20「高校」
高校の間。
梅賀参二は、赤野家と連絡をしながら、良い関係を築いていた。時たま、夏也が泊まりにきて、一緒に料理をして楽しんでいる。
赤野貢は、国からのプロジェクトに集中していたから、いつも忙しかったが、毎日、家に帰って息子や孫の成長を見守っている。
国田姫は、春樹と同等の力を身につけて、春樹の一言で何をどうして欲しいかを、もはや分かっていた。桜ともいい関係を築いている。
赤野夏也は、教えたことを吸収して、次に修正をし、確実に自分の物にしていく春男の成長を見つつ、植物のお菓子を作りながら、仕事をし、春樹を心配と好きでいた。
赤野桜は、体力と知識をつける為、一年生は陸上部、二年生は柔道部、三年生は科学部に所属し、山の知識も、春男と一緒に山川から勉強をした。
赤野春樹は、仕事の手芸をしながら、山の植物から助けを求められると、出掛けて血を提供をした。その時の条件は復讐はしない、自分の治癒に力を使う約束させている。
梅賀春男は、夏也から料理、山川から山の勉強、春樹の付き添いをした。春樹が資金提供をしている企業から声がかかって、高校卒業後は、そこに就職が決まっている。
そんな風に過ごしている。
それぞれの進路を、夏也に話をした次の日。
学校では、騒がしかった。
それはそうだろう。
桜と姫が、腰まであった髪の毛を、肩まで切ってきたのである。
姫は、短く切っても右側でゴムで留めて、その上からリボンを結んでいた。
桜も左側でゴムで留めていたけど、リボンはしていなかった。
「さ…桜。」
「へへ、切っちゃった。似合わない?」
「似合うけど、勿体ない。」
「勿体ないなんてないわよ。私達の髪、とても綺麗だったから、美容師の人が欲しいといってあげたわ。カツラにするんですって。」
「それでも……あああ……。」
春男の気持ちを、クラスメイトは同調した。
桜と姫の髪の毛は、サラサラして、風になびけば風流で、まるで日本の川の流れのよう、見ていても美しかった。
「何も、姫さんも切ってくること。」
「お揃いの何が悪いの?」
「いいのか?」
「ええ、春樹さんの手伝いをしている時に分かったのよ。髪、邪魔だなって。丁度良かったわ。まあ、私のお母さんは、落ち込んでいたけどね。」
姫は桜とお揃いといっているが、根底にある気持ちは、失恋だ。
失恋をしたから、髪を切って、前に進もうとしている。
手芸に邪魔だっていうのは、良い訳にしか過ぎない。
それを感じているかは、知らないが。
「すまない。と、任された。」
春男は、姫に言うと。
「別にいいわよ。春男君は、本当に勇者ね。」
「何が?」
「これまでの闘いを見ても、騎士に選ばれる為に女神の情報を仕入れ、その後も素直に接するから気に入られ、また春樹さ…騎士の危機に助けに行く。もうまさに勇者じゃない。それに、女神を信仰している私、姫も応援をしてしまっている。」
「でも、魔王は倒していない。」
「そうね。」
春男にとっての魔王は、自分だ。
魔王イコール勇者の図式だ。
人は、気持ち次第で魔王にも勇者にもなれる。
これからは、自分自身の闘いとなる。
桜が警察官を目指すなら、その為に、自分がどう動けば、女神の力を強化出来るか。
女神さえいれば、どんな敵が来ても、闘える自分がいる。
自分は能力強化はしなくていい、女神が強くなれば、その力が自分の力となるからだ。
女神は、魔王か、勇者か、どちらに微笑むか。
今日は、姫も春樹に呼ばれていて、桜の部活が終わるまで待ち、三人で赤野家に行く。
桜は、早速、家に帰ると、部屋に入って勉強を始めた。
春男は、夏也に料理を習う為、台所へと行くと、春樹からお茶を淹れてくれるようにと頼まれた。
夏也と昨日一緒に作ったお菓子があり、それに合うお茶を淹れた。
数は、三つである。
春男は、春樹の仕事部屋にある扉をノックすると、ゆっくりと開けて入った。
すると、ソファーに座っていたのは、黒いジャージを着た男性だ。
その横に、姫が座っていた。
春樹は、自分の仕事している椅子に座っている。
お茶を出すと、春樹は春男にも、話を聞いて貰える為、引き留めた。
姫が座っている横に、立って聞く。
「こちらの男性は、キツメブランドの会計をしてくれている南條奨さんです。姫さんが、高校の間はアルバイト扱いですが、卒業したら正式にキツメブランドの社員となります。今回は、その顔合わせです。春男君には、顔と名前、そしてどんな人かを知って貰う為に、残って貰いました。そして、姫さんも、記憶して下さいね。」
南條は、姫を見た後、春男を見る。
視線は見透かすみたいで、少しだけ寒気がする。
「南條さん、この二人をよろしくお願いしますね。」
「はい。それには、少しだけ二人とお話させてください。」
「そうだと思いました。春男君、おぼんを下さい。」
春男は持っていたおぼんを春樹に渡すと、春男を春樹の椅子に座らせた。
そして「ごゆっくり」といい、部屋から出て行く。
春樹の仕事部屋には、南條と姫と春男が残された。
夏也が帰って来て、台所にいる春樹を見ると、分かった顔をした。
「南條さんがいるんだな。」
「うん。きっと、見定められていると思うよ。」
「結構、厳しいからな。元、赤野家に仕えていた人だし。」
「でも、そろそろいいかな。」
春樹は、仕事部屋に入ると、すっかり仲が良くなっていた。
春男に夏也が帰ってきているのを報告すると、春男は南條に一礼をして、春樹の仕事部屋を去った。
姫を見ると、少し頬に赤みを差しているのが分かる。
「姫さん。会計は、レシートと領収書、それとエクセルで作ったデーターに……。」
春樹は箱に入っている紙とパソコン画面を操作して、何処にあるのかも教えた。
これらを、南條が一年に一度、三月になると来るから、渡す。
しかし、姫は少し考えて。
「南條さんに、一年の報告をまとめてするのはいいですが、とても大変だと思います。一ヶ月に一度にしませんか?」
「え?それは。」
「一ヶ月の最終日に、南條さんがお越しいただけて、難しいなら、私が届けます。」
「それは、姫様が大変では?」
南條は困っていると、春樹は姫の意見を取り入れた。
「確かに、一年の会計をドサと渡されて、全部確認したり、入力したりするの大変だと思います。今まで、気づかなくてすみません。姫ちゃんの言う通り一カ月毎にしてください。」
「仕方ありませんね。いいですよ。では、一ヶ月の最終日に伺います。」
「出来ない場合は、姫ちゃんに届けて貰いますからね。」
「……わかりました。」
南條は、スケジュール表に、一ヶ月の最終日、春樹の仕事場に行く用事を書き込んだ。
春樹は、姫を見て、ウインクをした。
姫は、微笑んだ。
「さて、顔見せも出来ましたし、南條さん、こちらが姫ちゃんが一人で作った服です。」
最初に提出した服を、春樹は持っていて南條に見せる。
姫は、黒歴史を見せられたと思う位の気持ちになり、恥ずかしくなった。
南條は服を細かく見ると。
「これだけの技術があれば、大したものです。春樹様が欲しがるのを分かります。」
「でしょ。自慢の弟子ですよ。もし、何か作って欲しいものがありましたら、姫ちゃんに依頼されて見てください。それと、もう、恰好はスーツでいいですよ。」
「そうですか。でも、きつめお嬢様の…。」
「囚われないで下さい。僕が良いって言っているんですよ。それに、この家に引っ越してきましたから、スーツで違和感ないです。」
「そうですね。では、次からはスーツで来ます。本当は、私服で来るのは、ためらいがあったんですよ。」
「そうだと思いました。」
仕事は仕事、私事は私事と、南條は分けたかった。
それには、恰好が大切である。
当時、春樹が学生であったから、きつめは友達感覚で私服をとお願いしていたが、もう春樹は大人で、かわいい弟子も居るし、緑沢の家はスーツに似合う屋敷だ。
もう、きつめに囚われなくてもいいと、春樹は考えた。
現に、貢も夏也も気にしなくなっている。
話をして、春樹は姫に、帰られる南條を玄関まで送ってほしいと言うと、姫は、喜んで、南條を見送った。
それから、桜、春男、姫は、学生らしい生活をした。
文化祭に体育祭等の学校行事を満喫しながら、将来の為に勉強も欠かさずにやった。
高校三年生になり、四月三十日。
梅賀春男は、十八歳になったと同時に、赤野桜は、梅賀桜になった。
住んでいる家は、高校生の内は、赤野だが、卒業をしたら梅賀に引っ越す。
桜にしてみれば、赤ちゃんの頃から中学三年生まで住んでいた家だから、そんなに新しい気持ちでもない。
桜と入れ替わりに、姫が引っ越して来る。
春樹の仕事が、姫がキツメブランドの正社員になるきっかけに、仕事を増やしていたからだ。
姫は、春樹の仕事量は知っているから、泊りでないとこなせない。
国田両親には、既に、許可を取っている。
桜は、警察官になる試験に合格した。
春からは警察学校で勉強をする。
警察学校は、基本的に全寮制で、十ヶ月、みっちりある。
女性が警察官になるには、狭き門だったが、それでも試験に受かった。
警察官になると言ったのが、高校一年生の時で、その時から、警察官になる為の勉強をしてきて、三年間の勉強が結果を出した。
警察学校は、主に、SNSはしてはならない。
だから、桜は、高校三年生になったら、スマートフォンを解約した。
スマートフォンが無い生活に慣れる為だ。
桜に用事がある人は、春男か夏也のスマートフォンにとなった。
姫は、春樹の手伝いをしているから、毎日赤野の家に来ているので、話がしたい時には、顔を合わせて直接話をしている。
今の時代、スマートフォンが無ければ、生きていけない人が多くいる。
だが、この機会に一週間だけでもスマートフォンなしで生活をしてみるのもいいと思う。
話なら、顔を合わせて話すといい。
表情を見るだけで、無理していないかの確認が取れるからだ。
また、偽っていないかも分かるから、話の内容は実に濃厚な物となるだろう。
真実か、偽りか、それを見極めるのも、警察官には大切な能力となる。
桜は、その力を試すのに、とてもいい期間だと思った。
桜から連絡を取りたい時は、もう台数が少ないが、公衆電話で小銭を持ち電話をしていた。
公衆電話は、家の前にあったから、とても助かっている。
十円貯金をしなくてはと思い、買い物も現金でしていた。
卒業式があり、その日に、桜は梅賀家に自分の荷物を全て移動させて、姫が桜が使っていた部屋に引っ越してきた。
そして、四月になり、桜が警察学校の寮に入った。
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