第18話 カーブミラー

うちの近くに、線路を挟んでそれぞれ反対方向に走る一方通行があり、高架橋の上下で両面通行の優先道路と交差している。

高架橋の高さが低いので左右の見通しが悪く、信号機もないので、時折出合い頭の事故が起きる交差点だ。


ある日駅に向かって歩いていて、その交差点に差し掛かると、カーブミラーが設置されていた。

――事故が多いから、警察か行政が動いたようだな。


そう思って横断歩道で一旦止まると、左から爆音を響かせて、黄色いスポーツカーが猛スピードで走ってきた。

歩行者がいてもお構いなしで、そのままのスピードで交差点を通過して行く。


時折近所で見かける車で、どんな狭い道でも猛スピードで走り回る、質の悪いドライバーだった。

――そのうち、とんでもない事故を起こしそうだな。

俺は常々、そのドライバーを苦々しく思っていた。


ある日その交差点まで来た時、丁度高架橋の上からカラスが飛び立つのが見えた。

何気なく目で追っていると、カーブミラーの前に差し掛かった途端、突然そのカラスが消えてしまった。


えっと思ってカーブミラーを見ると、鏡の中をカラスが飛び去って行く姿が見える。

俺は驚いて、カラスが見えなくなるまで、カーブミラーを凝視していた。


しばらく呆然としていた俺は、何が起こったのか確かめたくなって、道端の石を拾う。

そしてその石を、カーブミラーの高さまで放り投げてみた。


石の軌跡を目で追っていると、ミラーに移った瞬間に石は消えてしまった。

何が起こっているのか、訳が分からず、俺はふらふらと横断歩道を歩き出す。

今のは目の錯覚で、石が道路に落ちていないか、確かめようと思ったのだ。


その時、左手から急に爆音が近づいて来た。

反射的にその方向を見ると、あの黄色いスポーツカーが猛然とクラクションを鳴らしながら走って来るのが見えた。


――あ、駄目だ。はねられる。

俺は思わず目をつむったが、衝撃は来なかった。

車の爆音も消えている。


恐る恐る目を開けた俺は、咄嗟にカーブミラーを見上げた。

黄色いスポーツカーは、鏡の中の道を走り去って行き、やがて消えてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る