第28話 最果絶海

 最果絶海さいはてぜっかいは文字通り、大陸の端の方にある海のダンジョンだ。


 入り口を潜れば、そこには美しい青色の海とさらさらとした砂浜が広がっている。

 ダンジョンの中なのに、その海には終わりが見えない。わたしは一度、どこまで遠くに行けるか試したことがある。そうしていたら、気付けば入り口の辺りまで戻ってきていて……その理屈は、よくわからない。


 ダンジョンに通常の物理法則は通用しない。

 そういう、神秘的な場所なのだ。


 *・*・


「ハーッハッハッハッハッ!」


 高笑いしながら、お姉ちゃんは海の上で大剣を振るう。

 彼女を海に引き摺り込もうとしていた魚っぽいモンスター(柔らかくてとても美味い)、タコっぽいモンスター(独特の食感でとても美味い)、貝っぽいモンスター(風味が特徴的でとても美味い)などなどが、なす術もなく倒れて行く。


 わたしは空間操作魔法をいい感じに使って、そのモンスターたちを異空間へと保存する。

 激ウマ食材を楽々ゲットできてありがたい……!


「それにしても、いいのかな? 私たち、見てるだけで」


 わたしの隣で、ラナさんが申し訳なさそうに微笑んだ。

 ちなみにわたしの魔法によって、わたしたちは海の上で立っている。


「別にいいんじゃないですかね? さっき一緒に戦いますよって言ったとき、『いや、劣勢になったらで大丈夫だ! わたしに任せてくれよ、ハーッハッハッハッ!』って言ってましたし」


「劣勢になる気配、ないけれどねえ……」


「取り敢えずわたしたちは、例の宝とやらの場所を把握しましょう。わたしが探知魔法、ラナさんが強化魔法担当ということで」


「そうだね、頑張ろう!」


 わたしたちは頷き合う。


 その上空を駆けるように、お姉ちゃんは大剣でモンスターを切りまくっている。

 ところであの人、何で魔法なしで空中走れてるんだ? 物理法則無視存在は、ダンジョンだけではなかったようだね!


 *・*・


 わたしたちは戦闘&探知と移動を繰り返しながら、宝探しを進めていく。


「どうだ、シャロン? 宝の在処はわかったか?」


 少し前方で、お姉ちゃんがくるりと振り向いた。


「正確な場所とまではいかないですけれど、結構近付いてきた感じしますよ? あとお姉ちゃん、全身返り血塗れですごいことになってますよ?」


「わたしの洗濯技術があれば、帰宅してからこの程度の血を落とすことなんて余裕だッ!」


「それは何よりです……というか今わたしが魔法で綺麗にしてあげましょうか?」


「いや、それは遠慮しておこう! 何故ならわたしは、冒険時にモンスターの血の匂いが纏わり付くと、『自分の強者感』をひしひしと感じて興奮するんだッ!」


「うおおおお! やべえ奴ですよっ!」


 わたしは目を剥きながら後ずさる。


「シャロンにも、この感覚をぜひ味わっていただきたい! さあ、お姉ちゃんとハグしよう!」


「何が悲しくて血塗れの奴とハグしなきゃいけないんですかあっ! 近寄らないでください近寄るなあっ!」


 すごい速さで追いかけてくるお姉ちゃんから、わたしは魔法で自分の速度を強化して逃げる。


「ラナさんも見てないで助けてくださいよおおお!」


「ふ、二人が速すぎて、目が回るぅ……」


「ああっ! ラナさーん!」


「シャロンと鬼ごっこなんて何年振りだろう……お姉ちゃん、何だか懐かしさで涙が出てきたよ! ハーッハッハッハッ!」


「泣きたいのはこっちですよおおおおおお!」


 わたしの叫びで、最果絶海さいはてぜっかいの水面が少しだけ揺れたような、気がした――――

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