12「過去」

早速、桜花が春男の記憶を探る。

けど、梅賀春男は、赤野春男とは違う魂であった。


「そうか。前世からの恋人ではなかったのか。」

「がっかりしてる?」

「それはない。俺は俺だし、桜のひいじいちゃんはひいじいちゃんだ。それに、俺じゃない人が桜と一緒になるなんて、嫌だからな。」


しかし、この春男はとても度胸がある。

ありえない記憶を見せられても、折れない。

その根底にあるのは、赤野桜に対する好意が支えとなっている。

ここで、梅賀春男の気持ちが赤野桜に届かなかった時が、とても恐ろしい。


「さて、お花見も終わったし、帰りますか。」


夏也が腰を上げ、荷物の片付けに入る。

桜花が、少し寂しそうだ。


「また、会いに来ます。」


春樹が桜花を抱きしめると、桜花も春樹を抱きしめる。

その姿に、春男は夏也に。


「いいですか?婚約者、他の人に抱きしめられてますよ?」

「桜花はいいんだ。」

「そう。俺だったら、嫌ですけどね。」

「一般的にはね。でも、俺達の愛情は、これでいいんだよ。それに。」


夏也は、春樹と桜花を見つめる。


「桜花の姿が、俺の師匠、きつめさんの姿をしているから、抱き合っていても、親子の抱擁としか思えなくてね。きつめさんが桜花の身体を借りて、息子の春樹に会いに来ていると思うと、邪魔出来ないよ。」

「そんなもんですか?」

「そんなもんです。」


夏也と春男は、顔を合わせると、奥歯が見えるのではと思う位、ニコッと笑った。

桜花と離れ、車に乗ってエンジンを掛けた。


「記憶を見たのですが、お墓参りはいいんですか?」

「なら、少し、遅くなるけどいいかな?」

「いいですよ。何れは、俺も一緒に入る墓だから、場所は知っておきたいな。」

「まだ、結婚許してないんだけど。」

「でも、許してくれるでしょ?」

「これからの春男君次第だ。」


夏也は、すっかり春男に気に入られている。

素直に本音で話すのは、相手を傷つけないかとか、変な人に思われないかとか、色々と考えてしまい、容易に出来ないが、この春男に至っては、それが武器になっている。


春樹は、春男の話し方が、懐かしいと感じていた。

そう、きつめと話しをしている感覚になる。

一応、年上であり、思い人の保護者だから、敬語に近い丁寧語を使っているが、それでも少し乱暴で砕けた表現は似ている。


墓に行く前に、近くの道の駅で菊の花を買い、向かった。

墓は、少し周りに草が生えていたから、取り除いて、水を持って来て、綺麗にした。

赤野家と黒水家の墓が、夕日に光っている。


手を合わせて、祈る。


祈りが済むと、春男は二つの墓に一礼をした。


「これから失礼な言葉を言うかもしれませんが、俺の意思表示です。俺、梅賀春男は、赤野桜をどんなことがあっても一生愛し、守り、そして一緒にいます。ですので、ここにいる、赤野春樹さんと赤野夏也さん、そして赤野貢さんが、俺と桜の結婚を認めてくださるよう、見守っていてください。」


春男の意思は、とても硬かった。

その一言で、桜は顔を赤く染めていた。

夕日のせいではない。


その春男に、漫才コンビが突っ込みをする手つきで、春樹と夏也が突っ込む。


「「いいかげんにしろ。」」

「ぐっ。」


突っ込みが少しだけ強かった。

春男が、少しだけ胸辺りを押さえている。

その姿を見て、桜は、微笑んだ。






赤野家に帰ってきた。

玄関先で、春男と連絡先を交換し見送ると、桜は少しだけ寂しい顔をさせた。


「もう少し、一緒にいたかった?」


春樹が訊く。


「そうかも。」


素直に答える。

何故か、春樹に訊かれると、素直に答える人が、過去に多くいた。

これは、血の能力がそうさせるのだろう。


「大丈夫、春男君を信じて。」

「うん。」

「さて、春先とはいえ、冷えるから家の中に行こう。」


家に入ると、貢がいて、久々に腕を振るい中華を作ってくれていた。

チャーハン、餃子、それに酸辣湯である。

チャーハンは、野菜いっぱい入っていた。

餃子は、中身がにんにくいっぱいだ。

酸辣湯は、辛いが卵がまろやかにしてくれている。


少しだけ冷えた体に良かった。


「ありがとうございます。義父さん。」


夏也がいうと、春樹も桜もお礼を言った。

そして、情報交換とした。


今日あった出来事を、家族で話をし、共有した。


「皿洗いは、俺がやります。桜はお風呂に入って、今日はゆっくり休みなさい。」

「父さん。ありがとう。」


夏也は、台所から桜を出した。


「春樹、お前も仕事のスケジュールを確認したら、休め。明日からの仕事につっかえるぞ。」

「そうだね。ありがとう。」


桜が完璧に風呂へと行ったのと、春樹が完璧に仕事部屋に行ったのを確認すると、夏也は貢に話をする。


「月曜日、桜が居た木にいってみようと思います。山川さんに許可を得られませんか?」

「分かった。連絡をしておく。しかし、木の根っこか。春男君は、よく気づくね。」

「関心しました。所で、今までの家は、勧められましたか?」

「喜んでくれたよ。でも、複雑な思いをした。」

「でしょうね。辛い役割をさせてしまった。」

「いいんだよ。……、もしかしたら、赤野家は黒水家を援助なしで、繋がりたかったのかもしれない。だけど、黒水が納得してくれないと思ったから、援助の形で交渉をしたと感じた。」


貢は、両手を握りしめる。

そんな貢に、夏也は温かいお茶を出した。

話を聞く為に椅子に座った。


「黒水の鳥と話が出来る能力と、赤野の桜の木を大切にする活動、二つが合わされば、自然を大切にするシステムが完成しただろう。そこまで持っていくのには、関係を結ばないと難しい。だから、援助を武器にして、何も言わせなかった。」

「そうかもしれませんね。」

「でも、本当は、普通に仲良くしたかったのかもしれない。」

「そこに気づいてくれた人がいただけでも、かつての赤野家は救われたと思う。外から見ていた白田貢だからこそ。」


すると、貢は一筋涙が頬を伝った。

夏也が机に置いてあるティッシュを、黙って貢の前に置いた。

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