第53話 事故物件

不動産会社の新入社員T君は、今日先輩社員のBさんについて、外回りの実習に来ていた。

場所は都内の住宅地にある、小さなアパートだ。

内覧希望のUというお客さんを案内して、現地に到着したのは午後3時過ぎだった。


Uさんはかなりお喋りなお客さんで、現地に向かう車中、ずっと喋り通しだった。

「俺、フリーター何ですけど、YouTuberもやってるんですよ。あ、ご心配なく。最低限の収入はありますんで、家賃滞納とかしたことないんで」


――じゃあ、どうして引っ越すんだろう?

T君は思ったが、口にはしない。


「お客さん。一応事務所でもお話しましたけど、これからご案内するアパートは事故物件なんですよ」

Bさんの言葉に、Uさんは軽いノリで返す。

「はい、はい。聞いてましたよ。事故物件。いいっすねえ。俺、YouTuberやってるじゃないですか。ぜひ幽霊かなんか撮って、アクセス数爆上がり狙いたいっすよねえ。その部屋で自殺した人がいたとか、そんな感じっすかねえ」


「いえ、自殺ではないです。おそらく病死や事故死でもないんです」

Uさんの軽さにT君は呆れたが、Bさんは淡々と仕事をこなす。さすがだ。


「え、もしかして殺人とかですか?」

「それも違います。一応告知義務があるのでお伝えしますけど、その部屋の入居者が、何人も行方不明になってるんですよ」


それはT君も初耳だったのだ、運転しながら思わず聞き耳を立てた。

「行方不明っすか。ますますミステリーじゃないですか。宇宙人に誘拐されるとか、そんな系統ですかね」

「いや、その辺りは私たちには分からないんですけど…」


Bさんが口を濁したところで、一行は現地に到着する。

目的のアパートは、1階建て横並び3部屋の小さな物件だった。


「へえ、ここっすか?思ってたより外観綺麗じゃないっすか。中見てもいいっすか?」

Bさんが左端の1号室の鍵を開け、Uさんを案内する。


中は小奇麗な1DKで、壁や天井に妙なシミがあったりもしない。

フローリングの床も真新しい感じだった。


中を見回したUさんは、うきうきした表情でBさんに質問する。

「ここって、マジであの激安家賃で借りれるんですか?」

「はい、その点は間違いありません。敷金、礼金なども不要です」

確かにこの部屋の家賃は、都内ではありえない超低価格だった。


「他の2部屋って、誰か住んでるんすかね?もしかして反社の人が占拠してるとか」

「いえ、他の部屋は空き部屋です。大家さんのご意向で、貸していないんですよ」

T君はその説明を聞いて不審に思ったが、勿論余計な口は挟まない。


「了解っす。むっちゃ気に入ったんで、早速契約したいんですけど、いいっすかね?」

Uさんは、相変わらずの軽いノリで即決したようだ。


「念のためにもう一度確認しますが、事故物件でも構わないですね?」

Bさんが念を押しても、Uさんの決意は変わらず、結局その日のうちに契約を済ませた。


3日後に引っ越しを済ませたUさんは、その夜ワクワクしながら、何かが起こるのを待っていた。

夜も更けて、その日は何も起こらないかと、Uさんが諦めかけた時。

突然部屋の壁に大きな穴が開き、Uさんはアッと思う間もなく吸い込まれてしまった。


更に3日後。

T君はBさんに連れられて、件のアパートにUさんの様子を見に行くことになった。

現地に着いて1号室の鍵をBさんが開ける。


――勝手に入っていいのかな?

T君は思ったが、先輩のBさんがすることなので、黙っていた。


部屋の中はもぬけの殻だった。

「やっぱりか」

Bさんは呟くと、今度は右端の3号室に向かった。


鍵を開けて中に入るBさんに続いたT君は、思わず絶句してしまった。

室内に白骨が1体、転がっていたからだ。


もの問いたげなT君を制して、Bさんは携帯電話を取り出し、警察に通報した。

電話を切ってT君を見たBさんは、分かっているという風に頷く。


「これで8人目なんだ。もうすぐ警察が来るけど、多分今度も原因不明で終わると思う」

「それって、大事件じゃないですか。どうしてマスコミが騒がないんですか?」

「俺もよく分からんのだが、何故か警察の捜査も中途半端だし、世間も騒がないんだよな」


Bさんの言葉にT君は驚きを隠せない。

「でも、どうして1号室の入居者が、3号室で白骨に…」

「そこもよく分からんが、多分1号室が口で、2号室で消化されて、3号室に排泄される、みたいな感じなのかな」


「え?じゃあ、2号室って、中はどうなってるんですか?」

「それがな。2号室だけは鍵がなくて、どんなことをしても扉が開かないんだよ。以前警察が壊して入ろうとしたが、びくともしなかったらしい」


「こんな物件、取り扱うのって、結構やばいじゃないですか。どうして」

「かなりべらぼうな管理料を貰ってるって話だ」


何か言い募ろうとするT君を制して、Bさんは言った。

「この手の物件は、都内に数え切れないほどあるから。君も早く慣れてくれ」

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