第4話 シャロンができるまで(1)

「まず重要なのは、わたしの誕生日がトゥリル2の月の十四日だということです」


「へえ、そうなんだ! その日って確か、祝祭日とかではなかったよね? どうして重要になってくるの?」


「いや、これを言っておけば、ラナさんから素敵な誕生日プレゼントを頂けるかもしれないじゃあないですか? ふへへ」


「そっ、そういう理由!? じゃあ話の本筋に関係ないよー! 省略、省略!」


 ラナさんが腕をバタバタさせながらツッコんでくれる。可愛い。


「冗談はさておき……まあ九割本気ですが」


「だいぶ本気度高いねえ!」


「わたしの育った家ってすごい裕福! とかではなくて、まあそこそこだったんですけれど、心優しい両親は、折角の誕生日ということで、わたしを高級な料理店に連れて行ってくれたんです」


「おおお…! 優しいね、シャロンちゃんのご両親」


「そうなんですよ? しかもその料理店には、とあるこだわりがあって」


「ふむふむ。気になる!」


「そのこだわりというのが、強大なモンスターやレアなモンスター、難しいダンジョン、危険な地域――そういう敵や場所でしか手に入らない、高級食材を使った料理を出す! というものだったんです」


「へえええ、なるほど……!」


 しっかり相槌を打ってくれるラナさん。

 反応が大きいので、何だかわたしも話すのに夢中になってしまう。


「そこでわたしが食べたのが、星屑災竜ティリジアーズのステーキです」


星屑災竜ティリジアーズ……!? 七大災竜に数えられている、あの星屑災竜ティリジアーズだよね!?」


「そうですそうです、その星屑災竜ティリジアーズです。いざ食べてみたら、これがもう本当に絶品でして。舌の上で蕩けるお肉の味わい……うう、わたしはこの味をきっと一生忘れられないんです……」


 思い出すだけで、よだれが出てきてしまいそうだ。


 気を取り直して、わたしは話を続ける。


「それからというもの、わたしは美味しい料理を求めるグルメになりました。悪く言うと、お父さんやお母さんが出してくれる料理に逐一ケチをつける、やばい子どもになりました」


「う、うわあー! 自分の子どもが仮にそうだったとしたらと思うと、ぶるぶる震えちゃうよ……!」


「ラナさんの子ども……きっとラナさんに似て、とても美しいんでしょうね」


「遠い目をして、何を想像してるの!?」


「で、まあ、そんなグルメシャロンは思い立つ訳です。『自分も、あんな風に美味しい料理をつくれるようになりたい!』と」


「うんうん。確かに、自然な流れだよね」


「ですが、ここで大問題が発生します」


「だ、大問題……!? 一体何が起こるんだろう! 想像で頭がいっぱいだよー!」


 考え込むような素振りを見せるラナさんに、わたしは少し間を置いてから、告げる。


「何と……わたし、料理の才能が致命的になかったんです!」


「え、えええっ、そうなの!?」


「はい! もうゼロどころかマイナス! マイナス七億!」


「マイナス七億だったのー!?」


 大きく口を開けて、ガーン、という顔をするラナさん。


「ラナさんならわかると思うんですが、まあ料理ってレシピに忠実につくれば上手くいくはずじゃあないですか?」


「うん、そうだね! 料理が上手な人が考えたレシピをそのままつくれば、美味しいご飯ができあがると思う」


「わたし、それができないんです」


「できない、って……具体的にはどうして?」


「塩を適量入れようとすれば何故か蓋が外れてドバッと入るし、野菜を切ろうとすれば毎回スパーンと手が切れて血みどろになるし、火を使えば謎に超大きな炎になってボォーッと家が焼けかけます」


「あ、危ないよおおおお! 危なすぎるよ何それ!? え、シャロンちゃんってもしかして、すごい不器用な人!?」


「いえ……手先は器用な方ですし、現に魔法の操作は引くほど上手いんですが、料理だけこんな感じになるんですよ?」


「……もしかして、料理版貧乏神がついてる?」


「まあそれか、前世で料理を殺したんでしょうね」


「概念を殺害!?」


 驚愕しているラナさんに、わたしは悲しい顔で頷きを返した。


「三度ほど家を焼きかけて、両親が涙を浮かべながらもうキッチンに立つのはやめてくれ、と言うものですから、流石のわたしも料理をするのは諦めました」


「まあ、そうなるよね。逆に二度は許してくれたことにシャロンちゃんのご両親の寛大さを感じるよね」


「さて、そうなってしまったグルメシャロンは、今度はこう考える訳です。『それなら、どんな希少な食材でも、自分で集められるようになろう!』と」


「おおおお! 違う方向性でのアプローチだ!」


「そのために必要なのは、どんなにやばいモンスターが現れても、どんなに危ない場所に踏み込んでも、無事に食材を持ち帰ることのできる戦闘力! という訳で、幼いわたしは魔法の鍛錬を始めることにしました」


「ぱちぱちぱち!」


 ラナさんが、口でそう言いながら拍手してくれている。可愛い。


「で、まあ既におわかりだと思うんですが、魔法の才能はめちゃめちゃにあったんです。一般的な魔法使いが生涯に覚えると言われる数の魔法を、わたしは八歳までに覚えきりました」


「すっ……すごすぎる!」


「十二歳の頃には存在している殆ど全ての一般魔法を使えるようになり、それからはわたししか使えないオリジナルの魔法を数多く創作するなど」


「め、めちゃめちゃすごいよー! そりゃあ『魔法での英傑』なんて二つ名も付くね! 何というか、これで料理とのバランスが取れてる節もあるね!」


「ふふっ、まあ、まだまだですよ。例えばかなり難しい魔法を使うのに三秒ほど起動時間を要してしまうんですが、これをもっと短くしないと、いざというときに困るんでね」


「しかも上昇志向! 努力家さんだー!」


「ありがたやです。で、話は一年ほど前の、わたしが十五歳になったときまで飛びますよ?」


 わたしは人差し指を立てながら、話を続ける。

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