第40話 雀
私の住む町に、空き地の中にぽつんと建った、小さな2階建ての廃屋がありました。
所有者は随分と前に亡くなって、誰も住む人がいなくなったのですが、家を引き継ぐ人もなく、長年そのまま放置されていたようです。
その家に、いつしか多数のスズメが住み着くようになりました。
家の2階の窓ガラスが割れて、そこから入り込んだ雀が、大繁殖したのでした。
その数は、おそらく数100羽に及んでいました。
雀たちはその廃屋を根城にして、群れになって外に飛び出しては、夜になると戻る暮らしを続けていました。
何しろ数が多いものですから、その鳴き声の騒々しさは半端ではありません。
そして廃屋の前の道は、雀たちの糞で足の踏み場もない状態でした。
臭いも尋常ではありません。
おそらく、廃屋の中で死んだ雀も沢山いたと思われます。
近隣住民が堪りかねて役所に対処を願い出たのですが、個人の所有物であるため、中に入ることが出来なかったそうです。
そしてある日。
近所に住む1人の男性が、我慢の限界を超えてしまいました。
その男性は、廃屋の1階の窓のわずかな隙間から、火の点いた煙草を投げ込んだのです。
男性に、そこまでの悪意はなかったようですが、煙草は運悪く屋内に堆積していた、大量の乾燥した雀の糞の上に落ちて、瞬く間に燃え広がってしまいました。
雀たちはパニックを起こし、2階の窓から一斉に飛び出して行きました。
中には火の点いた状態で飛び出し、力尽きて路上に落ちた雀も沢山いたようです。
もちろん逃げ遅れて、屋内で死んだ数も少なくなかったそうです。
幸い廃屋は空き地の中に建っていたので、周囲への被害はありませんでした。
そして男性は、素知らぬふりを通しました。
その結果、何故突然廃屋から火が上がったのか、警察や消防署の捜査でも分からずじまいでした。
ある夜、男性が1人でアパートの自室で過ごしていると、こつこつと窓を叩く音がしました。
何だろうと男性が窓に目を向けると、突然何か沢山のものが、窓を激しく叩き始めました。
男性は恐ろしくて、窓を開けることもできません。
すると窓に徐々にひびが入り、遂に大きな音を出して割れてしまいました。
割れた窓からは、無数の雀が室内に飛び込んできました。
雀たちはたちまち男性の全身に纏わりつき、そして一斉に発火しました。
男性はその炎に包まれて、焼死してしまいました。
了
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