第5話:ミズキの部屋 1
『あ、あーっ! はい。みんな、声聞こえてる~?』
:こんち
:こんちゃ
:こんばんは
:キタ――(゚∀゚)――!!
:コンミズキ~
:こんばんは~
:こんばんは。おじゃまします
『こんばんは。はい、ミズキです。みんな来てくれてありがとう。それから変な挨拶、流行らそうとしないでくださいね~! 私のところでは、そういう文化はありません!』
:いや、それでも俺はコンミズキを言い続ける……
『いや、やめてくださいって。さてそれよりも、今回タイトルにも書いたと思いますが、以前から話していた例の私のお友達。そして今とあるオンラインゲームで活躍している、ゲストを呼んでいきたいと思います——』
***
黒く滑らかな、大きなレンズのWEBカメラ。
機械的なアームで伸ばされた、割合に本格的なコンデンサーマイク。
私はいまミズキの部屋の中に呼ばれ、そして彼女の配信「ミズキの部屋」に呼ばれている。
「――ゲストを呼んでいきたいと思います。それでは。ようこそ、ミズキの部屋へ~! わーい、ようこそ~!」
「え、えっと。皆さんこんばんは。以前からミズキの方で既に紹介されていたようですが、私ミズキの高校からの付き合い……の友人で、イマハラ、今原カエデといいます。現在「T.S.O.」というゲームに関連する動画活動をしています。よろしくお願いします」
わーっと、小さく両手を振って見せているミズキの隣に、同じように片手をわきで振りながら、すこしお辞儀をしてちょこんと座る。
正面のモニターの向こうには、いろいろなコメントをしてくれるミズキの部屋の視聴者のチャットと、リアルタイムに肌や目の大きさの補正を受け、盛った自撮りの中の様な私たち二人の顔が映っている。事前にどれくらい盛るかとは聞かれたものの、改めて見ると本当に自分の顔かと思うほど、キラキラとさせすぎているような気がした。
ただしミズキが言うのには、少なくともこれぐらい加工しておかなければ、裏で小うるさい指摘をしてくる視聴者や、リアルでのバレのリスクもあるらしい。
下手に加工を抑えてそうした余計な人たちに注目されるより、盛りすぎで自意識過剰な配信者の一人でいたほうが、ずっとスムーズに行くらしかった。
「も~、カエデ固いって。さっきからなんか、緊張してる?」
「えっ、いや。そ、そんな……キンチョウ……とか、してない……よ?」
:なんで疑問形?
:めっちゃ緊張してるw
:カエデさんの生身初めて見た。ホントアバターに似てますね?
「あっ、カエデの動画のファンの人? 今日は来てくれて、ありがとうね」
:カエデさん可愛い
:可愛いw
「えっ、いや。そんな、私は……」
「もーっ! お前らカエデにナンパすんな。確かにカエデは可愛いけど、これは私んだからね!?」
とカメラの前で、これ見よがしに抱き着いてみせる。べつにミズキのスキンシップは珍しくはないけれど、今日のは普段以上に堅くなってしまう。
そもそもこうした配信では、配信者側は何を見て話すのが普通なのだろう。
カメラだろうか、画面なのだろうか。あまりチャットの文章ばかりに目を取られすぎるのはいけないと言われていたけど、そういえば、じゃあどこへ視線を向けたらいいかとはあらかじめ聞いてはいなかった。
当たり前だけど、ミズキは自分の部屋でほんとうに自由に振舞っていて、私はどうしたらいいのかわからなかった。
「それじゃあ。今回はゲストであるカエデに、私からいろいろ聞いちゃおうかな? いい?」
「お、お手柔らかに……」
「ええ~、どうしようかなぁ?」
ミズキはカメラの前に並んだ私に、横目で意味深な目線を送り、ニヤリと笑う。
「それじゃあ、一つ目。まずは、カエデが今頑張っている、T.S.O.ってどんなゲームって聞いてみようかな?」
:聞いたことあるかも
:あの宇宙のやつだっけ?
「えっと、はい。そうです。その宇宙の……ええと、T.S.O.つまりトワイライト・スペース・オンラインは、とある銀河での冒険や、そこで得た貴重な資源を巡るプレイヤー同士の戦いをテーマにしたVRMMOゲームです」
「ほうほう、ある貴重な資源を……?」
「そうですね。そうした宇宙にある貴重な資源、それはレア・マテリアルと呼ばれていて銀河の危険な場所にあるんですが。なんと、その貴重な資源を銀河連邦の首都へ持ち込むと、現実で取引可能なRMUという準仮想通貨として、自分のウォレットに送金することが出来るんです」
「前に話題になってたやつだよね。”ゲーム内総額3000億ドルのVRMMO”って」
:3000億ドル!? すご……
:なにそれ? 儲かる話??
「えっと、なんていうんでしょうね。プレイヤーがこのゲームをやることで、そうした仮想通貨の安全な取引を行うことが出来て、ゲーム内ではその通貨のマイニングが行える……という感じです。プルーフ・オブ・プレイという仕組みらしいですが」
上手く説明できているのか分からないが、ミズキの合いの手もあって話としては進んでいる。もっともこれはあらかじめ想定していたやり取りだが、改めて言葉にしていくと難しいと感じる。
いちおうチャットでは様々な反応があり、伝わってはいるようであるが。
「プレイヤーがゲームをすることで、仮想通貨のマイニングが……?」
:ゲームで遊んでればビットコインみたいなの儲かるん?
:すご、オレもやろうかな
「ただいろいろと難しいのが、そうしたREUつまりレア・エレメントという資源はゲーム内でも重要な資源なんですよね。プレイヤーはそのレア・エレメントで宇宙船とかを強化して、またそれを宇宙から掘ったり守ったりしなきゃいけないんです」
:ほんとに戦争してるみたいね。金でぶん殴ってお金を奪う・・・
:勝った奴らが総取り
:すごい世の中になったもんだなぁ
:あー、T.S.O.って結構高いVR機器要求されるゲームだっけ?
:調べたらマジか、カエデさんVR何使ってます?
「あ、えっと……私はCLLのMorpheus-4000ってモデルですが、結構その……」
「えっ……あ、ああ。カエデ結構あのときは思い切ったよね。VRはじめたって聞いて、私も調べたらびっくりしちゃった。それじゃあ、次の質問いいかな?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます