第5話:ミズキの部屋 2
「えっとじゃあ、次の質問ね? カエデは今そのT.S.O.で、なにを頑張っているんだっけ?」
:お金儲け?
:対人戦?
ミズキからの二つ目の質問。
これも普通に自分の今まで行ってきたことを説明するものなので、込み入ったものにはなるけれど、構造自体は簡単なものだ。
「ええと、それはなにから話せばいいか分からないんですけど……今いちおう皆さんに言える目標は、このゲームの大手ギルド「鷹の旅団」さんというところの開催してる公開オーディションに参加して、それを頑張らせてもらっている、ということです」
:ギルドの面接みたいなもん?
:ギルドの公開オーディションって何ぞ?
「まあそうだよね。どうしてその「鷹の旅団」ってところは、そのオーディションをやってるの?」
これも想定されていた質問だが、考えてみると妙なものだろう。なぜオンラインゲームのプレイヤー集団が、わざわざそんなものを開いているのか。
「えっと、それはこのゲーム――T.S.O.では先ほど説明した通り、現実の仮想通貨としての価値を持つ資源をプレイヤーたちが奪い合う、宇宙戦争がテーマとなるゲームです。それら戦争の舞台や勝ち負けは、もちろん仮想のものですが……」
「でも負けちゃうと、お金になるはずだった資源を奪われちゃう?」
「そうなんですよね。ですからこのゲームのギルド運営は、現実の投資とか企業運営みたいな面を持っていて、大きなところになるとゲーム外のスポンサーや出資者が存在している場合が多いんです。だからオンラインゲームのギルドといっても、現実の会社の様に信頼ある振る舞いが求められている……みたいな感じです」
:ほうほう……なるほど理解?
:うんうん、金出す人がいるならね
「ようするに、ゲームとはいえ損得が発生するから、会社みたいにしっかりした人を選ばなきゃいけないんだよね。でも、どうしてそれで公開オーディション? 信頼が重要なら、べつに裏で採用していてもいいよね」
「……ええと、それで。そのギルドの戦争によって、そうした有価なNFTノンファンジブル・トークンであるレア・エレメント資源は奪い合われるのですが。その価格そのものは、現実の人たちがそれを仮想通貨として期待して、皆が欲しがるからうまれるものですよね?」
今すでにある、仮想通貨。ビットコインやネム、イーサリアムといった仮想通貨は、すでにかなりの年数取引されてきた実績があり、信頼が高い通貨である。一方で新規の銘柄の仮想通貨はそうした信頼が形成されていないか、あるいはあったとしても、それら既に信頼のある仮想通貨以上には人気の得られない場合が多い。
:お金になるならとりあえず欲しいけど?
:T.S.O.の通貨REUは、比較的新規の野心高い投資家には注目されている一方、システム上の懸念点から保守的な投資家やゲームそのものに偏見がある人にはまだまだ信頼を得ておらず人気がない。ミズキさんの言っていた”ゲーム内総額3000億ドルのVRMMO”というのも、あの当時のピークの価格でゲーム内に保有されてるREUを試算したもので、実際にはまだまだ価格は低く、安定していない通貨だとみなされている
:NFTって仮想通貨なん?
「うーん、ちょっと……言葉が難しいかな? もうちょっと、簡単に説明できない?」
「ああ、ごめんなさい……ええと。つまり言ってしまえば、T.S.O.は公式でRMT(リアル・マネー・トレード)を行えるゲームなんです。装備やアイテムをゲーム外で売り買いできて、そういう取引をゲーム自体が認めている。でもそうしたアイテムの価格って、ゲーム自体の人気で大きく変わってしまいますよね?」
:RMTむかし流行ったわ。なんかソシャゲのアカウント、オークションサイトとかに出品されてた
:なーほどね
「そういうわけで、T.S.O.のギルドである「鷹の旅団」さんは――もちろん自主的なものだそうですが、このゲーム自体のPRも兼ねて、公開オーディションという企画を行っているそうです」
正直なところ、こうした仕組みというのは私自身で、いまだによくわかっていない。
単にRMTが許可されているゲームというのなら、そのあくまでゲーム内資源であるはずのREUは、そのプレイヤーにとってしか価値がないはずだ。
たしかにプルーフ・オブ・プレイという仕組みによって、このゲームのアイテムや資源が、取引に瑕疵のないNFTとしても扱えることはわかったが、それが彼らの言う”準仮想通貨”つまりお金として使えるというのは何故だろう。
その事を考えると、そもそも仮想通貨というものが良く分からないものだし、どうやらその疑問点というものは、私たちの使う日本円という通貨とも実は共通したものらしい。
お金というものは、お金として取引されるから価値がある。
このトートロジー以上の説明は、仮想通貨であれ現実のお金であれはっきりしたものは出てこなかった。あの動画で自分も半信半疑のまま説明した”租税貨幣論”のようなものであっても、つまりお金そのものという概念があって、政府がその税法とお金というものを設定するから価値が生まれることになる。
ここでも結局はまた、政府がそれをお金と呼ぶからお金になるのだ、という以上のものとは言えないのではないか。
「これである程度、みんなにも分かったかな?」
「ど、どうでしたでしょうか……?」
:わかった
:理解、理解
:まあ、わからんでもない
なんとなくと言った感じのチャットがちらほら流れるが、本当のところはどうなのだろう。ミズキは横でうんうんと頷いていて、ただそのコメントの流れる速さを見ているようであった。
私としても、憶えている限りの説明を一通り言い終えたという安堵で、もうミズキの当初の問いが何だったのかさえあやふやになってきている。マイクに向かってほんの何回かのやり取りをしただけで、すでにかなりの時間が経ったような感覚さえ抱き始めていた。
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