第2話 煙突
家の近所の坂道から、海が見える。
その手前に広がる街並みを貫くように、大きな煙突が立っている。
しかし煙突から煙が出ているのを、これまで私は見たことがなかった。
ある日、坂道を下っている時にふと見ると、煙突から煙が飛び出した。
煙は一塊だけで、後からは何も出てこない。
煙はもやもやと形を変えながら、空に散らばることもせず飛び去って行った。
次が出てくるかと思い、その場に立って暫く見ていたが、それきりだった。
何日か経った後、また坂道を下る時に煙突を見た。
煙は出ていない。
「あの煙突のある工場では、何を作っているんだろう」
何気なく呟くと、後ろから声がした。
「あの工場では、この世の災厄を作っているんだよ」
驚いて振り向くと、とても背の高い男の人が立っていた。
その人は礼服をきちんと着て、手にとても長いステッキを持っていた。
「おお、今度はとても大きな災厄が出来たようだ」
背の高い男の人は、遠くを見ながらそう言って、とてもうれしそうな顔をした。
私が振り向くと、煙突からモクモクと煙が噴き出していた。
血のように鮮やかな色の煙は、途切れることなく次々と噴き出してきて、空を覆いつくしていった。
了
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