第27話 セラン語る

 ラナさん宅のリビングにて。


 わたしはラナさんに、セランお姉ちゃんを紹介していた。ちなみに、ラナさんが焼いてくれたふかふかのホットケーキ(濃厚なバターと、甘ーいメープルシロップとの相性が最高……!)を食べながらだ。


 ラナさんが、「それにしても」と口を開く。


「シャロンちゃんが従姉を連れてくるなんて思ってなかったから、びっくりしちゃったよー」


「わたしもびっくりですよ? 数年ぶりにいきなり現れるもんですから、ビビりました」


 ラナさんとわたしは、お姉ちゃんへと視線をやる。

 彼女はガツガツとホットケーキを食べながら、「な……なんだこの美味さはッ! フォークとナイフが止まらないッ!」とか言っている。昔と変わらずマイペースだな、こいつ。


「でも、シャロンちゃんとセランさんって、確かに見た目似てるよね。親戚なのも納得」


「そうですかね?」


「うん! 同じ紺色の髪だし、目元の辺りも似てるよー」


「なるほどです……」


 わたしは頷きながら、お姉ちゃんの顔を見る。

 美しいオッドアイを抜きにしても、お姉ちゃんの顔立ちはかなり整っているし、見た目が似ていると言われて悪い気はしない。


 そこでわたしは、気になっていた疑問を思い出す。


「ねえ、お姉ちゃん」


「ん、どうした?」


「……何でそんな派手な格好してるんですか?」


 わたしの言葉に、お姉ちゃんは一瞬きょとんとした顔をしてから、「ああ、服のことか?」と尋ねた。


「そうですよ? だって昔はお姫様〜みたいなふわっふわのロリータワンピースばっかり着てたじゃないですか! あれはあれで派手でしたけれど……髪だって腰くらいまであるロングヘアでしたし」


「まああれは、完全に母さんの趣味だからな。いざ自分の趣味で服を選んだら、こうなったという訳だ」


「方向性は違えど、母も子も似てますね……」


 わたしは遠い目になりながら、叔母さん(お父さんの妹)に思いを馳せる。

 そのときお姉ちゃんが、空になった皿にフォークとナイフを置いて、「それで、だ!」と言った。


「そろそろ、話そうじゃないか。"宝探し"の詳細をッ!」


「ああ、そういえばそうでしたね」


 頷くわたし。

 さっき自宅で聞こうかと思っていたのだが、ラナさんにも協力してほしかったので、一旦保留にしていたのだ。


「宝探し……?」


「そうです。お姉ちゃんがわたしの元に来たの、それが目的らしいですよ?」


 きょとんとするラナさんに向けて、わたしは説明を挟む。

 お姉ちゃんは「その通りだッ!」と親指を立てた。

 それから、神妙な面持ちで語り出す。


「シャロン、ラナ。お前たちは、『最果絶海さいはてぜっかい』というダンジョンを知っているか?」


「ああ、知っていますし行ったこともありますよ?」


「私は名前を知ってるくらいだなあ……」


 わたしとラナさんは、それぞれ返答する。


 ダンジョンとは、この世界に幾つも存在する不思議な場所のことだ。

 地図上の場所は変わらないのだけれど、その内部は一定時間ごとに形を変える。

 そのため迷いやすく、たとえ簡単なダンジョンでもパーティーランク(SSS〜F)はC以上が推奨されている。


 ちなみに今回名前が挙がった最果絶海さいはてぜっかいは、割と高難易度のダンジョンだ。

 そもそもモンスターが強いのと、その名の通り水が多いダンジョンなので、戦い方をミスると溺れる。ひええ。


「知っているなら何よりだ! じゃあこんな噂は、耳にしたことがあるか? 最果絶海さいはてぜっかいには、世にも美しい宝が眠っている――と」


「それはないですね……」


「シャロンちゃんに同じ」


 わたしたちの言葉に、お姉ちゃんは腕組みをする。


「そうか、ないのか……わたしも最近まで知らなかったんだが、遠くの町で出会った冒険者がそう言うものでな。探してみたくなったんだよ」


「なるほどです。……あれ、でも、どうして一人で向かわなかったんですか? お姉ちゃん、戦闘力エグいでしょう?」


 わたしがガチで放った魔法をかわすし、簡単にわたしの背後を取るし、わたしの家の扉破壊するし、多分相当強いと思う。

 あと何より、全身から「強者オーラ」が出ている。わたしも自分から出ているのでわかる。


 お姉ちゃんは、そっと首を横に振った。


「確かにわたしの戦闘力はエグいが……わたしが魔法の才能ないのは、お前知ってるだろう?」


「そういえばそうでしたね」


「聞くところによれば、宝を探す的な魔法があるらしいじゃないか! でも魔法使いの友達いないな……あと流石にそろそろ家の様子見に行った方がいいかな……と思って昨日この町に帰ってきて、ついでに道を歩いてた金髪ロングの女性にいい魔法使いがいないか聞いたら、『そんなの、シャロンさまに決まっていますわ! あの方は常にご飯のことを考えているアホですが、腕は確かでしてよ!』と言われたんだ」


「カルミアさんじゃないですか……」


「カルミアさんだね……」


「その女性に、もしかするとそのシャロンはわたしの従妹なんだがと伝えたら、三時間くらいシャロンの幼少期について根掘り葉掘り聞かれた。いやあ大変だった!」


「わたしの新たな弱みを握ろうとしていますね……」


「握ろうとしてるね……」


 わたしとラナさんは、ごくりと唾を呑んだ。


 それからわたしは、お姉ちゃんへ言う。


「つまり、探知魔法を使って宝探ししたいんですね? まあ、そういうことなら喜んで付き合いますよ?」


「ふっ、助かる! ありがとうな、シャロン!」


 お姉ちゃんとわたしは、ガシッと握手する。

 その光景を見て、ラナさんが微笑みながら拍手した。


「いいねえ! これが従姉妹の絆だね! 眩しいよー」


(……いやまあ、今のわたしの目的は九割くらい、激ウマ海の幸モンスターですけれどねっ!)


 わたしは心の中で叫びながら、「そうでしょうー」と笑顔を返した。

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