22「後継」

夏也は、暫く、ホテルの仕事を休んだ。

両親がやっていた仕事内容に、ショックを受けたからだ。

どんな研究をしていたのか、知って見るとあまりにも怖かった。


そんな時に春樹に助けを求める山があり、春樹と春男は出向いた。

夏也を姫と春香に任せた。

春香は、夏也に胃に優しい食べ物を作り、持って来て、声を掛けた。


「爺ちゃん。食べないと駄目だよ。」


春香は、もう、中学一年生で、料理も春男から習い出来ていた。

姫も、夏也に気を使い、自分の仕事をしながら、様子を見ていた。

その時である。


春樹が血を流し過ぎて、意識を失っていた。

春男が付いていたが、今回の山は、とても春樹の血と夏也のお菓子だけでは、足りなかった。

春樹は、自分の限界を超えた量を与えてしまったが、山への説得は出来た。





夏也は、さらに落ち込むが、急に回復をした。

回復したのは、今までお菓子を与えて来た植物達が、一斉に夏也の元へ押しかけたからだ。

片っ端から撫ぜられ、猫みたいにスリスリされ、抱き着かれて、おしくらまんじゅうみたいにされた。

瞬間、とても鬱陶しくて、大きな声を出してみたら、すっきりしたのである。


そして、考えを整理した。


確かに両親が作っていた薬と、その使用については怖かった。

怖かったからこそ、言えなく、夏也を小さい頃から、赤野きつめに任せた理由が、わかった。

親になって見て、感じる世界がある。





もし、この薬の所為で夏也が巻き込まれてしまったらと思った。

だから、夏也は赤野家の人だと、早く認識させ、緑沢の領域から出したかった。

きつめは、その意思を感じてはいて、夏也を春樹と今まで以上に仲良くさせる為、家に招いて、料理を作って食べさせ、一緒に大会にも行き、自分の子、春樹と同等に接した。


そうだ。


きつめは、全てを把握していて、その息子である春樹も理解していた。

春樹は、素直に受け取り、夏也と出会った時から、喜怒哀楽を共にし、今も一緒に生きている。



それに、薬で制御するのではなく、一人一人の心に住んでいる気持ちを、個人で制御してこそ世界だ。



それには、数多くの人や動植物の協力も必要で、共存をしていかなければならない。


夏也は、自分の気持ちを持ち直した時、春樹が目を覚ました報告を受けた。

山川宝護の説明では、春樹は自分では歩けないと診断され、車椅子の用意をされた。




春樹は、目を覚ました時に、姫が見えた。

姫に、一言。


「頼む。」


春樹と姫と南條の三人で決めた言葉。

この言葉が、春樹の口から出た時は、キツメブランドを姫に移す時だ。

その手続きを南條に任せる。


その日から、姫と南條はキツメブランドの会社を大きくする計画を立ててあり、一つのビルに移転した。

そのビルは、隣に倉庫があって、倉庫もビルの一部であった。

ビルと倉庫の間には、自動販売機を設置して、キツメブランドの社員に使って貰える為、一般的に百五十円のジュースを五十円で買える金額に設定した。

内容も幅広く、コーンスープやめんつゆ等も入れていて、何が出て来るのか分からないボタンも用意した。


姫は南條に告白をして、南條も姫の気持ちを受け入れたばかりであった。

キツメブランドは、国田姫と国田奨が引き継いでいく。

のちに、世界に通用する大きな企業へと成長をし、稼いだ資金の一部は、自然を守る為に山の維持をしている企業へ、提供をしていた。




赤野の家には、姫が使っていた部屋は空になり、春樹の仕事部屋は、以前の様に客間へと戻し、その部屋に春樹は移動した。

順番に春樹は、起き上がれなくなっていたから、一階がいいと判断された。


夏也は、その横にある客間に移動し、春樹の様子を見た。


二階にある四部屋は、奥から一つの部屋は開けて置き、二つ目は春香、三つめは桜、四つ目は春男が使っていた。

梅賀家になっていた、元赤野の家は、綺麗に掃除をして、春樹が血を流した時に夏也が行ける為と、まだ先だが春香が結婚したいと言った時に住む家として、保管している。



そんな日々が続いた時、夏也も足を悪くした。

理由は、ショックが続いた事により、身体が保てなくなっていた。

仕事も辞めて、春樹と一緒に療養していた。




春香が中学三年になった時。

四月三十日。

春男と桜の結婚記念日である。


その日は、毎年行っている桜花に会いに行く日にしていた。

桜花は、春樹が倒れてから、少し元気がなかった。


春香から、おはぎとお菓子を持たされた春男と桜は、桜花の元へと出向いた。

相変わらず、桜花の所に行く道は、とても難儀である。

しかし、もう慣れた道であった。


「桜花、来たぞ。」


春男が声を掛けると、毎年、春樹の母、きつめの姿をして迎えてくれたが、今回は何も変化が無かった。

本当に、桜の木が、そこに植わっている状態だ。

早速、おはぎの包みを桜花の前に出した瞬間、桜の木が一気に砕けた。

その言葉通りに砕けた。


一瞬にして、ここに桜の木が植わっていたのかと思う程に、痕跡を残さず、無くなり、砕け散った欠片は、風に乗って飛んで行ってしまった。


その時、春男のスマートフォンに連絡が入る。

相手は春香からだ。

連絡を受けた時、春香の声は、混乱をしていて、震えていた。


「春樹お爺ちゃんのメーターが、真っ直ぐになった。」


春男と桜は、急いで帰り、春樹の部屋に入ると、夏也が春樹の手を取って見ていた。

春香も、春樹の傍にいた。


それから、五年後、夏也も春樹の元へと行ってしまい、春男と桜は、娘の春香と、息子の夏男と一緒に、赤野家と黒水家、そして、白田家、梅賀家、竹林家の墓参りをした。

春男は、車の中で、子供達が墓参りをする家について、質問をして、それを丁寧に順番に答えていくと、桜と共に、昔話に懐かしさを感じていた。


「本当に、素敵だよね。」

「そうそう。」

「「うちのとうさんたちは。」」


仲の良い春男と桜を、春香と夏男が見ると、微笑んだ。


桜は、車から流れる景色に、桜の木が見えると、後部座席にいる子供達に見られないように、指を絡め、これからの平和を祈る気持ちで、力を込めた。









何十年後。


貢が携わっていたプロジェクトで作っていたGPSの機械がついに完成し、ドローンや衛星っぽいものも宇宙に飛ばされ、全ての国が、そのシステムを構築した時には、もう、春香と夏男はいない世界となっていた。


しかし、山や植物は覚えている。


赤野春樹と緑沢夏也、二人と繋がっている人々の優しさを。

その証拠に、今も、山や植物は、元気で優しく風に揺れていた。


終わり

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