3「頼事」

「お父さん、今の仕事って大変なの?」

「うん、少しだけ、期限がある物だから、やっぱり急がないといけなくて。」


桜は、春樹の様子を見て、少し言い辛そうにして、姫の事を話す。

姫が、キツメブランドのファンで、刺激されて、自分の服も作ってしまえるほどの持ち主と説明した後。


「その私の親友、姫が明後日、十月十五日、誕生日なんだ。それで、その姫に手伝わせたらどうかな?誕生日プレゼントとして。」


桜は、少し下を顔に向け、目線を春樹に届けた。

春樹は、一度、箸をおいて、右手を顎を包むようにして、少しだけ考えた。

確かに、今の仕事量は、ギリギリの範囲だが、一人でこなすには少し無理がある。


「しかし、誕生日プレゼントで手伝いって。」

「姫は、キツメブランドの春樹を手伝えると知ったら、凄く喜ぶと思うの。」


桜は、姫の気持ちを叶えたいし、春樹の負担を減らせられたらと、少しの希望を一生懸命繋げる。


「でもなぁ。」


そんな二人を見て、夏也は春樹に話した。


「食事を用意している時に訊いたけど、その姫ちゃん、誕生日プレゼントに、俺のお弁当が食べたいって言ったそうだ。だから、俺は許可をしたぞ。春樹。」

「夏也。」


春樹は、夏也を見ると微笑んでいる。

なんだか、春樹の心には、悔しい思いが少しだけ重くのしかかった。


「桜、わかった。ただし、誕生日の日は、平日だ。手伝いをするなら、休日。今週の土曜日、十七日か、日曜日の十八日だ。それと、一度、姫ちゃんが作った物を持って来てくれる事。ちゃんと手伝える逸材かを知りたい。」


桜は、とても喜んだ。

桜の嬉しがる顔を見ると、春樹も夏也も、そして祖父も嬉しくなった。


「夏也、負けないからな。」

「こっちも負けないからな。春樹。」


祖父は、春樹と夏也を見て、居間にある仏壇に視線を向ける。

そこには、一人の女性の写真が立てられていた。


「きつめさん、秋寺、春樹と夏也、この様に幸せにやっているよ。」


祖父は、今の様子を見せる様に、写真の相手に話しかける。


「あっ、お祖母ちゃんとお爺ちゃんにお供え忘れていた。」


桜は、夕食のお供えを用意してあったが、供えるのを忘れていた。

いつも、朝食と夕食は、自分達が食べる物から少しだけ小さな器に入れて、一緒に食べている感覚で、お供えをしていた。


この仏壇には、お祖母ちゃんとお爺ちゃんがいる。

お祖母ちゃんの名前は、きつめ。

お爺ちゃんの名前は、秋寺。

今、目の前に居て、手を伸ばせば触れる祖父、貢は、血の繋がりが無い、祖父だ。


お爺ちゃん…秋寺の写真は無かった為、お祖母ちゃんのきつめだけ飾ってある。

お供えが終わり、桜は改めて、思う。


本当に、この家族は、とても特殊だ。

しかし、こうして笑い合えて、一緒に暮らしていけている。

血の繋がりを気にしていた時期もあったが、今は全く無いのは、春樹が真実を話してくれたからだろう。




血の繋がりを気にしだしたのは、小学校の初めての授業参観の時だ。

あの時、姫が春樹を拝んだ後の出来事である。


初めての授業参観で、両親で来ている所もあった。

家庭の事情で、片親だけの人もいるが、どことなく、顔が親に子供は似ている。

だから、教室に入ってくる親を見ると、大体、誰の親かが分かる。

だけど、春樹と桜は、似ている所がない。


その日、帰った後、春樹に桜は訊いた。


「私とお父さん、似てないけど、本当に親子なの?」


春樹は、桜の顔を見ると、不安一杯で今にも泣きだしそうだった。


すると、一枚の紙を春樹は桜の前に出す。

それが、戸籍謄本だ。

戸籍謄本は、家族の情報が載っている。

それを見せながら話をした。


「っていうと、私は、養女って事?」

「そうだ。だけど、本当の娘として、ちゃんと育てているつもりですよ。夏也も貢も。」

「父さんもお爺ちゃんも?」

「そうだ。三人とも、桜が好きだし、とても愛おしい。桜は、夏也が作る料理、とてもおいしいと思ってくれているだろ?」

「うん。」

「貢と一緒に眠ると、安心するだろ?」

「うん。」

「それに、俺とこうやって話すの、楽しいだろ?」

「うん。」


春樹は、桜の頭を胸に収納し、両手で優しく背中と頭を撫で。


「だから、血なんて、気にするな。」


その時、桜は、とても大きな声で泣いた。

何故、泣いたのか分からないが、似てない事の不安が解消されたからだろう。

似てなくてもいい。

今、一緒に居る事が、大切。


その時の事を思い出して、桜は少し恥ずかしくなった。

しかし、こうして、自分の提案を飲んでくれた両親?といったらいいのか、分からないが、春樹と夏也には感謝をしている。

もちろん、貢にも。


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