16「適所」

春男は、現場に来た。

腐敗が進んでいて、匂いはきついが、耐えられない程ではない。

いや、耐えられる程までに浄化されたのか。


進んでいくと、そこには、春樹がいた。

春樹は、一本の木に身体を預けていた。

この木だけは、かろうじて腐敗から免れていたが、春樹がこなければきっと朽ち果てていたと思われる。


「春樹さん。」


名前を呼ぶが、春樹は答えない。

近づくと、夏也が言っていた通り、血だらけだった。

何が、どうして、こんな姿になったのか。


春男は、春樹が起きないのを見て。


「春樹さん、あなたが愛した桜は、俺が幸せにして見せます。安らかな眠りを。」


すると、春樹は目を開け、グーで春男を殴った。


「疲れて少し目を瞑って寝ていただけだ。俺を目覚めさせる為であっても、命を粗末にする方法はいただけないな。そんなんだと、桜は任せられない。」

「すみません。」

「で、その様子だと、夏也に言われてきたな。」

「はい。」


夏也に言われた内容を春樹に伝えると、春樹は春男とお弁当を食べる準備をした。

春男は、血だらけの春樹を見て、箸が持てるのか、飲み物を飲めるのかとか、心配だったが、夏也の言う通り、春樹は夏也の料理なら食べられる。

一緒に食べている時に、春男は聞いた。


「血だらけだけど、止血はしなくてもいいのですか?」

「止血をしたら、この辺りはもっと腐敗する。」





春樹は、説明をした。


春樹の血は、能力を強化させる。

それは人だけではなく、動植物も対象であり、今回は、この腐敗した地に咲いていた草花が、腐敗させた人間に復讐をする為に、春樹の血が必要になった。


そもそも、春樹の血を知ったのは、春樹が桜の木の根っこを食べたのがきっかけだ。

桜の木が持っていた記憶で、不法投棄をした女性と、春樹の血の能力が繋がり、情報が漏れてしまった。

根っこを食べたのは、春樹の責任だ。

だから、春樹が狙われ、春樹自身が責任を取る為に来た。


血を止血出来ないのは、血の匂いも能力強化には必要で、これを止めてしまうと植物は暴走する。

半年後に亡くなる副作用は、人だけであり、植物には効かないから、この能力を一生維持出来る。





そこまで話すと、夏也の作った弁当を食べ終わった。

ご馳走様をいい、春樹は春男を見ると、春男は今にも泣きそうな顔をしていた。


「そ…もそも、俺の母が関わった事件なのに、春樹さんが責任を感じるなんて、それに、桜を放置したのは、俺の母だ。責任を取るには、俺が背負わなくてはいけない。春樹さんに、こんなに血を流させて、こんな事態を引き起こさせて、俺は…。」


春樹は、春男を抱きしめた。

春男は、春樹の力強さに驚いた。

普段、手芸をして、家で生活をして、見た目細く見えるのに、この力強さは何処から出て来るのだろう。


すると、春樹は春男を抱きしめたまま、身体を反転させる。

春樹は、背中を鞭みたいなモノで攻撃された。


「春樹さん。」

「春男君は、この木から離れないでね。」


春樹は、血だらけのままだが、春男を背にした。

すると、あちらこちらから出て来ている植物のツタっぽいものが、地面から生えて来ていた。


「俺の血は持って行っていいが、復讐はやめろ。」


しかし、攻撃をやめない。

すると、春男は瞬間に背筋を凍らせ、身体を硬直させた。

理由は、今見えている光景である。


「そうか、やめないのか。ならいいんだぞ。この一帯全て焼き尽くしても、根っこから再生出来なくなるまで、土にある微生物も全て失くしてやるぞ。いいのか?子孫が作れなくなっても、そうか、それを望むのか、だったら、今すぐにやってやろう。」


春樹は、装備の中から、殺虫剤やライターなどを取り出した。

そして、今まで預けていた木を人質にし、それらを近づける。


「人間が不法投棄をしたのが悪い、それは認める。だが、復讐はやめろ。俺の血で治癒能力の強化をして、この一帯に再び芽を出させろ。不法投棄されている物は、俺の知り合いに頼んで、撤去する。だから、復讐はやめろ。」


すると、植物のツタは、攻撃をやめ、春樹の身体から出ている血を絡み取る。


「説得完了。春男君?どうしましたか?」

「い………いや。」


春男は、春樹には絶対、怒らせない、逆らわない、無理させないの「お・さ・む」を記憶し、身体に沁み込ませた。

見た目、夏也は体力、春樹は頭脳と思っていたが、逆だったようだ。

見た目で判断をしてはならない。


「さて、この地にいる植物達は俺の血で治癒能力を強化されたから、仕上げをしましょう。春男君。」

「はい、これですね。」


すぐさま、リュックから夏也が作ったお菓子を出した。

重箱に丁寧に入れられ、見た目とても美味しそうであるが、人間は食べられない。


「植物達よ、夏也の名前は知っているだろ?すごくおいしいお菓子を作っている人だ。その夏也が作ったお菓子が、ここにある。」


その一言で、周りの空気が変わった。

今まで暗いイメージだったが、明るく変化をした。


「そうか、夏也の名前はここの植物達も知っていたか。なら早い、俺の血と夏也のお菓子で、この一帯を浄化し、また、生きられると思う。ただし、条件は復讐はしないだ。それを守れるなら、このお菓子をばらまこう。」


春樹は、お菓子の入っている重箱を片手にセットした。

すると、周りの雰囲気が変わり、まるで「皆が席に座り、一斉にいただきますをするのを待つ」人間の様だ。


「このお菓子を食べた瞬間に、契約成立だ。」


春樹は、その場に夏也のお菓子をばらまくと、地面に触れた瞬間にお菓子は消えた。

後二段のお菓子もばらまき、消えていくお菓子。


「おいしいか。もし、まだ、必要なら人間の恰好をして、夏也の元へと出向いてくれ。きっと、これよりもおいしいお菓子を用意してくれる。」


すると、地面の一部に筋が入った。

今まで地面は、柔らかかったが、急に硬く変化した。

歩きやすくなっているのが、見て分かる。


「もう、俺の血はいいのか?」


確認すると、その土が淡いが光った。

春樹が荷物をまとめていると、春男も手伝った。

二人とも、ゴミが無いように周りを見渡し、荷物を持つ。


春樹は、守ってくれていた木に触れて。


「さっきは、危ない物を近づけてごめんなさい。そして、今まで俺を守ってくれてありがとう。貴方には、夏也に言って、いいお菓子を用意させるよ。」


木は少し揺れて、葉を春樹の手に落ちる。



その後、山から下山した。

山の入口に着くと、急に春樹は倒れた。

春男は、春樹に声をかけるが、意識はなく、反応が返ってこない。


スマートフォンで、救急車を呼びたかったが、春樹の血は特別だ。

救急隊員が、能力強化を欲している人物だと、危険だと思い、連絡を交換した桜に電話をした。

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