第16話 乗客

その日私は、自宅近くの踏切で電車の通過を待っていた。

駅に近い踏切なので、電車はゆっくりと通過する。

社内の乗客の顔がはっきりと見えるくらいだ。


駅に向かう電車が目の前を通過していった。

何気なく目を上げた時、扉のそばに立っている若い女性と目が合った。


女性は私を見下ろし、電車が通過して行く間中、ずっと目で追って来る。

私も思わずその女性を目で追っていた。

――何だろう?


次の日、同じ時刻、同じ踏切で通過待ちをしていると、また同じ女性と目が合った。

昨日と同じように、じっと私を見ている。


しかし今日はそれだけではなかった。

次の扉のそばに立っている中年男性とも目が合った。

その男性も、じっと私を目で追って来た。


――何なんだ?

私は少し不快な気分になった。

しかしそれで終わりではなかった。


毎日、同じ時刻、同じ踏切で、同じ電車の通過を待っていると、車内から私を見ている人の数が徐々に増えて行ったのだ。

扉近くに立っている人だけでなく、座席に座っている人たちまで、振り返って私を見ている。


私はだんだん気味悪く思う一方で、少しずつ腹も立ってきた。

ある日私は意を決して、その電車に乗ってみることにした。


いつもより早く家を出ると、その電車の出発に間に合うように駅に向かう。

ホームには電車を待っている人が、何故か誰もいなかった。


迎え側のホームを見ると、結構な数の人が電車を待っている。

――変だな。

そう思っていると、電車が滑り込んできた。


私は一瞬躊躇したが、思い切って電車に乗り込んだ。

すると車内の乗客たちが、一斉に笑顔を浮かべて私を見る。

私は怖くなって電車を降りようとしたが、扉が閉まって降りることができない。


すると私の背後から声がかかる。

「お待ちしておりましたよ」

振り向くと、最初に目が合った女性が、満面の笑みを浮かべて立っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る