17「治療」
目を覚ました春樹は見ると、自分の部屋だった。
周りは誰もいなかった。
「無理したな。」
手や足、身体に包帯が巻き付けてあるのが分かる。
まだ、傷が癒えてないのだろう。
この分だと、夏也と会えないな。
そんな風に思いながら、身体を起こした。
その時、部屋を開ける人物がいた。
「桜。」
「お父…さん。お父さん。」
桜は、春樹に優しく抱き着く。
春樹は、桜を同じく優しく抱きしめた。
「桜、心配かけてすまない。」
「本当だよ。最初にメモを発見した私の気持ちになってよ。」
「ごめん。ごめん。ごめん。」
桜は、声を上げて泣いた。
その声に牽かれて見に来たのは、姫だった。
姫は、下から急いで上がって来て、息が乱れている。
「春樹さん。」
「姫ちゃん。」
すると、姫も同じく春樹に抱き着いた。
そして二人して泣いて、春樹の無事を自分の身体で分からせた。
「春男君から、全て訊きました。」
桜は、落ち着いて話をする。
その間に、冷蔵庫に入っていたペットボトル状の飲み物を、姫が持ってきた。
「そう……。皆は?」
「お爺ちゃんは、仕事。春男は、学校よ。父さんは………、当分、お父さんには近寄れないから、梅賀さんの家から、仕事場に行っているよ。食事もお弁当式だけど、運んでくれている。早く、お皿で食べたいから、傷、治してね。」
「分かった。」
桜は、言い辛そうに。
「それと、春男のお母さんだけど。」
「それは、気にしないで欲しいな。」
「でも、こんな真実では、私は春男と結婚は出来ない。」
すると、春樹は桜の頬をパーで挟んだ。
頬がつぶれて、少し変な顔になる。
「そんなことを言ってはダメだよ。春男君は、桜に対する愛情は本物だ。それは、俺は分かっている。それに、記憶の秋美さんは、桜を木に放置する時、口をかみしめて泣いていたよ。」
春樹は状況を知らせると、桜は再び泣きそうな顔になった。
そんな桜を気にしていたが、姫に話を振る。
「姫ちゃん、夏也から言われていると思うけど。」
「あっ、はい。仕事ですが、言われた仕事は出来てます。それと、メールを確認、貢さんがしましたら、急ぎの仕事が一件入っていましたので、作業させていただきました。後は、春樹さんの確認だけです。」
「その仕事内容は?」
「親友に赤ちゃんが生まれそうなので、服をプレゼントしたいという内容でした。出産日が、メールをくださった日から二週間後です。」
「そういえば、俺は、何日眠っていた?」
「三日です。」
日付を確認すると、春樹はベッドから出た。
少しふら付きがあるが、桜と姫に支えられながら、家の中を歩く。
仕事場に行くと、きちんと整理整頓され、手芸作業をしている部屋だが、綺麗に使用されていた。
ソファーに座ると、春樹は早速、姫が手掛けた仕事を確認する。
丁寧に仕上げられていた。
「よく頑張ったね。姫ちゃん。」
「では。」
「いいよ。これで、もう、依頼者に送っても大丈夫。それと、こんな身体だから、これからも手伝ってくれると嬉しい。」
「はい、いつでも召喚なさってください。」
「では、前の様に手紙を書いて、梱包作業をして、宛名と贔屓にしている宅配さんに連絡して、取りに来てもらってね。」
「わかりました。」
春樹は、桜を見ると。
「桜、お腹空いたな。桜の得意としている味噌汁食べたい。」
「えっ、そんな身体だと、父さんの料理じゃないと。」
「いいんだ。桜の料理が食べたい。」
すると、桜は台所へ行き、準備をし始めた。
仕事場に、姫と二人っきりになる春樹。
「姫ちゃん。ありがとうね。」
「何がですか?」
「桜と仕事です。」
「お礼言われることはしてませんよ。私は、キツメブランドの仕事を手伝えて、桜の傍にいられて、嬉しいです。これは私個人の気持ちです。お礼は言わないでください。」
「姫ちゃん。」
「でも、悪いって思っているなら……、これからも赤野家に関わらせてください。」
真っ直ぐな目をして、真っ直ぐに姿勢をし、真っ直ぐに気持ちをぶつけて来た姫を見て、春樹は微笑んだ。
「わかりました。姫ちゃん、高校卒業したら、キツメブランドに来なさい。それまでは、私の弟子です。」
「はい。ありがとうございます。」
「それには、今の俺の様に怪我をしないでね。」
「ははは……、はい。」
何れ、会計を務めてくれている南條奨に姫を紹介しないとと思った。
桜が、味噌汁が出来たと言われ、台所へ行く。
すると、机には重箱に詰められたおにぎりとおかず、それにお菓子があった。
お皿と味噌汁と箸が用意されている。
「お父さんは、食べられる量でいいですから、姫、食べましょう。」
「はい。では、夏也さん、いただきます。」
席に座ると、三人で食べ始めた。
食べている時に、春樹がここまで運ばれた経緯を知った。
桜のスマートフォンに、春男から連絡が入った。
元気がなかった桜だが、連絡が入ると一気に回復した。
「桜か。春男だ。春樹さんが目を覚まさないんだ。俺は、今居る場所を離れない。GPSを辿り、来てくれ。」
「わかった。少し待って、お爺ちゃんに変わる。」
貢に電話を変わると、春樹の容態を訊いた。
通話を切断し、桜にスマートフォンを渡すと、車へ移動した。
復活した桜にナビを任せて、一緒にGPSを頼りに行く。
行くと、春樹を抱っこしている春男がいた。
春男は、春樹が持って来ていた救急セットがあり、簡単に手当をしていた。
頭を動かすといけないと思い、持って来ていたリュックを枕にしていた。
「春男君は大丈夫か?」
「俺は、平気。怪我もしてないし、体調的にも大丈夫。でも、春樹さんが。」
「春男君、手伝ってくれ。」
車の後部座席の右側を倒して、真っ直ぐにした。
これは、荷物を載せる時にするのだが、今回は春樹を寝かせる。
持って来ていた毛布を、春樹にかけて、車を発進させる。
家に着くと、そこには、夏也の姿はなかった。
夏也は、急いで料理を作り、皿に盛りつけ、いつでも食べられる形にした。
そう、手づかみで食べられる物ばかりを用意した。
夏也は、春樹の血には近づけない。
家から出迎えたのは、姫だった。
姫は、夏也からの伝言を言う。
「梅賀さんのお宅にいます。作ってある料理は、食べてください。春樹の傷が癒えたら、帰ってきます。」
確認すると、今度は山川に電話をした。
山川は、もう医者ではなく、年だから年寄りらしい生活をしていた。
しかし、山川診療所は、自分の息子が継いでくれていたから、連絡をして、赤野家に診療に来て貰った。
山川の息子、
春樹の血については、父から聞いているから知っている。
春樹を治療し、診断をすると、休んでいれば回復するといい、目を覚ましたら連絡して欲しいと言い、帰って行った。
ここで説明をする。
春樹の血は、医療関係者には通じない。
医療関係者は、技術の向上はしようとしていても、自分の能力を強化させようとは思ってはいないからだ。
そういう心があったとしても、根底は「人を救いたい」気持ちが勝ち、その気持ちがあれば、能力強化をしようとしても、血には反応をしないのである。
それには、原点がそうさせるのだろう。
病院で診てもらおうとすると、医療関係者ではない患者が暴走する可能性がある。
春樹が怪我をしたら、病院ではなく、往診に来て貰うのが適切だろう。
春樹は、情報整理をしたが、一つ気になっていた。
「桜でも姫ちゃんでも、どちらでもいいが、春男君は大丈夫か?」
桜と姫は、目を合わせると、姫は報告するのを控えて、桜に任せた。
「春男は、大丈夫ではないです。お父さんが、ここに来た時、春男は元気がなかった。何かに怯えている顔をしていました。私が春男に声をかけると、距離を取ってきました。お母さんの行いがそうさせるのでは?と思いましたが、それにしても、落ち込んでいました。だから、私は、春男に結婚の意思がなければ、このまま消滅しても仕方ないと思いました。」
「あー、それは、俺の所為かも。」
「どうしてです?」
「それは、春男君に訊いてみるといい。今日、家に呼ぶといいよ。それと、夏也も参二さんも呼んで、食事会をしよう。もちろん、姫ちゃんも居てね。」
「でも、それだと、父さんは。」
春樹は、人差し指を出した。
「大丈夫だよ。植物を置けばね。」
春樹の言う通り、外で育てている花の鉢植えを、中に置いた。
そして、皆が帰ってくるのを待っている間、春樹は、もう少し自分の部屋で休んだ。
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