14「失踪」

一方、夏也は、桜がいた山にきていた。

桜が見つかり、十五年は経っているから、もう、立ち入り禁止の印はなかった。

山川は、年だったから、出向いては来なかったが、入る許可は得られた。


桜の木に来た。

とても、綺麗に咲いている。

この桜の木にも、お菓子を供えると、急に周りの植物が落ち着きがない様子で、木の枝は揺れて、草花は閉じたり、開いたりしている。

急に、風が吹いて、夏也は目を閉じてしまった。


暫くして、目を開けると、いつ来たのか分からない女性がいた。

女性は、夏也が見えないのか、桜の木に来て、一緒に来ていた男性二人が何かを支持している。

女性は、膝まづいたと思ったら、直ぐ様、男性達と去っていく。

夏也は、女性を止めようと手を伸ばすが、掴めなかった。

だが、その時、また風が吹いて、女性の顔が見えるように夏也に見せる。


夏也は、女性の顔を記憶した。





現実へと戻り、まわりを見るが、人が来ていた気配がない。

夏也は桜の木の根っこを少しだけ貰う。

ここの山を管理している山川に許可を得ての、行動である。


根っこを持ち帰った夏也は、家に帰ると、根っこをどうしようかと思っていた。

桜の花びらは、塩漬けもある位だから、食べられるが、根っこは食べられるかは知らなかった。

また、桜花頼みになるのかと思ったが、その時、春樹が仕事場から休憩に台所へと来た。


「夏也、お帰り。根っこ取ってこれたの?」

「ただいま、春樹。ああ、一応、綺麗に洗ってみたけれど、根っこが食べられるかは知らないから、仕事場の上司に訊いてみようかと思って……。春樹、その顔は何?」

「ん?一度、そのまま食べたらどうかなって思って、なんかパイみたいだよ。」

「パイって、確かに、砂糖を塗したら、そうかもしれんが、木の根っこだ。」


春樹は、根っこを手に取ると、匂いを嗅ぐ。

すると、とても美味しそうな香りがしていた。


「ねえ、夏也、これ、美味しそうな匂いがするよ。」

「まさか。」


夏也も匂いを嗅ぐが、パイの香りはしなかった。


「これ、俺、食べて見て良い?」

「わけない。」

「そうはいわず。」

「ダメったらダメ。」


すると、春樹は瞬間的に、根っこを少し口に含んだ。

咀嚼をする。


「春樹、吐き出せ。」

「あれ、でも、これ、パイだ。」

「は?」

「でも、夏也は食べないで、これ、俺限定だ。」

「は?」

「分かった。これ、俺限定で食べていいと言っている。血か何か知らないけれど、懐かしい感じがしている。そうだ。俺の血の原点となった人は、桜の木の根っこをかじった。だから、俺は免疫があるんだ。」


夏也は、一人で納得する春樹の言葉から、なんとなく理解した。

春樹だけが、木の根っこをかじっても大丈夫な身体になっていた。


「夏也が見た女性、俺も根っこの記憶から分かったよ。でも、あの女性の顔、最近どこかで見たことがあるんだよな。」

「春樹もか。俺もだ。」


すると、何故か、春男の顔が過ぎった。


「夏也、これって。」

「調べて見る価値あるな。事と次第によっては、桜と引き離さないといけなくなる。」

「そうだね。これは、貢さんの仕事だ。」

「今日帰って来たら、提案してみよう。」

「桜には、まだ。」

「ああ、まだだな。それと、今は引き離すのはしないで、見守ろう。」





桜が帰って来て、貢が帰って来て、一緒に夕ご飯を食べて、桜が風呂に入っている時。

貢の部屋にて、春樹と夏也は話をした。

桜の風呂時間の間に、話を済ませたかった。


「分かった。調べて見るよ。」

「無理言ってすまない。」

「いやいいよ。知り合いの探偵がいるし、頼んでみる。」

「お義父さんの知り合いって、どんな人がいるんだよ。」

「結構、色んな業種に渡っているよ。防犯カメラの設置するお客様と、知り合いになるし、その他にも色々とね。今では国の依頼を受けて、新システムの開発をしているから、そちら方面でもいるよ。」


すると、貢の部屋をノックする音が聞こえた。


「父さんいるの?お風呂開いたよ。」

「ありがとう、桜。」


夏也は、桜の言葉で、貢の部屋を出ると、桜が入れ替わりに入ってきた。

そこには、春樹もいたから、三人で何の話をしていたのかを訊く。


「春男君の事だよ。春樹に許可をしてやれと言っていた所だよ。」

「そうなの?で、お父さん、許可は?」

「まだ駄目です。」

「あと、お父さんだけなんだよ。結構、硬いんだね。」

「俺の試練を乗り越えてくれないとね。それはそうと、宿題はあるの?」

「ある。でも、自分で出来るから大丈夫。」


桜は、自分の部屋へと行った。

貢と春樹は、顔を合わせて、一つ息を吐く。


「では、お義父さん、お願いします。」


春樹は、一礼をして、貢の部屋を出た。

貢は、早速、何処かへと連絡をし始めた。





二週間後


赤野家に、一台の車が止まった。

車から出てきたのは、真っ黒いスーツを着た男性が二人である。


夏也は、休暇を満喫して、仕事へと、今日復帰した。

貢は、いつものように仕事に出向いている。

桜も、学生の本分を受けに登校していった。


赤野家には、今は春樹しかいなかった。


チャイムが鳴らされる。

暫くしてから、春樹が玄関を開けた。

春樹の恰好は、連れ去られないように、ガッチリとした服装だ。

GPSの指輪も、指にはまっている。


「どなたですか?」


貢が、白田として来た時と同じく、上から下、下から上に見た。

すると、茶封筒を春樹に渡した。


「貢様から受けた依頼の結果です。」

「あっ、それはどうも。」

「それと、春樹様ですよね?」

「そうです。」

「気を付けてください。春樹様、狙われていると思います。貢様でも夏也様でも桜様でもなく、春樹様だけです。」

「俺だけ。」


すると、真っ黒のスーツを着た男性は、車に戻り、去って行った。

一人残された春樹は、依頼された報告書を、早速自分の仕事場へ戻り、読む。

すると、春樹は、真実を知った。


今ある仕事の量を見ると、余裕があった。


春樹は、自分の身に何かあった時の為に、ワードで作成した「01」というタイトルを「開けてね」と名前を変更し、いつでも出られるようにと用意していたカバンを持って、玄関に来た。

GPSの指輪は充電器に置いて「三日で帰る」とメモを残した。


そして、家を出て、タクシーを拾い、とある場所へ向かった。






最初に帰ってきたのは、桜だった。

桜は、帰ってきた時に指輪を充電器に置くが、春樹の指輪があるのを確認して、メモを見た瞬間、一気に心配が身体を支配した。


まだ、仕事中かもしれないが、まずは、夏也に連絡をした。

しかし、出なかった。

貢に連絡をすると、車に乗りながらも会話出来るようにしてあったから、出てくれた。


「どうしたの?桜。」

「お父さんが。」

「春樹君が、何?」


桜は、今の状況を少し息を詰まらせながら話をした。

すると、貢は一度会社へ電話をして、直帰するのを連絡を入れて、そのまま、家に帰った。

帰ると、玄関で座って、春樹のメモを見ながらいる桜を見た。


「桜。」

「お爺ちゃん。」


貢は、こんな時、春樹ならどうするかを知っていた。

そう、きつめの真似をする。


春樹の仕事部屋へ行くと、貢が頼んであった報告書の一ページに付箋を貼り、パソコンを見ると「開けてね」とワードで作ったファイルが、トップページに一つあった。


開けてねファイルを開くと、書いてあったのは、春樹がいなくなってからの対応だった。

その中でも、心配をしていたのは、桜の事だ。

事細かに対応が書かれてある。


それを桜は読むと。


「お爺ちゃん、お父さんが何処へ行ったのか、知っている?」

「多分ね。」

「なら、案内して。」

「でも、三日で帰ってくるって書いてあるし、大丈夫だと思う。それに、春樹君、桜には見られたくないと思うよ。」

「それはどういう事?」


すると、玄関から音を立てて来た人物がいた。

夏也だ。


「桜、いるか?」

「父さん。」


夏也にも説明をすると、夏也は台所へ行った。

早速、お菓子を大量に作成し始めていた。


「夏也君、何を?」

「春樹を取り戻す為の準備をしています。」


夏也は、ボールに粉を入れたりして、いつもの様な手さばきをさせた。


「春樹の血を本格的に狙ってきている。」

「ダメだよ。危険すぎる。」

「いや、危険なのは春樹ではない。相手だ。」

「は?」


そう、夏也はあの石で出来た祠の闘いを知っている。

春樹を止めないと、災厄に包まれる。


その時である。

赤野家のチャイムが鳴った。

防犯カメラで見ると、そこには春男と姫がいた。

桜が出る。


「桜、遊びにきたよ。」

「建物の中、見せてくれ。」


今日、桜は春男と姫に家と部屋を見せる約束をしていた。

桜の態度と表情が思わしくないのを、二人は気づいた。


「何があった?」


春男は、桜の肩に手を置いて、顔を見た。

桜は、何故か安心して、春男の胸に顔をうずめて泣いた。

姫は、桜の頭を落ち着かせるように撫でた。

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