13「情報」

月曜日


家から出ると、玄関先に居たのは、春男だ。

春男は、桜を待っていた。


「春男君、こんな朝早くにどうしたの?」


すると、春男は家の前にも関わらず、膝まづいた。

この瞬間、貢は血の気が引く音が聞こえた。


「家を与えて下さりありがとうございます。自分の部屋が出来ました。」

「ちょ、門先でやめてください。話なら、登校しながら聞くから。」


まだ、夏也は休みの期間で、玄関から出て来たのは桜と貢だ。

貢は、赤野家に初めて訪れた時に、春樹に膝まづいたのを思い出した。

あれは、黒歴史というのではないだろうか。


「あっ、貢さん、提案ありがとうございます。トラックもお貸しいただきまして、助かりました。」

「…それは良かった。古い家でごめんね。」

「そんな、素敵なお住まいです。あの部屋を全て支えられている柱は、何十メートル地面を掘って建てられているのかを計算するのが、すごく楽しみです。また、外のトイレも階段下のスペースを無駄なく配置しているのが、素晴らしい。」


普通に立ち上がり、貢と話をしている。


「それに、屋上に設置してある太陽光の重さも計算すると、普通に考えてありえない作りをしているが、そこをカバーしているのは、住まいの強度だ。柱が何を使っているのかも知りたいな。そんな研究が出来る家を提供して下さりありがとうございます。」


話の内容を訊いて、桜は。


「まさか。春男君が住んでいる場所って。」

「うん。元赤野家だよ。昨日、引っ越し完了したんだ。」

「お爺ちゃん。説明ありますよね?」


桜は、貢に訊いた。

貢は言いずらそうにして、車に乗りながら。


「今日、学校帰って来たら話すから、今は、自分の仕事しに行こうな。」

「絶対だよ。」


車にエンジンをかけて、仕事へと向かった。

二人になる桜と春男。


「で、まだわからないと思うけど、住み心地どうなのよ?」

「いいぞ!まだ、桜の香りがしているよ。」

「は?」

「ほら、桜、過ごしていた家だろ?桜の香りがしてもおかしくない。」

「もう、春男の言動には突っ込まないけど、恥ずかしくないの。その言い方。」

「恥ずかしくない。好きな人のことだからな。」


桜は、もはや春男を理解し始めていた。

登校中、二人でいる姿を見て、周りは二人は付き合い始めたと思い、二人に関与してこなかった。

どちらかといえば、見守る姿勢に入った。




「桜。」

「姫。」

「どういう展開になっているのか、お話聞かせて。」


桜と姫は、昼ご飯を人気の少ない場所に移動して、食べていた。


その時に、全て話をした。

姫には、血の能力の話はしていなかったが、春男と対峙するなら情報は同じでなくてはならない。

だから、春男が得た情報と同じ情報を話した。


姫は、ゆっくり、つっこまずに、ひたすらご飯を食べながら聞いていた。

今日の姫が食べているご飯は、菓子パンと紙パック状の牛乳だ。

全てを訊き終わった時、姫はもはや食べ終わって、空を眺めていた。


「なるほどね。これで納得出来たわ。お父さんだけの家庭とか、男だけなのに女の桜が一緒に住んでいたり……それに、春樹さんの手伝いをした時に、春樹さん、怪我を恐れていたの。」


姫は、桜の顔を見て、続きを話していいのかを確認すると、良いと判断した。


「手伝いをした時、春樹さんは布を切る時や、針を扱う時、ミシンを使う時、見ていても分かる位慎重だったの。手芸に携わらない人は、その姿を見ると丁寧にしてくれていると感じると思う。けど、私からみれば、丁寧よりも慎重と感じたわ。」

「姫。」

「だから、何かあると思っていたけど、なるほど。そんな能力を血に持っているなら、あの行動に納得がいく。」


口元に手を持っていく姫。


「だとすると、怪我に繋がりそうなことは、私が手伝えばいいんだ。」

「ひ…姫?」

「ねえ、春樹さん、仕事大変になってないかしら?私、いつでも手伝えるって伝えてくれる?」

「う…うん。伝えて置く。」

「ありがとう。」


姫は、桜の右手を丁寧に両手で取り、泣いていた。

桜はどうしていいのか分からず、左手を使い、ハンカチを出した。

ハンカチを姫の頬に当てる。


「桜……家庭の事情を伝えるの……とっても勇気を出したと思うと……それに、それを私に伝えるのも……簡単な気持ちではなかった……そう思ったら、泣けて来て。」

「ごめん。泣かせるつもりはなかったの。」

「ううん。こっちこそ、泣いてごめん。」


泣き終わり、姫がいつも通り話が出来ると認識すると。


「これからも、親友で……いてくれる?」

「もちろんよ。」


姫は、ずっと離さなかった右手を、持ち上げる。

いつものごっこだと思っていた桜だったが、瞬間に右手の甲にキスをした。

今回は、ごっこではない、本気だ。


「ひ…姫?」

「やっぱり、私、桜の事諦められない。このままいけば、梅賀と桜は結婚するかもしれない。それでも構わない。」

「え?ええ?」

「ダメ?」

「いや、その…。」


すると、二人の間に入る人がいた。

桜を探しに校内を走りまくっていた春男だ。

春男は、汗を流している。


「探したぞ。桜。」

「春男。」

「ちょっと、邪魔しないでくれる?」


春男は、姫を見た。

今までの春男なら、ここで口論をするのだが。


「国田、俺は国田毎、桜を愛する。だから、安心しろ。」


その一言で、姫は心にあった棘が一気に取り除かれた。


春男は、姫が桜を好きでいようが、結局は結婚するのは自分だと、確証している。

まだ、春樹からの了承は出来てないが、お互いの親が認めてくれているのが、効いていて自信へと繋がっている。

だから、もう、嫉妬はしなくていい。


「な、何よ。梅賀君なんて。」

「別にいいよ。俺を気に入らなくて、でも、俺は桜の親友を嫌うなんて出来ない。話をして行きたい。」

「ちょ…どうしたのよ?この前まで、暴走気味だったじゃない。」

「別に、ただ、変わらないとなって思って。」


春男は、桜を見ると、左手に桜が使っていたお弁当箱を持ち、右手を差し出した。


「さ、五時間目の授業、もう始まっている。遅刻だが三人一緒に深川先生に怒られようぜ。」


桜は、左手を出して春男の手を取り、右手は姫に手を差し出す。


「さ、姫も。」


姫は、素直に桜の右手を掴んだ。


そして、深川先生に仲良く叱られた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る