第2話:戦いのはじまり 1

 ——だいぶ時がたってから、これらの僕の主人が帰ってきて、彼らと計算をしはじめた。すると五タラント渡された者が進み出て、ほかの五タラントを差し出して言った、『ご主人様、あなたはわたしに五タラントをお授けになりましたが、ごらんのとおり、ほかに五タラントをもうけました』。主人は彼に言った、『良い忠実な僕よ、よくやった。あなはわずかなものに忠実であったから、多くのものを管理させよう。主人と一緒に喜んでくれ』——


「マタイによる福音書(口語訳)」第25章 19-21節




『さて、いよいよ始まります。鷹の旅団、新人選抜バトルロイヤル。第一回戦! 実況は私、鷹の旅団特別広報を務めさせていただいております、皆さまお馴染み、マイキーです! そして、解説はこちら――』


『皆さん、コンニチハ。ステファン・コルビヤノフです』


『はい、こんにちは。ええ、ステファンさんは普段センター・ストライク等、VRシューターのe-Sportsのプロとしてご活躍していらっしゃいますが。MMOであるT.S.O.などは、遊んだことはおありなんでしょうか?』


『はい、もちろん。プロとして普段から私は、様々なタイトルには触れるようにいしていますよ――なかでも稀少な資源をめぐり、様々な星を探索するこのT.S.O.は、意外にも地上でや宇宙コロニー内での歩兵戦闘もよくできていると評判です。彼らに聞くまで、私自身このゲームが宇宙船同士の戦争やメックによるバトルばかっりのものだと思っていて、その時は少し自分を恥じてしまいました』


『いやあ、ありがとうございます。最近はこうしたVRオンラインゲームも、一種のメタバースとしてのデザインも非常に重視されるようになりました。そのようななかで、VR中の身体制御や感覚の直感的なシンクロを体感できる、シュータースポーツとしてのプレイ感覚は一つの重要な指標となっていると思います。ステファンさんとしては、そのあたりは……?』


『そうですね。まずT.S.O.は、PoPというユニークなゲーム外システムで有名ですが、そのあたりもあって最新のVR機器に対するサポートが非常にしっかりしていますね』


『ええ。生体認証によるbot等チート対策は、我々も非常に気になるREUの価格、ひいてはゲームの収益につながります。実際、運営であるスペース・モンキーもかなり力を入れてアップデートを繰り返していますね』


『ですからそうした事情もあって、特にVR上での身体リンクはかなり高精度。私が普段プレイするようなゲームと何ら遜色はありません』


『おお。プロからもお墨付きが!』


『加えて、フィールドの多くが地球とは異なる様々な宇宙環境というのも、非常にユニークです。このゲームには様々な口径、弾の種類、初速などのステータスを持った銃、さらにはビーム兵器のようなSFガジェットも豊富ですが、それらの挙動が環境によってかなり左右されますね?』


『ええ。じつはそのような装備、銃弾等の多くもT.S.O.の世界ではプレイヤー自身が資源を集め作り上げたものなんです。そうしたアイテムの経済的取引もこのゲームの非常に人気のある部分ですね。プレイヤーは様々な環境で重要となる、そうした装備を揃えることが重要ともなりますし……』


『まさに! そうした環境内で適切に武器や戦い方を選ぶことが、プレイヤーを勝利に導くでしょう。例えば惑星内の重力加速度。これらは銃弾の飛距離や放物線のカーブに影響します。それに惑星の自転やコロニーの人口重力は、そうした弾道にさらにコリオリ力を加えてくる』


『なるほど。たしかにこのゲームの長距離射撃では、かなり強いクセを感じますが』


『光速で直進するビーム兵器はそうした物理的な影響を受けませんが、惑星上の大気やそこに舞う埃、または蜃気楼のような現象によっても影響を受けてしまいます。さらにそうしたエネルギー攻撃に対する装備は豊富であり、そうした中でプレイヤーたちの様々な戦術が生れています。これらはこのゲームの、非常にユニークで力の入った部分です』


『いや、ありがたい。ステファンさんにこうしてT.S.O.を褒めてもらえると、私としても非常にうれしいですね』


『いえいえ。しかしそうした意味で、今回このバトルロイヤルの出場者たちは、主催であるギルドの選んだ様々な環境――それも、開催の三日前に発表、リーグごとにバラバラの戦場へ送られます。彼らはある意味非常にカオスな状況での戦いを強いられますが、じつは参加者たちにはそうした戦場環境へのリサーチや、アンテナの鋭さを問われているのではと思いましたね。鷹の旅団としても、そうした戦略的組み立ての出来る人材は有望でしょう?』


『いやあ、鋭い! さすがはプロ……と言いたいところですが、未だオーディションは始まったばかり。なにぶん選考期間中ですので、そうした質問にはノーコメントでお願いします』


『ああ、それはソーリー……たしかに、そうですね。ハハハ』


『おおっと、そうこう言っているうちに……ようやく始まりました! 各リーグの選手たちが今、戦場へと続々投入され始めたそうです。この配信はリーグの公平性を維持するため、5~10分ほどの遅延を入れさせていただいておりますが、その間AIによりピックアップした熱い戦場の光景を、引き続き実況していきます。同じく遅延を入れての各々の出場者自身による配信も許可されておりますので、皆さま是非、SNS等でコメントし、大会を盛り上げていってください――』


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