6「引越」

いつも通りに春樹は手芸の仕事に忙しく、夏也も料理研究に忙しく、貢も新たな防犯システムを開発する為に忙しく、桜も受験勉強に忙しかった。


そんな忙しい日々を送り、桜の卒業式となった。

桜は、無事に高校を受かった。

姫も一緒である。

姫は、桜が作ったノートが役に立ったと言っていた。


卒業式から帰ってくると、玄関には段ボールが何枚もあった。

国立流石中学は、入学式は親参加だが、卒業式は生徒だけである。

桜は、段ボールの理由を聞く。


「明日、引っ越しするからね。」


貢が話をした。

今日は、春樹も夏也も休みで、梱包作業をしている。

桜も、どれ位を詰めたらいいかを聞いて、手伝い始めた。


夕食の時に、桜に話した。


「今度、引っ越すのは、かつて、夏也が住んでいた家だよ。」

「父さんの?」

「そう、そこは、とても広いから、桜、一人部屋を確保できるよ。でも、部屋の位置は、こちらが決めるからね。」

「うん。それは仕方ないね。お父さんの仕事と身体次第だからね。」

「すまないな。」

「気にしないで、でも、嬉しいな。一人部屋かぁ……寂しくなったら、お爺ちゃんの部屋行ってもいい?」


貢は、桜の顔を見ると。


「いいよ。」


許可をした。




引っ越しの日。

貢は、トラックを会社から借りてきた。

とても多く載るから、一回で済みそうだ。


桜は、先に夏也と一緒に、引っ越し先に来ていた。

夏也は、この家の説明をする。


この家は、二階建て、見た目も中身も洋風だ。

門から玄関の間に、車が停まれるスペースがあり、玄関まではその分だけの距離がある。

周りに植物はないが、玄関の前には、プランターで野菜が作れそうなスペースが十分にある。


玄関を入ると、広い。

見えてきたのは、広々とした廊下に二階に続く階段。


一階は、台所、居間、客間二部屋、お風呂、トイレ、洗面所である。

台所と居間は一緒ではなく、別々。

客間は、それぞれベッドが一つと、ベッド脇に机がある。

クローゼットと小さい冷蔵庫がある。

ビジネスホテルの一室を想像させる。


お風呂は、強さが三段階に調節出来るシャワーに、ジャグジーを思わせられる泡が出る仕様。

洗い場も、大人の男が三人は楽に入れる。

トイレも、中に手洗いが出来る場所がある。

洗面所も、二人で横に並んでも、洗面台が余裕で使える。

お風呂とトイレと洗面所は、全て別の部屋になっている。


二階は、階段を上がると、左側に部屋が四部屋あった。

一応、奥から、桜、夏也、春樹、貢の順番だ。

その向かえの部屋が、納戸であり、季節になると使う物が収納できる。


早速、桜は、自分の部屋に来ると、広々としていた。

前は、夏也の部屋であった。

この部屋で、夏也は実験したのを思い出す。

しかし、桜が使ってくれると、上書きされて、楽しい思い出にかわるだろう。


この家は、売りに出していたのだが、買い手が付かずに、結局、緑沢……夏也の両親へと返ってきた。

夏也の旧姓は、緑沢である。


その情報を、夏也は荷物が届くまでの間、桜に話した。

桜は、理解して、受けいれた。


「しかし、不思議なことがあるよね。お父さんの血って、そんなに強化したい人から見て、欲しいのかな?」

「ああ、あれは、欲しいと思う。」

「父さんも、お父さんの血って、対象なんだよね。」

「そうなんだ。だから、春樹が怪我をしたら、父さんはこの家にいられないから、その為の引っ越しでもあるんだけど、今まで過ごした家も必要なんだよ。」

「あの家なら、一人でいる分には広いからね。」

「よかった。両親が、家電をそのままにしてくれていて。」


台所で、話をしていたから、家電がそのままなのは嬉しかった。




そんな風に話をしていると、車が止まる音が聞こえた。

夏也と桜は、玄関へ出る。

そこからは、もう、四人での作業となった。

話をしながらの作業だ。


その時に、配達業者が来た。

届いた商品を、それぞれの部屋に運び入れてもらう。

部屋に運び入れたのは、ベッドだ。

ベッドは、四人分あり、全てお揃いだ。

一人で組み立てるのは無理だから、協力して組み立てる。




全ての引っ越し作業が終わったのは、午後六時だ。


「はー、疲れた。」


自分の部屋になった部屋を見て、嬉しく思う桜。

桜の部屋は、入口を入ると、左側はクローゼットになっている。

右側は、ベッドがあった。

まだ、これだけだから、その他は生活しながら揃えていく。

カーテンは、白いレースが掛かっているだけだから、桜の好みに変えていく。


「あっ、机がないね。」


桜の部屋を覗き込んだ夏也は、違和感があり、考えていると机だった。

今まで台所にある机で、桜は勉強をしていた。

夏也に、言われるまで気づかなかった。

今までと同じ、台所でやればいいと思っていた。


「桜、机いる?」

「いるけど、前使っていたちゃぶ台はダメ?気に入っているのよね。」

「そうか、良いよ。まだ、向こうの家にあるから持って来るよ。それと、他に必要な物は?」

「うーん、姿鏡はクローゼットにあったし、身支度は洗面所があるからいいし、カーテンはさっき決めて、明日届くし、ちゃぶ台の下に引く敷物と……あっ、本箱が欲しい。天井から床までの大きいの。」


夏也は、桜にどの辺に本箱が欲しいかを聞いて、その場所を巻き尺を持って来て測った。

紙に記録して、貢に渡す。

貢は、受け取ると、早速、パソコンで調べ始めた。


「桜、色が白と黒があるみたいだよ。どっちがいい?」

「ピンクは無いの?」

「ピンクは……ないみたい。」

「だったら、白でいいわ。」


桜は、その名の通り、ピンクが好きだ。

だから、カーテンもピンク色にした。

敷物もついでに頼んで貰うと、桜の花を形どった品があった。

一緒に画面を見ていたから、一目で気に入り、それも取って貰った。


引っ越し作業も目途が付いて、夕食となった。

夏也は、久しぶりの台所で、ウキウキしている。


「身体が覚えているものだな。」


夏也は、自分が使っていたから、動きが良かった。

記録を更新するかのように、口に出して、身体を動かす。

桜も一緒に手伝っていた。


「父さん。植物達には、引っ越したの伝えたの?」

「もちろん。きっと、引っ越し祝いとか言って、お菓子を貰いに来ると思う。」

「毎回、面白いよね。父さんの友達。」

「違和感がないように、人間に化けてきてくれるのはありがたいけど、杉の人はまた宇宙服かな?」

「私、杉の人、なんとなく好きだよ。」


夏也の料理を求めて、植物達が人間の姿になって、時々訪問してくる。

桜は、はじめ怖かったが、次第に何の植物の人?かを当てるゲームとなっていた。


しかし、本当に複雑で不思議だ。


夏也は、自分の周りに起きている事態を整理していた。


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