最果絶海が香るペスカトーレ

第24話 修行中シャロン withリア

 視界に広がるのは、雲一つない真っ青な空。

 わたしは大きく伸びをしながら、そんな景色を眺めていた。


「さーて、今朝も修行と洒落込むかあ……」


 そうひとりごちながら、瞬間移動魔法を唱えようとしたとき。



「――――シャロン?」



 そう名前を呼ばれて、わたしはばっと振り向く。


 そこに立っていたのは、ギルド受付嬢のリアさん(※カルミアさんではない方)だった。


 高い位置で二つ結びにされた縦ロールの銀髪と、髪よりも少し明るい色合いの銀色の瞳。

 細く脆そうな手足や余り変わらない表情は、どこか美しい人形を想わせる。


 わたしは、彼女へと笑いかけた。


「リアさんじゃあないですか。ギルド以外で会うのは珍しいですね」


「うん……そうだね」


 無表情で頷くリアさん。縦ロールが揺れている。


「こんな早朝から何してたんですか?」


「散歩」


「おお、健康的でいいですね」


「シャロンは?」


「わたしはこれから、いつも通り魔法の修行をしようかなあと」


「へえ……どんな?」


「難しい魔法を連続で素早く起動する修行ですね」


「ふうん……」


 リアさんは目を細める。

 まあ反応を見るに、わたしの修行に余り興味はないのだろう。


「……私もついていってもいい?」


 いやめちゃめちゃ興味持たれてた。


「え、何故ですか!?」


「面白そうだから」


「いや多分あんま面白くはないですよ? 永遠に同じ魔法がバンバン放たれるだけですから」


「想像したら……マジ面白い」


「面白いの基準死んでません?」


 首を傾げるリアさん。縦ロールがちょっと揺れる。


「それじゃ……私、何か手伝う」


「えっ手伝ってくれるんですか!? でも何を?」


「んー……魔法の的になるとか」


「いや一発で死にますわ!」


「こう見えて、私……マジ筋肉ある」


「筋肉量で魔法はどうこうなりませんよ?」


「腹筋も、五回までなら余裕」


「しかも筋肉ねえッ!」


 思わず敬語を使うのを忘れてツッコんでしまう。


 リアさんはおもむろに両手を組むと、上目遣いでわたしを見つめてきた。


「シャロン、お願い……何か私に、手伝わせて」


 …………断る術はなかった。


 *・*・


 荒れ果てた土地の上に、リアさんとわたしは立っている。


「空気が……マジ美味しい」


 そう言いながら、深呼吸を繰り返すリアさん。


 その横で、わたしは武器召喚魔法を起動する。

 そうして出てきたのは、一つの


 わたしはそれを、リアさんへと手渡した。

 それから人差し指を立てて、口を開く。


「それじゃあ、手伝ってもらうことの内容を説明しますね。今からわたしが魔法を放ちまくるので、『スピード落ちてきたな……』と思ったらこれでわたしを叩いてください。遠慮はいりません、バシーンとやっちゃってください。いいですか?」


「うん……わかった」


「よろしくお願いします! それじゃあ早速始めましょう」


 わたしはリアさんに背中を向けて、長距離射撃魔法〈無属性〉を唱える。

 遠くの地面が抉れるのを見ながら、何度も何度も長距離射撃魔法〈無属性〉を起動させる。

 最初に狙った位置と殆どズレないようにしているので、より集中力を使う。


 起動、起動、起動、起動、起動――――


 そうしていると、段々と疲弊してきて……


「えいやっ」


「痛ぇッ!」


 やがてリアさんのハリセン攻撃が、わたしの頭に炸裂した。


 わたしはちょっと涙目になりながら、できうる限りの最速で魔法を放っていく。


「そいやっ」


「痛ぇッ!」


「ほいやっ」


「痛ぇッ!」


「なんか……癖になってきたかも」


「リアさんの中に潜んでいた何かが花開こうとしているんですがー!?」


 叫ぶわたしの後頭部に、またしてもハリセン攻撃が加えられた――


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 ペスカトーレ編、始まりました。

 お読みいただきありがとうございます!


 カルミアさんとリアさん、どっち派ですか?

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