第29話 VSクラーヌジア
地獄の鬼ごっこを何とか終え(結局負けたので魔法で綺麗にした)、わたしたちは宝のすぐ側にやってきた。
お姉ちゃん(未だ血塗れ)が怪訝な表情を浮かべながら、辺りを見回す。
「なあ、シャロン。本当にこんなところに宝があるのか? 見渡す限り海だぞ」
「うーん、あるはずなんですけれどね……今使っている探知魔法は、『価値のあるもの』を無条件に教えてくれるはずですし」
そう答えながら、わたしも首を傾げる。
そのとき、ラナさんが「あっ!」と声を上げた。
「どうかしました、ラナさん?」
「その、思い付いたの! 海の上には何もないように見えるってことはつまり、海の下に何かがあるんじゃないかなあって」
「ああ、確かに! この海の下に、何かが――」
そんなわたしの言葉を遮るように、突如として海面が大きく揺らぐ。
「きゃっ、きゃあっ!」
驚いて悲鳴を上げるラナさんの横から――巨大な触手が生えてきた!
その触手は、ラナさんの身体にぐるりと巻き付くと、彼女を易々と持ち上げる!
「ひゃっ、ひゃああああああ!」
先程よりも大きなラナさんの悲鳴が、響き渡る。
わたしは頭を抱えた。
「本当に海の下に何かいるじゃないですかっ! これが宝なんですかあ!?」
「いや、宝ではない……
「やべえの来ましたね!」
わたしとお姉ちゃんは、それぞれ臨戦態勢を取る。
――――
水生モンスターの中ではトップクラスの強敵だ。
数えきれないほどの巨大な触手を持ち、本体部分は人間の胎児のような形をしている。
しかも使ってくる技は、幻覚を見せてきたり、眠らせてきたり、混乱させてきたり……そういう精神支配のものが多く、かなりの防御魔法の術がないとすぐにやられる。
その名の通り、海に潜む絶望だ。
「流石に今回は共闘ですよ? いくらお姉ちゃんでも荷が重いでしょうし!」
「侮るな……と言いたいところだが、お前の言う通りだなッ! 背中は任せたぞ、シャロン!」
「シャロンちゃん、セランさん! 防御魔法、つっよいの掛けといたよー!」
「流石ラナさんありがとうございます!」
「どういたしまし……ひゃんっ! く、くすぐったい!」
「うおおあのモンスター、ラナさんにセクハラしてませんかあ!? 許されませんよそんなのおっ!」
わたしは叫びながら、海の上を駆ける。
今朝の修行を思い出しながら、海中から出ている何本もの触手へと、無属性の攻撃魔法を連続で起動する。
近いものには高度破壊魔法〈無属性〉を、遠くのものには長距離射撃魔法〈無属性〉を――――
攻撃を受けた触手の一部が破裂し、真っ赤な鮮血がほとばしり海面へと落ちていく。
ラナさんを捕まえていた触手も、無事壊すことができた。
「あっ、ありがとうシャロンちゃん! 助かったあ……!」
「お気になさらずです!」
とん、と海面に降り立つラナさん。亜麻色のツインテールがふわりと揺れた。
「ハーッハッハッハッ! 絶望だかなんだか知らんが、格の違いを見せてやるよッ!」
その近くで、お姉ちゃんが空中を駆けながら、触手の先端を切り落としている。
(まあ、わたしたちの力があれば、余裕で勝てそうだよ?)
――そう、わたしが思った瞬間だった。
お姉ちゃんが突如、落下する!
そのまま、海面をごろごろと転がった。
「えっ、はっ、なにごとぉっ!?」
迫り来る触手を避けながら、わたしはお姉ちゃんの方を見る。
…………どう見ても、寝ている!
「そっかこの人魔法適正ゼロだから、モンスターからの精神攻撃にも超弱いって訳ですか! なるほどなるほどーってそんなこと言ってる場合じゃねえっ!」
「すやすや……むにゃ、モテたい……」
「なんかアホな欲望寝言呟いてますしっ! えっというか貴女にそんな欲望が!?」
驚くわたしをよそに、お姉ちゃんが触手に持って行かれる。
「ハッハッハ、モテモテだ……」
「
お姉ちゃんを海に引き摺り込もうとする触手を破壊し、彼女の身体を抱きかかえつつラナさんの隣に戻る。
「ラナさん! お姉ちゃん寝ちゃってちょっとマズいんで、ガチ強めの魔法一発でケリつけます! なのでガチ強めの強化魔法かけてもらっていいですか、あと起動時間が少し掛かるのでガチ強めの防御魔法も頼みます!」
「りょ、了解だよ! とにかくガチ強ね!」
わたしはお姉ちゃんを少し遠くに放り投げて、それから目の前の敵を見据えた。
この魔法を使うと、次の日全身が筋肉痛に似た何かになるのだが、まあしょうがない!
両手を前に伸ばし、集中力を高める。
視界には、ラナさんの防御魔法によって弾かれる触手。
数秒が経って、わたしは口角を上げた。
強化魔法によって熱に包まれた身体で――その魔法を、唱える。
「最高位破壊魔法〈無属性〉――――」
瞬間、
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