第3話:植物たちの星 1

 ええと……まず、そう。この配信がはたしてうまく出来ているのだろうかを、まず確認しなければ。


 ポッドの中から起き上がり、左肩にマウントさせていた仮想カメラ・ドローンを手に取る。両手で保持してその映像と、現実のネットへ配信しているライブ映像を確認。


 まずはしっかりと配信出来ているか、そして音声等カメラ映像など、しっかりそこに映っているか。


『――なんていうか……すごく緊張しています。心臓がすごくドキドキしていて……』


 :だいぶ緊張してる?


 :ポッドの中狭そう


 :なか暗い。これで飛んでくってこと?


 :カエデさん頑張れ!!


 配信の画面を確認すると、今からおよそ数分前。今まさにポッドへ入ったばかりの私の声と、視聴者からのチャットがちらほらと書かれている。


 今このカメラドローンを覗く私の姿は、こんなふうにさらに数分後に配信の画面に映るはずで。だから、今更このチャットに答えても遅いのだろう。


 そう考えると、もどかしいような、申し訳ないような気持ちは拭えない。それでも、こうして配信が行えていて、いつも動画を見てくれている人々からのチャットを見ると、驚くほどに自分が安心できているのだと気付く。


「ええ、どうやら配信は上手く行えているみたいですね。皆さん、チャットでの応援、ほんとうにありがとうございます」


 フッとそのドローンを目の前に浮かべ、一応のお礼とともに頭を下げる。


「ここはもうすでに戦場となっているはずですが、見たところポッドはかなり散らばって投下されていて、まだ時間はありそうなので、装備の確認をしていきたいと思います」


 これは、配信の向こうの皆に説明するというより、彼らを仮定して自分自身で改めて意識して確認するため。そして、自分を落ち着けるためでもあるのだ、と思う。


「こちらが、シールド装置。そしてこっちに、三つのシールドセル。肩に掛ける斜めのベルトと、それを下に止める腰のベルトでつながっていて、ここにホールドしたシールドセルを押し込むと……このようにベルトを通じて、このセルの中身であるメタマテリアル粒子が全身を包むように散布されます。散布された粒子は、シールド装置の発する電磁場によって私の周りを漂いつづけ、弾丸やレーザーなどの攻撃を受け止めてくれる仕組みです」


 頭の中で整理して、説明しながらそのセルを使用すると、小さなシューッというスプレーのような音とともに、周囲に半透明な膜のようなものが形成されてゆく。


 この散布されたメタマテリアル粒子は徐々に減少していき、その場に動かなければ2時間の間、運動などをして動けば延べ10分ほどで尽きてしまう。もちろん攻撃を受ければさらに激しく消耗し、無くなれば予備のシールドセルをまた押し込んで解放し、手動でシールドを張りなおす必要がある。


 基本的にはこのシールドの維持によって相手の攻撃を防ぎつつ、こちらも攻撃して相手のシールドを破壊する。正面からの撃ち合いでは互いに激しく消耗するが、もしも相手の隙を突き、倒した相手の未使用のシールドセルを手に入れられれば、このバトルロイヤルでは有利になるはず。


「それから、この腰のポーチには応急パックが四つほど、すぐ取り出せるようになっています」


 もちろんのこと、たとえシールドがあったとしても、必ずしも無傷のままで戦闘を終えられるわけではないだろう。それにいくつかシールドでは防げない攻撃、危険な現象がこのゲームには用意されており、いわゆるHPは応急パックによって回復するシステムとなっている。


 シールドセルも応急パックも、予備のいくつかをストレージの方に用意してあるが、それらはパックパックを一旦降ろし、落ち付いた状況でなければアクセスできない。


 簡易に持ち運べるそうしたリソースの奪い合いがこのゲームの歩兵戦闘の基本らしく、直感的にはかなり面倒なシステムとなっている。


「それと、サイドアームのハンドガン。ベルトの後ろに予備のマガジンが二個あります」


 右腿のホルスターから抜き出して、銃口を上に向け一度マガジンを抜いて弾を確認。スライドを下げて一発目を装填すると、またホルスターに収めてベルトで留める。いわゆる安全装置はないが、グリップセーフティがあるのでしっかり握りこまなければ暴発はない。


「あと、この胸のポーチに入っているのが、グレネードですね。スタンダードな破砕手榴弾で、ピンを抜いたあと投げてレバーを開放すれば、約4秒で爆発します。爆発の圧力だけでなく、中に入っているフラグメント、つまり金属片が飛び散って意外に広範囲に及びますので、投げたあとは物陰に隠れるか、その場に伏せて防御する必要があるようです」


 簡単な銃くらいならこのゲームを始めた時に試してみたし、前日にも確認した。しかし、こうした危険物は本当に扱うことが初めてで、使い方そのものは解りやすいが、注意が必要かもしれない。


 おそらく、シューターとは言ってもこうした補助アイテムをうまく使える人間が、本当に上手いゲーマーというものなのだろう。少なくとも、このオーディション大会中は、私も慣れておかなければ。


「――そして、最後ですね。これが今回の私のメインウェポンとなる、アサルトライフルです。予備のマガジンは、すでに見えていると思いますが、この胸のポーチに入っています」


 ポッドの横に置いておいた銃を取り、カメラの前に掲げてみせる。


 現実でなら、弾丸も含め数キログラムはするだろう。ほんとうにスタンダードな軍用のライフルと言った感じで、外装はかなりの部分が樹脂製っぽいが、ずっしりと腕に負荷が感じられる。VRなのでもちろんそれで疲れるということはないのだが、どうにも銃というものの重みがあるような気がする。


「以前皆さんに教えていただいた通り、なるべく扱いやすい小口径のものを選びました。この星では比較的重力が軽く、重い装備も持ち運びはしやすいのですが、慣性質量は変わらないため銃の反動自体は変わらない……ということらしいです。特に今回は私自身解らないことだらけにもかかわらず、種々アドバイスいただきありがとうございます。皆様の応援に答えるつもりで、もちろん私自身、精一杯頑張っていこうと思います」


 トリガー横のマガジンリリースボタンをグッと押し込み、ハンドガンと同じく弾薬を確認してはまた戻し、コッキングハンドルを引いて装填する。カシャンと中で機械的な動作がするのがこのライフル全体に伝わって、同時に遠くでタタターンッと銃声が聞こえ、余韻を残したあと、木霊する。


 音の調子からは、かなり遠いところであるとは感じられた。


 ただし、既に戦闘が始まっているのだと考えると、自分はすこし悠長にしすぎていたのだとも感じた。


「えっと、聞こえましたでしょうか? 今どこかで銃声がして……ここもすぐ他のプレイヤーに、見つかってしまうかもしれません。えっと、地図を出して――すでにフィールドの縮小予定範囲がこのように提示されているので、警戒しつつその範囲内へ向かおうと思います。皆さんおっしゃっていたように、今回はなるべく終盤まで戦闘を避けつつ、順位を目指していきたいと思います」


 半透明のホログラム地図をカメラの前に提示して、指をさして確認する。向こうからは反転したものにはなっているものの、私のやりたいことというのが、図としては問題なく伝わっているはずである。


 見渡すとこの星には意外にも凹凸があり、あちこちにはあの紫の森林、草原、あるいは苔生した大地が広がっている。ひとまずその地図上の一点にマーカーを置き、視界に表示されるARコンパスから目標をめざす。


 周囲を警戒しながらも、とにかく序盤はフィールドの縮小に追いつくことが、第一の目標であるらしかった。




 ——――——――——――——――——――——――——――——――


*作者より、作中用語の設定変更のお知らせ。

 作中のゲーム内資源の名称「レア・マテリアル」および、それを作中の仮想通貨として呼ぶ場合の名称「RMU(レア・マテリアル・ユニット)」の名称を、それぞれ


「レアマテリアル」 → 「レア・エレメント」

「RMU(レア・マテリアル・ユニット)」→「REU(レア・エレメント・ユニット)」


 へと変更します。詳細は作者近況ノートよりお知らせしておりますが、もし今後作中の文章(この話以前の話数のものも)で旧名称を発見した場合。応援コメントなどで指摘して頂けると助かります。

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