第26話 セラン現る

 オリバーくんとの一悶着を終え、わたしは自分の家へと帰ってきた。


 ぼふっとベッドに飛び込んで、ふかふかのお布団にくるまる。ぬくぬく。


 そうしていると、段々眠くなってきて――わたしは枕元の目覚まし時計をセットすると、目を閉じた。


(ああ……二度寝最高すぎるな……)


 そんなことを考えながら、わたしは少しずつ意識を手放していった――


 *・*・


 ――――ドンドン、ドンドン、ドンドン……


「んー……むにゃむにゃ……丼もの、最高だぜ……」


 ――――ドンガンガン、ドンガンドンガン……


「ん、んうん……なんか、うるしゃい……むにゃ」


 ――――ドンガラガッシャアアアアアアアアアアアアン!


「ってえええええ!? 何の音ぉ!?」


 耳をつんざくような爆音に、わたしはガバリと起き上がる。

 そうしてすぐに、廊下を駆けるようなバタバタバタという音が聞こえてきて、わたしはだらりと冷や汗をかいた。


(ま、まさか……強盗!? 嘘でしょ!?)


 心臓が一瞬跳ね上がって……でもすぐにわたしは、冷静さを取り戻す。


(まあ仮にそうだとしても、わたしの力があれば負けない! 返り討ちにしてあげるよ?)


 そう考えながら、わたしは臨戦体制を取る。


 そうして、扉が開き――わたしは現れた人物に向かって、拘束魔法を唱えた。


 …………が!


(ええっ嘘、外れた!? 避けたってこと……!?)


 イレギュラーに次ぐイレギュラーに、頭が追い付かない。

 しかも侵入者の姿が見当たらない。


(はぁっ!? どこ行ったの!?)


 焦るわたしの背後から、大きな声が聞こえた。



「ハーッハッハッハッ! 久しぶりだな、シャロンッ!」



 わたしはばっと振り返る。

 そこにいたのは――特徴的な服装をした、背の高い少女だった。


 ショートカットの紺色の髪を隠すように、真っ青のシルクハットを被っている。

 真っ白なボウタイシャツの上に真っ青なジャケットを羽織り、これまた真っ青なズボンを履いて、そして極め付けに丈の長いマント。

 そしてよく見ると、長い前髪で隠れていてわかりにくいけれど、蒼色の瞳と空色の瞳のオッドアイ……


 ……そこでわたしは、こいつが誰だかを思い出す!


「もっ、もしかして、セランお姉ちゃん……!?」


「ん、何がもしかしてなんだ? すぐわかるだろ」


「わかりますかぁっ!」


 思わずツッコみをいれる。

 お姉ちゃんは、きょとんとした顔で首を傾げた。


 ――セラン=リルティーヒ。


 二歳年上のわたしの従姉だ。

 幼い頃はよく遊んで貰っていたが、叔母夫婦の引っ越しなどを切っ掛けに段々と疎遠に。最後に会ったのがいつだったかも、正直よく覚えていない。


 しかもこの人、冒険者になってから割とすぐに消息不明になっていたのだ。

 生きているかさえ謎だったので、まあそこがはっきりしたのはよかったかもしれないけれど。


 お姉ちゃんは腕を組みながら、口を開く。


「ところで、だ! シャロン、お前に一個聞きたいことがある!」


「へ、何ですか……?」


「久しぶりにこの町に帰ってきたら、わたしの家が綺麗さっぱりなくなっていたんだ! なあ、何か知らないか?」


 …………あっ、やべえ!

 そういえばわたしが料理ミスって燃やした家、この人のだったわ!


「……長らく空けていたし、取り壊されたんじゃないですかね?」


「ふうむ、なるほど! ならばしょうがないな!」


 笑顔で頷くお姉ちゃん。アホでよかった……!


「……ん、というか待ってください、お姉ちゃんどうやって入ってきたんですか?」


「え? そんなの、普通に玄関からに決まってるじゃないか」


「いやだってわたし鍵掛けてましたよ……?」


「うん、鍵は掛かっていたな!」


 親指を立てながら言うお姉ちゃん。

 ……あ、なんか、嫌な予感する。


 取り敢えずわたしは玄関へと走った。


 そうして目に飛び込んできたのは――――バラバラに粉砕された扉!


「とっ、ととと、扉あああああああああ!」


 頭を抱えるわたしに、ついてきたお姉ちゃんが「どれだけ呼んでも出ないんでな! ちょっと破壊させてもらったぞ!」と笑った。笑い事じゃねえ!


「まあいいですけれど……修復魔法使えばどうにかなりますし……むしろかつてはすみませんでした……」


「かつて、って何の話だ?」


「ああいえ、こっちの話です……」


 わたしはお姉ちゃんの家のことを思い出しながら、溜め息をつく。

 修復魔法も効かなかったんだよな、あのときは……マジで自分の料理の負の才能が怖いよ……。


 それからわたしは、お姉ちゃんへと向き直った。


「それで、こんな突然わたしに何の用ですか?」


「ああ、実はお前の力を貸してほしくてだな」


「わたしの力……?」


 首を傾げたわたしに、お姉ちゃんは「そうだ!」と頷いてから、言う。



「――――お前に、宝探しに付き合ってほしいんだ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る