第25話 ふ、アホめ…………
「ううう……後頭部が痛すぎる……ハゲてたらどうしよう……」
リアさんと別れたわたしは、頭をさすりながら町を歩いていた。
想定していたよりもハードな修行となってしまったので、当初予定していた時刻よりも早めに終了した。
そのため、ラナさんとの待ち合わせ時間には、まだ余裕がある。
「なんか疲労で眠たいし、一回家帰って二度寝するとするかあ……ふわあああ」
思わず、大きな欠伸をしてしまう。
「お菓子の家で暮らす夢とか、見たいなあ……」
「おいっ! シャロン=リルティーヒ!」
「んあ?」
聞き覚えのある声でフルネームを呼ばれて、わたしは振り返る。
そこに立っていたのは――例のラナさんの元パーティーメンバー、オリバーくんだった。
嫌いな人間の登場に、わたしは顔を引き攣らせる。
「うげげ……」
「人の顔見ていきなりうげげとか言うんじゃねえよ! ……って、そんなことはどうでもいい! お前、あれから俺たち大変だったんだからな!?」
「大変、って……どんな災いが降りかかったの?」
「何で災いが降りかかる前提なんだよ!」
怒鳴るオリバーくん。
いやだって……わたし、呪いのレシピあげたしなあ。
「まあでも、確かに災いは降りかかったけどよ……」
「お、詳しく! 詳細に! 事細かに!」
「何でお前そんなにきらきらした表情してんの?」
「……これはわたしの故郷では、『言い表しようのない悲しみ』を伝える表情なんだよ?」
ペラペラと嘘をつくわたし。
オリバーくんはわたしの言葉に、「そうか……お前、意外と優しいんだな……」と頷いている。アホか?
「まあ経緯を話すとだな、お前から貰ったラナ直伝オムライスレシピを、昨晩アンにつくらせた訳だ」
「安定のナチュラルクズ」(すごい小声)
「ん、何か言ったか?」
「へえーなるほどーって言ったよ?」
「そうか。まあ、それでだな……オムライスがそろそろできあがる! というところで、衝撃の出来事が起こったんだ」
「ほう、なになに?」
オリバーくんは額に手をやりながら、暗い面持ちを浮かべる。
「――――フライパンから、スライムが大量発生したんだ……」
「……へ、スライムってあの、モンスターのスライム!?」
「ああ。でもなんか、色はオムライスだった。黄色くて、てっぺんの辺りは赤かった」
「オムライスライムと名付けよう……」
「それからは大変だった。俺とアンとハクアで、家中を暴れ回る大量のオムライスライムと戦った。雑魚スライムより全然強いんだぜあいつら、ヤバいよな……しかも戦いが終わったら、家中がオムライスライムのせいでベットベト。キレまくるアンの罵声を聞きながら、腹を空かせて徹夜で掃除した……」
虚ろな目で言うオリバーくん。
わたしはどうにか笑いを堪えながら、神妙な面持ちで「それは、とても大変だったね……」と頷いた。
オリバーくんは頭を掻きむしって、「だからよ!」と大声で言う。
「やっぱりラナが俺たちのために料理しないとダメだ! ラナを返せ!」
ああ……結局こうなるのかあ。
わたしは溜め息をつくと、少しの間思考を巡らせる。
それから、口を開いた。
「でもさあ、オリバーくん、考えてもみてよ? わたしが教えたレシピは、ラナさん直伝のレシピ。(※嘘)それをつくったら美味しいオムライスができるはずなのに、実際はオムライスライム大量発生。なんか変だと思わない?」
「いやそれは、アンの料理がド下手だからだろ?」
「ううん、違うね。わたしはね、その本当の理由を知ってるんだよ?」
「そ、そうなのか!? なら教えろよ!」
わたしはオリバーくんに向けて、冷たく微笑む。
「――――ラナさんの、呪いだよ」
「ラっ、ラナの呪い……!?」
「そうだよ? 聞いたところによると、オリバーくん、ラナさんへの扱いがかなり酷かったみたいじゃない? だから、ラナさんは君たちを強く恨んでいるんだ。彼女の恨みは、彼女も気付かぬうちに呪いとなり……君たちがラナさんが関わった料理を食べようとすると、料理が全部生きたモンスターになる」
「なん、だとお…………!?」
「今回はスライムだったからよかったけど、これが
オリバーくんは蒼白になりながら震えている。
わたしは彼の耳へと口元を近付けて、薄く笑いながらささやいた。
「――――今度は君たちが、お食事になる番だよ?」
「うっ……うわああああああああああああ!」
オリバーくんは叫んで、どこかへと逃げ出した。
わたしはその後ろ姿を見送りながら、ふふっと笑う。
「ふ、アホめ…………」
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