第3話 激うまジャムクッキー

「お待たせー! ……あれ、シャロンちゃん?」


「ぐごがー……ぐごががが……」


「すっ、すごいイビキかきながら寝てるよ! つくるのに集中してて全然気付かなかった!」


「そんな……ラナさん、だめですよお……」


「しかも、なっ、何の夢を見てるの!? もしかしてまさか、えええ、えっちな……」


桜愛牛ブロッシュカのお肉をそんなにたっぷり乗せた牛丼なんて……ああ、だめですう……」


「いや何の夢え!? ちょっと、シャロンちゃん! 起きて! ゆさゆさ!」


「ん……ふわあああ」


 ゆっくりと、目を開く。

 どうやらいつの間に、眠っていたらしい。


 視界に映ったのは、わたしの顔を間近で覗き込んでいる、超絶美少女ラナさん。


「……ここが天国か?」


 思わず、そう呟いてしまう。


「違うよ、私の家だよ! おはよう、シャロンちゃん……もう夕方だけれど。そうそう、完成したよ、ジャムクッキー! ほら、テーブルの上!」


「うおおお! まじですか!」


 わたしは興奮の余り、かっと目を見開く。


 ラナさんからテーブルへと視線を移すと、その上には確かに、ジャムクッキーの乗った真っ白なお皿が置かれていた。


 美味しそうなきつね色に焼き上げられたクッキーの中心部に、真っ赤な苺ジャムが埋まっている。

 夕陽を浴びてきらきらと輝くジャムは、見ているだけで吸い込まれてしまいそうなほど、魅力的だ。

 しかも、ジャムの形はオーソドックスな丸いものから、お花やハートに星や猫……沢山の種類がある。視覚的にも心が躍って、とても嬉しい。


「う……美味そうです……!」


「ほ、ほんと!? よかったあ……つくるの久しぶりだったから、うまくできるかドキドキしたの。さあ、食べてみて!」


「うわーい! いっただっきまーす!」


 わたしは手を伸ばして、ジャムクッキーを一枚取る。


 触るだけでわかる、クッキー部分の程よい硬さ。きっと一口食べたら……想像するだけで、胸が高鳴ってしまう。


 手を口に運んで、全体の半分くらいをそっとひと齧り。


 口の中に広がるのは、さくさくで甘いクッキーと、深みのある甘酸っぱさの苺ジャムが織り成す、素敵な味わい。

 どちらも甘いのだけれど、方向性が違う。そんな二つがバランスよく組み合わさって、すごく美味しい。


 ごくんと飲み込んで、側に座っているどこか緊張した面持ちのラナさんに、ふわっと笑いかけた。


「う……美味いです! ほんとに、美味い……聞いていた通り、ラナさんってすっごく料理上手なんですね……」


「ふふ、どうもありがとう! そんなに美味しそうに食べてくれて、嬉しいな。……って、ん? "聞いていた通り"、って……誰かに私のこと、聞いてたの?」


「ほへぇ?」


 ジャムクッキーを何枚も口いっぱいに頬張っていたわたしは、間の抜けた声を出してしまう。


 ラナさんは何かに気付いたように、顎に手を添える。


「そういえばシャロンちゃん、最初に喋ったときも、透明化魔法を使って近くにいたみたいだったよね? 不思議に思ってたんだけれど……あれ、どういうことだったの?」


「へーほへーほ、ひょっひょはっへふははいへ(※えーとえーと、ちょっと待ってくださいね)」


 わたしは取り敢えず、全力でジャムクッキーを咀嚼する。ま、まじで美味い……。


 何とか全てを飲み込んで、ラナさんが用意しておいてくれたお水をごくっと飲む。


 それからわたしは、彼女へと向き直った。


「確かに、ずっと説明しないでいるのもあれですし……ちゃんと、一から説明しますね。どうしてわたしが、ラナさんに今日ジャムクッキーをつくってもらおうと思ったのか、それに至る経緯を!」


「う、うん、ありがとう! というかよく考えると、それを聞かずにつくっちゃった私って、どうなのかな!? 誰かに料理を振る舞えるのがすごく嬉しくて、つい……!」


 ラナさんは頭を抱えながら、あたふたとしている。


 言われてみれば確かに。

 何も説明せずによくつくってもらえたな、わたし。


「ま、気にしないで平気ですよ! ではでは、話しますね……話は、わたしが四歳を迎えた誕生日に遡りますよ?」


「さっ、遡りすぎじゃない!?」


 言われてみれば確かに。(二度目)


 でも、わたしのルーツを話すには、この昔話がとても重要なのだ。


 想いを馳せながら、わたしはそっと語り出す。

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