第22話 フラワーケーキ完成

 ようやくわたしは、ラナさんの家へと戻ってきた。


 扉を叩いて、少し待つ。


 そうすると、扉が開いて――出てきたのはラナさんではなく、トリエッタさんだった。


 彼女は真っ白な髪をふわりと揺らしながら、可愛らしく微笑んでくれる。


「おかえりなさいなのです、シャロンさん!」


「ただいまです……ふわあああ」


「…………? ねむいのです?」


「そうですね……少し運動してきたので」


 わたしは先程の戦いを思い出しながら、そう告げる。


 トリエッタさんは「なるほどなのです!」と頷いて、それから視線を上げた。

 そうして、びっくりしたように飛び上がる。


「えっ、えええっ!? シャロンさん頭の上、なんかお花、うかんでるのです!?」


「んあ、そうですよ? 約束通りティリューゼルを摘んできたんですが、手で持ってて折れちゃうとあれなんで、重力魔法を現在進行形で使っています」


「おおお……ラナさんをうかべたり、お花をうかべたり、シャロンさんはすごいのですっ!」


 トリエッタさんが、きらきらと目を輝かせている。


 賞賛されると、何だかわたしも気分がよくなってくる。

 腰に手を当てて胸を張りながら、にやりと笑った。


「ふっふっふー、そうでしょうすごいでしょう!」


「すごいのですー! シャロンさん、かっこいいのです!」


「おおお自己肯定感爆上がりですが!? そうしたら、トリエッタさんも浮かべてあげますよ? そいやー」


「わっ、わわわ、わあ! トリエ、なぜかちゅうにういているのです! ひゃっ、ひゃあー!」


「空間操作魔法も併用して、保存していた桃も沢山浮かべちゃいますよ? ほいやー」


「トリエのまわりで、あまたのももさんがおどっているのです!」


 ふわふわ浮かびながら楽しそうにはしゃぐトリエッタさん(桃に囲まれている)に、わたしもつい笑顔になってしまう。



「いっ、いやいや、どういう状況なのー!?」



 いつの間にトリエッタさんの後ろにいたラナさんの叫び声が、玄関に響き渡った――――


 *・*・


 リビングにやってきたわたしは、大きく伸びをする。


 トリエッタさんはわたしの摘んできたティリューゼルを、水色の紙でいそいそとラッピングしていた。花の青色と同系色だからか、調和が感じられる。


 わたしはラナさんへと視線を移して、口を開いた。


「それで……フラワーケーキは、無事完成したんですか?」


「うん、完成したよー! シャロンちゃんに一目見てほしくて、まだ箱には入れてないんだ! 持ってくるからちょっと待ってて!」


「おおお……! わくわくです!」


 ラナさんはわたしへとウインクしてから、冷蔵庫の方へ向かう。


 それからケーキの乗ったお皿を持って、わたしの元へ戻ってきた。


 わたしは、息を呑む。


 ――それは目の前のケーキが、とても綺麗だったから。


 真っ白なクリームに包まれた円柱状のスポンジケーキの上に広がるデコレーションは、わたしが先程まで過ごしていた花畑を想い起こさせた。


 桃色、橙色、紅色、水色、紫色――そんな色合いをしたクリームでできた花々が、可愛らしく咲き誇っている。


 その花々は、形の綺麗なものもあれば、少し歪な形のものもあって……後者の花を見ていると、すごく一生懸命な思いが伝わってくるようで、思わず微笑んでしまう。


 小さな花畑の中心部には、ホワイトチョコレートのプレートが置かれていた。そこには、「おたんじょうび おめでとう」と柔らかな文字で書かれている。


 とても美味しそうで、それでいて……優しい愛情が伝わってくるような、すごく素敵なフラワーケーキだった。


 わたしは顔を上げて、ラナさんへと両手の親指を立てる。


「すっばらしいケーキですね……! 流石ラナさん、流石トリエッタさん! 胸アツです!」


「ふふっ、どうもありがとう、シャロンちゃん! 私としても、結構自信作なの! 何より、トリエッタちゃんがすごく上手で」


「てれるのです……!」


 背後から聞こえてきた言葉に、わたしとラナさんは振り向く。


 見れば、ティリューゼルの花束を抱えているトリエッタさんが、嬉しそうに微笑んでいた。


 それから彼女は、真剣な表情で言う。


「あのっ……シャロンさん、ラナさん! よければ、よければなんだけど、その……」


 トリエッタさんは、そこで少し俯いた。


 わたしたちは顔を見合わせる。


 そうして、トリエッタさんは顔を上げて、笑った。



「――――おかあさんのおたんじょう日会に、いっしょに来てほしいのです!」

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