2「会話」

桜の家族は、本当に特殊だ。

母親が居なく、父親が二人と祖父が一人で暮らしている。


自分がどうしてこんな環境にいるのかは、疑問に思った時に話をしてくれた。

簡単に言うと、桜は養女である。


同性同士で結婚をした父親二人が、自分の子供として育ててくれたのだ。

だから、母親は居ないし、知らない。

でも、この生活に不満はないから、元気で生きていられる。


「まあ、春樹お父さんには、姫が会いたがっていると、話をしておくよ。」

「桜、ありがとう。」


桜の手を丁寧に握り、祈る形にした。


姫は、将来、春樹のサポートをしたいと思っている。

その為、手芸を一から習い、今では自分の服位は余裕で制作出来る。

姫の進路は、キツメブランドで働く事だ。


でも、春樹が首を縦に動かすかだ。


とても楽しく仕事をしているから、その世界に入り込むのは、とても難しいと思う。

なんせ、キツメブランドは、全て、春樹のお手製である。

一人で作っているから、作れる量が限られる。

一度、手伝えないかと訊いたが、断られた。


そんな事を思いながら、学校へ行き、授業を受けている。





昼休みの時間になり、姫とお弁当を食べる。

この国立流石中学校は、お昼は各自で持って来て食べる方式だ。

給食は、小学生の時にはあったが、中学からはなかった。

その為、生徒はお弁当が大半だったが、家庭の事情でお弁当が用意出来ないのも考えて、食堂や売店もある。


桜は、毎日、お弁当である。

姫も毎日ではないが、今日はお弁当だ。

お弁当を開けると、毎度ながらとてもおいしそうだ。


「今日も、おいしそうね。流石、ホテルで料理を担当しているだけあるね。夏也様。」

「本当に、この時間、すっごく好き。」

「これだけおいしそうだと、うらやましい。家のお母さん、自分でも言っていたけど料理下手らしいから。今日のお弁当は、冷凍食品詰め合わせただけだし。」


姫は、自分のお弁当箱を開けて、桜に見せる。


「それでも、用意してくれるから、感謝しないと。」

「だよね。はー、夏也さんの料理も食べて見たいな。」

「お菓子なら、頼めば、作ってくれるけど、学校にはね。」

「ダメだよね。」

「高校生になったら、県立流石高校に入るから、あそこは自由で休み時間でも食べてもいいって訊いたよ。」

「高校までお預けか。」


などと話ながら、お弁当を食べていた。

午後からの授業も受けて、下校の時間になった。

下校も途中まで姫と一緒である。





「そういえば、姫、明後日、誕生日だよね。」

「覚えてくれていたんだ。」

「当然。何か、プレゼントしたいなって思うけど、何がいい?」

「うーん。私がして欲しい事って、きっと、自分で叶えないといけないと思うし、明後日っていうと、木曜日で学校あるから、どこかへお出かけ出来ないし。あっ、なら、可能ならでいいから、夏也様が私の分もお弁当作ってくれるといいな。」

「それ位だったら、可能だと思うよ。頼んでみるね。」

「ありがとう。」


話をしながら、帰宅した。




帰宅すると、指輪を外し、玄関の靴箱上にある箱に収納する。

この箱は、指輪の充電器の役割をしている。

洗面所で手を洗い、うがいをしてから、春樹の部屋に行く。


「ただいま。」


桜が帰宅した事を報告すると、春樹は、作業を留めて桜の顔を見て微笑んだ。


「おかえりなさい。桜。」

「ねえ、お父さん。ちゃんと休んでいる?」


桜は、春樹に確認をした。

春樹は、仕事をしているのが好きで、その間は、休みを取らないのを、夏也と祖父から訊いていた。

時々「休む為の声を掛けてあげて」と言われている。

春樹は、顔を少し歪ませた。


「あっ、その顔は休んでないね。ちゃんと休んでよ。お弁当は食べたの?」

「お弁当は食べた。いつも、十二時には、タイマー付けて食べているよ。」

「その時だけ?」

「……そうかも。」


桜は、ため息を吐き、春樹の顔を両手で覆った。


「お父さん、お茶にしましょう。」

「……、はい。」


姫が、この姿を見たら、手伝うと強引に言いそうだと思った。


桜は、台所へ行き、冷蔵庫の中から夏也が作った麦茶をコップに入れて、春樹の部屋に運んだ。

一緒にお茶を飲みながら、話をする。


「今日、テスト却ってきたの。」

「分からない所ありましたか?」

「全然、完璧だよ。満点。」

「すごいね。高校受験はどう?準備出来ている?」

「やってみないと分からないわ。でも、定期テストでも上位だし、大丈夫と思う。けど、もし、分からない所があったら、教えてね。」

「任せて。」


春樹と話をしていると、次に帰ってきたのが夏也だ。

夏也は、春樹と桜が話をしているのを確認する。


桜は夏也が帰ってきたと同時に、春樹の部屋を出て、エプロンを早速つけた。

夏也は、約束通り、桜と一緒に夕食の準備をし始めた。

春樹は、仕事を辞めて、二人が作っているのを、居間のちゃぶ台に腕を預けて見ている。




この家の、居間は、台所と一緒の空間にある。

台所が三分の一、居間が三分の二の割合だ。

居間の部分は、畳みが敷いてある。


食事が出来上がると、祖父が帰ってきた。

居間に居る春樹を見ると、珍しそうな顔をしている。


「春樹が、この時間に居間にいるとは、珍しいじゃないか。」

「桜が休めっていってくれてな。」


祖父は、料理をちゃぶ台に運んできた桜の頭を撫でた。


「よくやった。桜。」

「本当、お父さんって仕事休まないんだもん。すっごく心配。」

「全く、料理作っている時に訊いたけど、春樹、お昼ご飯食べる時しか休んでないらしいな。アラーム、増やすぞ。」


春樹は、微笑んだ。

夏也は春樹の頭に手を置いて、少し撫でる。


「分かってくれたならいいが、お前の身体は大変な事になっているんだぞ。もし、大きな病気でもして見ろ。輸血が必要な手術とかになったら、どうするつもりだ。」

「分かっているって、ちゃんと休むよ。でも、今の仕事、ちょっとだけ急がないと大変なんだ。この仕事が終わったら、休むから、少しだけ無理させろ。」


食事の用意が済み、皆で食べている最中に、桜は春樹に話をする。

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