19「道筋」
春樹の怪我が治り、夏也が植物の浄化がなくても、話が出来た。
桜と春男の関係も良く、姫と春樹の師弟関係も、上手く行っていた。
夏也と春男も仲が良く、夏也から料理を習い始め、こちらも師弟関係になった。
最初は、家にある材料を使って試しに何か作らせてみた。
出てきたのは、グラタンだった。
美味しかった。
以前、参二から春男の成績を見せにきた。
家庭科だけは、成績がずば抜けてよかった。
他は、真ん中よりは少し上程度だった。
春男は、物心付く前に母が亡くなり、父と一緒に暮らしていたから、暮らしていくに毎日必要な家庭科だけは、真面目に取り組み身に付けた。
一応、裁縫も出来るが、得意になっていたのは、料理だった。
グラタンは、春男の得意料理だ。
だから、自信があった。
「美味しいな。一般的に食べるなら、良い出来だ。なあ、春男君、このグラタン、もう少しマカロニを多く入れたのが、春樹好きだぞ。」
「そうな……、何でわかったのですか?」
「春男君が、俺に料理を習いたいって言ってきた時から。」
春男は、夏也には誤魔化せないと思った。
素直が春男の武器だから、自分の気持ちを話す。
「今回の事で俺がやりたい道が見えたんだ。山川さんから山の木を守る知識をつけて、もし、また、春樹さんが血を流さなければならない時には、夏也さんと同じ味のお弁当を作って一緒に同行したいです。建築関係の仕事に就きたいって思ったのは、建築で使われている木材を通じて誘われたのかもしれない。」
「誘われた?」
春男は、頬を赤く染めて。
「桜に。」
春男は、夏也の顔を見ると、ニヤニヤしていた。
負けずに。
「母が置き去りにしたのは、消せないし、してはいけない。とても許してはいけないと思います。けど、桜は赤野家に助けを求めた時に、もう俺と繋がりが出来ていて、桜を守る為に生まれてきたのかもしれません。これから、母の行いも含めて俺が心に刻んで、この先も桜と過ごして行きたい。」
夏也は、春男に手を伸ばして、頬を撫でる。
「なら、毎日ここに来い。桜の好きな味、教えてやる。実はな。春樹と桜は、好みが一緒なんだ。だから、桜の為に作る料理は、春樹も助ける。もしもの時は、頼むぞ。」
「だったら、私は、警察官になる!」
話を聞いていた桜が、台所にきた。
扉を開けると、夏也が春男の頬に手を置いていた。
それを見た桜は。
「お父さん、呼んできていい?」
「「誤解だ。桜。」」
慌てて席を立ち、桜の行動を止める。
こんな場所見られたら、本来の春樹を知っている二人だからこそ、慌てた。
「大丈夫よ。言わないから。」
「で、桜、なんて?」
「私は、警察官になるよ。だって、この足を生かしたいし、警察官なら出来る。山を荒らした人を探したり、調査したり…それに。」
桜は、春男を見た後、少し目を細め。
「それに、警察官の証は、桜だから。この国の象徴の名をいただきました。忠誠を名に誓う。だから、春男、私に美味しい料理、食べさせてください。」
「桜………、わかった。夏也さんに教わって、俺の料理なしでは生きられない身体にしてやるよ。」
夏也は、二人を見ると懐かしい思いが心に広がった。
「じゃあ、目的の家、ゆっくり見てよ。一緒に回るわ。」
春男はようやく、ゆっくり赤野の家を見られた。
とても、作りが良く、ノブや見えない天井裏までを見て、とても感動していた。
「春男、そんなにこの家、いいの?」
「いいよ。とっても素敵な家だ。釘の一つも、手を抜いてなく、年数も経っていると思われるけれど、破損した所がない。それに地震対策もしている。」
とても嬉しくなって、感動した所を写真で撮っていた。
「さて、次は、桜の部屋を見せてもらいたいって思うけれど……駄目だろうな。」
「いいよ。姫には、もう見せているから。でも、まだ、完成していないから、物が少なくて、生活感ないけど、それでもよければ。」
「いい。」
桜は、自分の部屋を案内した。
春男は、桜の部屋を見ると、言った通りに物が少なかった。
でも、とても広く、この部屋がどんな風になっていくのか、楽しみである。
「やはり、ピンクが好きなのか?」
「うん。この名前だからだと思う。」
桜は、春男を桜型のラグに座らせ、自分も同じく座る。
沈黙がある。
「あの。」
声を出したのは、桜だ。
「春男は、私と結婚したい?」
「何をいきなり。」
「結婚したいなら、私、春男とがいいの。でも、春男は少し気にしていない?」
「母がしたことか?確かに、桜を置き去りにしたのは許せないし、気にしないでいるのは出来ない。だけど、桜が好きな気持ちは、本物だと思う。」
春男は、桜を胸に収納した。
胸の音が、とても耳に響いてくる。
「好きな子の部屋に来て、ドキドキしない男はいないよ。」
「そうね。ねえ?」
「ん?」
「この音、もう少し聞いていていい?」
「いいと言いたいけど、この状況、見られたくないな。特に春樹さんには。」
桜は、春男から離れて、顔を見た。
「先日から、春樹お父さんを怖がっているけど、優しい人だよ。」
「桜は、あれを見てないから。」
「あれ?」
「あー、話しづらい。」
すると、部屋をノックされる音が聞こえた。
桜は、部屋に入る許可をすると来たのは、夏也だ。
夏也は、お茶とお菓子を持って来ていた。
「何が話しづらいの?」
夏也は、春男に訊くと、目を夏也に向けた。
「あー、春樹の事か。」
「はい。よくわかりましたね。」
「春男が桜に言い辛いってなると、それしかね。」
夏也は、春男の補助をした。
「桜、春樹はな。結構喧嘩が強いんだよ。」
「喧嘩?するようにみえないけど。」
「するんだよ。桜に見せられないほどの、酷い喧嘩なんだ。」
「喧嘩って、もしかして殴り合い?」
「そうだよ。口も悪くなるし。」
「想像出来ない。」
「真実はそうだよ。だけど、普段は優しいから、春男君も怖がらずに話しをしてね。」
春男は、夏也に見抜かれていた。
春樹と話す時、恐ろしさがあり、遠慮しがちになっていた。
「普通に話せないと、また、春樹。桜との結婚、許可したのに拒否するよ。」
「え?」
夏也は、気になる言葉を残して、桜の部屋を出た。
二人、夏也が出て行ったドアを見る。
「ねえ、今、夏也さん、なんて言った?」
「許可がどうとか。」
「許してくれたのか?」
「そうみたいね。」
すると、春男と桜は顔をそれぞれ見ると、口元を上に動かし、目はぱっちりとして、喜んだ。
「これから、よろしくお願いします。春男。」
「こっちこそ、よろしくお願いします。桜。」
手を絡めさせて、顔をお互いに近づけるが、真面目な顔でお互いに噴き出した。
もう少しでキスが出来そうだったけど、顔を見ると噴き出す。
だから、漫画やドラマでキスをする時、目を瞑る描写が多いのは、この為かと思った。
真面目な顔同士が近づいてくるのは、とっても笑えて来て、再度しようとしても思い出して出来ない。
「もう、今日はやめ。」
「今度からは、目を閉じよ。」
「それか、手とか頬とか額とかで慣れてからにしよう。」
「そうね。」
春男は、桜の部屋も見たし、夏也が用意してくれたお茶とお菓子を食した後、それらを持って部屋を出る。
桜も一緒に持って、台所へいった。
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