第30話 編集者

「サワダ。ちょっと来い」

編集長に呼ばれた僕は、慌てて席を立った。

ぐずぐずしていると、確実に怒鳴られるからだ。


デスクの前に立った僕に、編集長がPCのモニターを向けて言った。

「これな。こいつバッサリ削除して編集してくれ」


「え?全部ですか?これ、結構長いんで大変っすよ」

「だから何?」

編集長の有無を言わせぬ迫力に、すごすごと引き下がる僕。


デスクに戻って、隣の先輩に、つい愚痴をこぼす。

「こんだけ長いと、改編とか消去とか結構手間かかるんですよね」


「仕事なんだから愚痴らない。さっさと片付けちまいな」

先輩の言葉に、ヘイヘイと頷き、僕は仕事に取り掛かる。

本体部分は後回しにして、周辺から編集していきますか。


3日後、周辺部分の作業を終えた僕は、いよいよ本体に取り掛かることにした。

「本体は、どこにいるんだっけ?あ、ここだ」

僕は早速、本体のいる場所に転移する。


「オクモトイサムさんですね?私編集者のサワダと申します。これからあなたを消去させていただきますね」

「はあ?」

まあ、当然の反応だろう。


「実はですね、この世界の歴史の中で、あなたの存在は不要と判断されたのですよ。誰が判断したかって?うちの編集長です」

僕は有無を言わせず畳みかける。


「ご安心下さい。あなたは33年前に既に亡くなっているということになっています。私が3日間かけて、あなたの過去の痕跡をすべて改編した上で、あなたの家族、親族、友人、知人の記憶を改ざんしておりますので、今あなたが消去されても、悲しむ人も喜ぶ人も誰一人いらっしゃいません」


オクモトさんはあまりのことに、口をあんぐりと開けて言葉を失っている。

この状態が消去するにはベストだと判断した僕は、躊躇なく<DELETE110>を、オクモトさんに吹きかけた。


オクモトさんは見事に消去され、編集作業は終了した。

「さて、帰って先輩と一杯やりに行くか」

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