15「適材」


こんな形で、この家に入りたくなかった。


普通にお邪魔して、家を見たかった。


桜の部屋もどんな風なんだろうって、見たかった。


なのに、こんな事態になってしまった。





家の中を見回さず居間に通された春男と姫は、予め作ってあった夏也のお菓子とお茶を出された。

そして、貢から説明をされる。

二人共、春樹の血については知っていたから、話しやすかった。


「簡潔に話すと、春樹君の血の能力が知られ始めているってこと。相手は、人か、人じゃないかわからないが、春樹君一人で片付けようとしている。少し、悪いとは思ったけど、春男君のお母さん、秋美あきみさんについて調べた。」



貢は、その報告書を出した。



簡単に説明をすると、秋美は、不法投棄をしているグループに入っていた。

入っていたと言っても、三年位であった。

入ったきっかけは、お金が良く入るからだ。


そんな時、不法投棄をしようと車に物を積んでいる時、参二に会った。

参二の職業は、リサイクル業者で、不法投棄を無くす運動をしていた。

車に積んでいる物をみて、処分方法を教えたのが、最初である。

ゴミの処分方法を、全く知らない人だと思われたのか、参二はゴミの日になると、秋美に声をかけるようになった。


色々と話している内に、秋美は参二に惹かれて告白した。

参二も秋美を受け入れて、出会って一年だが、結婚した。

その一年後に、子供が出来て、出産した。

だが、幸せは続かなかった。


不法投棄のグループを抜けると連絡すると「最後の仕事をしろ」と言われた。

その仕事が、一人の赤ん坊を山に放置してこいだった。

赤ん坊は、自分の息子と一緒の年齢で、まだ生まれたばかりであった。

仕事をこなすか、監視も二人つけ、ナイフも持っていた。


山へ放置をしたが、一時間したら内緒で迎えに行って、参二と話しをして、自分の子として育てるつもりだった。

しかし、その一時間の間に、山には警察や山の管理者が来ていて、出て行けなかった。


その事件を知った不法投棄グループは、秋美が呼んだと思った。

秋美は、グループの裏切り者として、命を取られた。

だが、秋美は最後の手段として、不法投棄グループのリストを身につけていた。

亡くなった秋美が発見され、警察が持ち物を探ると、下着に挟まっていたリストから、不法投棄グループを突き止め、その後、不法投棄グループは全員捕まり、不法投棄した山も特定して、山川は仲間と一緒に自然を復活させていった。




しかし、たった一つの不法投棄した場所は、とても腐敗が激しく、匂いもきつくて、近寄れたモノじゃなかった。


「その場所に春樹君は、いる。そして、もはや分かっていると思うが、その赤ちゃんこそ、桜だ。」


貢は、いうのも拒む位だったが、いずれ知られる話。

春男は、桜を見た。

桜は、父親が一人失踪したのと、自分の事を知ったショックで、元気が無かった。


「国田。桜を頼む。」

「梅賀君?」


席を立ち、夏也の所へと行く。

夏也は、大量のお菓子を作り終えた所で、エプロンを外している。

いきなり、台所に来た春男を見て、夏也は何がしたいのか、言いたいのか、分かっていた。


「はい。春男君。」


重箱三段を渡された。

それと、四角いお弁当箱が二つあった。


「明日も、貢さんも俺も仕事だし、桜は精神状態は良くないから、明日は休ませるよ。参二さんには、言っておくから、春樹を迎えに行くの頼めるか?」


夏也の顔を見ると、春男は目を大きく開けた。

包みを受け取り、了解した。


夏也は次に、居間に行くと、姫を春樹の仕事場へ誘導する。

姫は、桜が心配だったが、新しいキツメブランドの仕事場を見られると内心ときめいていた。


「さ、ここに座って下さい。」


姫は、見ただけで分かる位、そこは春樹が仕事で使う椅子だった。

少し躊躇をしたが、夏也の指示に従う。

椅子に座ると、二つの仕事内容がかかれた紙を渡した。


「春樹からの依頼だよ。これ春樹が帰ってくるまでにこなせたら、キツメブランドで働くのを認めてくれるかもね。」


春樹の開けてねファイルには、姫のケアもあった。

桜が心配で姫まで落ち込んでしまうのではないかと思い、姫に仕事を与えたのだ。


仕事内容は、服を作れるくらいの人なら簡単で、一件が裾直しでスカートが送られている。

もう一つは、姫が得意としているバレッタのリボン作りである。

見本として、依頼者から手書きで書かれた紙があった。

それに沿って作成する。

材料は、部屋の物を使っていいと許可があった。


「国田さんには、連絡しておくよ。だから、この仕事場で作ってね。」

「そんな事している訳には、桜が…。」

「そんな事?」

「っ。」


姫は、一瞬で身体が硬直した。


「仕事にそんな事はないんだよ。姫ちゃん。それに、桜は春樹が帰ってくるまで、休ませるから、この家で俺達が仕事から帰ってくるまで、桜の様子も見てあげてくれると助かるよ。それに、これはキツメブランドで働ける為の試練でもある。こなせるね。」

「はい。」


姫は早速、この仕事場の配置を記憶した。

引き出しの中、クローゼットの中、ソファーの位置、ミシンの設定等。

スイッチが入ったか、手芸の顔をさせた姫を見ると、夏也は姫は、もう安心していいと確定した。




再び、居間に戻り、春男と貢が桜を見ている。

桜は、まだ元気がない。


「さて、春男君。説明をするよ。分かっていると思うけど、その重箱には植物に必要な肥料を使ったお菓子が入っている。記憶で見たと思うが、俺のお菓子は植物に好評だ。きっと、どんな植物も食べてくれると思う。それと、二つの箱だけど、それは春樹と春男の食料だ。春樹がいる所へ着いたら、きっと春樹は血だらけになっていると想像される。食事が摂れないと思うけれど、俺の料理なら春樹は受け入れる。だから、一緒に食べておいで。」

「それが、夏也さんが行けない、いや、行く事が出来ない理由ですね。」

「そうだよ。俺にとっては、春樹の血は毒だからね。」

「わかりました。」


一応、春男に、手が空く、リュックに重箱とお弁当、それに飲み物を入れて、渡して、位置を確認させる為、春樹が置いて行ったGPSの指輪を紐で通して、首にかけると、貢が呼んでいたタクシーが来た。

タクシーに乗らせて、行き先を運転手に夏也が告げて、お金を先払いする。

おつりは取っておいて欲しいが、会計上出来ないなら、春男に渡して欲しいと言って、見送った。


夏也は、台所へと行き、今度は、四人分の夕食を作る用意をした。

貢は、梅賀と国田の家に電話をして、梅賀には正直に話し、国田には真実を隠して、上手に話して、納得してもらった。

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