ。ゲームサーバを介した私たちの端末たちを結ぶ、Indra.netと呼ばれるブロックチェーン・ネットワークに、新たに取引記録と新規通貨が書き加えられると、その預かりは一時このゲーム運営会社のものとなり、サーバー内で自動管理されます。
そして私たちがそのアウター・スペース内で行った、資源採掘。ゲーム内での”マイニング”を行うと、この新規通貨がゲーム内リソースとしての呼び名、レア・エレメントというものをランダムに入手することが出来ます。
この、レア・マテリアル。この宇宙の星々からとれる稀少鉱物は、ゲーム内でも非常に重要なリソースなのですが、それがT.S.O.の首都惑星へと持ち帰られると、晴れて私たちは現実のネット上のウォレットへ、準仮想通貨レア・エレメント・ユニットREUとして入金することが出来ます。
そうしたゲーム内での戦いのためにもそのレア・エレメントが必要で、しかもその戦いによって破れると、持っていたレア……長いので、ここでは単にエレメントと言いますが——そのエレメントを奪われてしまい、しかもこちらが戦いの中で損傷した宇宙船や装備、それらの製造・強化に使った分の資源やエレメントもジャンクとして宇宙空間に残されてしまいます。
そういったわけで、こうした惑星上の歩兵戦闘ならまだましですが、大規模な宇宙空間での戦争となると、それなりの額が動くわけですけど……そうした大きな宇宙船などの所有にもゲーム内の税金が課されており、長期間その所有を維持したければ、稼いだ仮想通貨であるREUを運営会社に支払らう必要もでてきます。
……すこし、というかだいぶ難しそうですよね?
なんでもかんでもそのマテリアルが必要で、それを得るためのプレイヤー同士の戦いも、おそらく厳しいものでしょうし。
でもどうやらこのシステムによって、T.S.O.にはそうした複雑なゲームシステムを好むコアなゲーマーたちが挑戦し――その彼らが高価な装備や宇宙船の維持のために課された税金が、このREUという仮想通貨にヴァーチャル上ではありますが、法定通貨としての側面を持たせているとも指摘されています。
ええと、私もあまりわかってはいないんですが。私たちの現実のお金でも、租税貨幣論という貨幣論の仮説があります。
私たちの貨幣・現在のお金、べつに金貨や銀貨と言った貴金属貨幣ではない紙のお金になぜ価値があるのか……という疑問に対し、それが国が定めた税金に支払えるものだからだ、とういう説があるそうなんです。
日本でしたら土地、資産、自動車とか。私たちの生活で様々なことに税金がかかりますが、それは基本的には日本円・日本銀行券でしか支払えません。ですから私たちは、田畑でとれたお米や野菜・工場でつくった自動車やその部品などを、まず日本円で取引することでその土地や資産に課せられた税金を賄います。
もしこの税金とその支払い方法としてのお金という関係が無ければ、べつにそのお野菜や自動車の部品を、その人たち同士で物々交換していてもいいことになりますよね?
しかも、私達日本の場合では多くの材料資源やガソリンなどのエネルギーは、海外から買ってその製品を海外へ輸出しているわけですから、そうした交換のためのトークンとしての通貨はそのままアメリカ・ドルを使っていても便利さの上では変わらないはずです。
しかし現実には、所有や贈与・取引・資産維持等、私たちのそうした経済活動の段階には様々な税が課せられていて、それは日本円で支払うことが法律で定められています。ですから私たちは豊かな暮らしをするためにはまず、日本銀行券である私たちのお金を手に入れて、政府へ納税する。そして、そうしたお金が欲しい人がたくさんいるために、そのあまったお金によって他の人からサービスや商品を買うことが出来るわけです。
そしてつまりそのことが、このゲームとREUにも言えるわけで……そうしたREUのの”法定通貨”としての性質によって、それらが独立性の不完全な”準仮想通貨”ともよばれがらも、今非常に注目されている銘柄だという訳ですね。
——ああ、見てください。
ほら、この星の夕方になりました……だんだんと、空が朱く……。
綺麗ですよね。
私、この星から見る日の入りが好きなんです。何度も何度も、見たくなるくらい。いえ実際、今日もこの撮影の準備とかしてて、もう三回も見てるんですけどね……でも、飽きないくらい。
この衛星コーサは、だいたい一日が十六分。まあ、ゲーム内なんで時間変化はもともと早いんですけど。その十六分の一日を五百日くらいであの惑星の周りをまわって、その内四分の一くらいが、惑星の影に入ってしまう真っ暗な時期。
私は夜の季節って呼んでますけど。
あっ、そうです。じつはこのコーサという星は、私が一番初めに見つけたんですよ。すごいでしょ?
まあ……とはいっても、それほど珍しい事じゃない――というか、この銀河の殆どがまだ未発見の星だらけなんですけどね。
おおかた、航路と呼ばれるワープ範囲でつながった星と星の道は決まっていて、アウタースペースからインナースペース、そして首都惑星までのルートが共有されています。でもそこからアウタースペースの殆どの場所と、首都から航路へは繋がらないような星々は、だいたい未探索なんだそうです。
それに、この星系の星がみんな単なる木星型惑星か、このコーサのような山がない、つまり造山活動のないなめらかな岩石惑星だからかもしれないですね。
いえ、こうして見渡してみると、ほら。どこもきれいなんですけど……どうやらこうした造山活動、惑星中心部の熱活動がない星は、鉱物資源なんかがうまくまとまって地表近くにないみたいなんです。
そしてあの星のような巨大な重力を持つガス惑星・木星型惑星は、丁度いい大きさでないと資源採集が難しいらしいんです。
ですからここでは、あまり資源が無くてアイテムや装備が作れない。
でもほんとうに、ほんとうに綺麗な星なんですけどね。
ほら、あのすこし丸い地平線。
それにその先の向こうの、真っ赤な日の入り。
あんなにも、空が燃えて……とても——」
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