第35話 デスクトップ

古くなったラップトップを買い替えた。

フリーライターを生業にしているので、パソコンは必須アイテムだ。


パソコンのデスクトップには画面一面に色々な写真が表示される。

放っておいても、自動的に更新されるようだ。


今表示されているのは、草地に3頭の羊が並んで、こちらを見ている写真である。

改めてよく見ると、羊の眼というのは、すこし不気味に感じるものだ。


近くで見ると違うのかも知れないが、眼球の真ん中に筋が1本走っていて、目を開けているのか閉じているのか、よく分からない。

丁度、遮光土偶の眼のような印象を受ける。


3頭の羊の後ろには大きな岩があって、その向こう側は窪地になっているようだ。

そして窪地を挟んだ向こう側には、窪地から切り立った崖が横に広がっている。

向こう側の風景は、霧でかすんで見えた。


仕事が一段落ついたので、ファイルを閉じた時、私は少し違和感を覚えた。

デスクトップの写真の、向こう側の崖に、何か黒いものが写っていたからだ。

その影には頭と手足と尻尾があって、崖を這い降りているように見える。


――こんなのあったっけ?

私はそう思ったが、すぐに思い直し、パソコンを閉じた。


次の日パソコンを立ち上げると、やはりデスクトップには同じ羊の写真が写されていた。

昨日のことが気になったので、写真をよく見ると、黒いものが窪地に降り立って、こちらに向かって来ているように見える。


――そんな訳ないよな。

私は少し不気味に感じたが、急ぎの仕事があったので、すぐにそちらに取り掛かった。


仕事を終えてファイルを閉じると、写真の中にあの黒いものは写っていなかった。

――やっぱり気のせいか。

そう思って、パソコンを閉じる。


翌日パソコンを立ち上げた時、私は思わず声を上げていた。

羊の後ろの岩の向こう側から、黒い大きな腕が付き出していたからだ。

指は5本あり、鋭い爪が指先から突き出している。

怖くなった私は、画面表示を操作して、デスクトップの写真を入れ替え、一旦パソコンを閉じた。


再度立ち上げると、変えたはずの写真が元に戻っている。

しかも3頭のうち1頭の羊が、首だけ残して草地に横たわっていた。

それを見て私は息を呑む。


私が画面を凝視していると、写真はスライドショーを送るように動き出し、黒い手が残り2頭の羊を次々と掴んで、岩の向こう側に持ち去っていった。

その画像を見ながら、私は固まってしまった。


すると今度は、デスクトップの写真が、画面の向こう側にずれ始める。

そしてデスクトップ画面の手前から、徐々に私のラップトップが現れ、画面の奥の方に引っ張られて行った。

我に返った私がラップトップを閉じると、目の前に黒い大きな、血まみれの腕があった。

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