第8話 修行の後は朝ご飯
「ふあああ……マジでつっかれたあ……」
わたしは欠伸をしながら、ラナさんの家の前にやってきた。
現在時刻は午前八時。
午前六時頃から二時間ほど魔法の鍛錬をしていたので、全身に疲労が溜まっている。
ちなみに瞬間移動魔法を使ったので、ついさっきまであの荒地にいた。
「結局今日も九十四の壁は越えらんなかったなあ……はあ、精進しよ……」
そう呟きながら、わたしはこんこん、とラナさんの家の扉を叩く。
少し待っていると、微かなぱたぱた、という音が聞こえてきて、それから扉がガチャリと開いた。
肩ほどまでの長さの、下ろされたふうわりとした亜麻色の髪。
可愛らしいひよこ柄のパジャマの上に、レースのあしらわれた清楚な白エプロン。
昨日とは違うバージョンの美少女が、目の前に立っていた。
「おはよう、シャロンちゃん! 朝からお顔が見れて、嬉しいな。ふふっ」
本日も一億点満点の微笑みで言うラナさん。
「……シャ、シャロンちゃん!? 今ふらっとしたけれど、大丈夫!? もしかして、貧血!?」
「いや違いますよ……むしろ耐性ができたことで倒れなかっただけあります……なので褒めてください……」
「そ、そうなの? よーし、じゃあ、いいこ、いいこ!」
「グワァー! いっいきなり頭撫でてくるの何なんですか刺激強いんですが!? というか何となく気付いてましたけれど、ラナさんスキンシップ多めなタイプの人間ですね!?」
颯爽と後ずさったわたしに、ラナさんは不思議そうにこくんと首を傾げている。は、破壊力高え……!
「まあいいです。それで、昨晩別れるときに、『明日の朝八時にうちに来てね、シャロンちゃん! 待ってるからね!』って言ってたじゃないですか。で、実際来ましたけれど……わたしは何をすればいいんですか?」
「あれっ、言ってなかったっけ?」
「聞いてませんよ? まあラナさんの思し召しとあらば、何でもしますけれど。料理以外なら」
「た、確かに私も、シャロンちゃんに料理を頼むつもりはないよー! というより、むしろ逆かも?」
「逆……? となると、皿洗いとかですか? 喜んでやりますよ。わたしの美しい水魔法をとくとご覧あれ」
「違う、違うよー! まあいいや、ほら、上がって!」
ラナさんに手招きされて、わたしは怪訝な顔をしながら玄関へと足を踏み入れる。
ブーツを脱いで廊下に立ったとき、何だかふわりと、美味しそうないい香りがして……私の胸は、とくんと高鳴った。
「ラナさん。これはわたしに都合のよすぎる展開な気もするんですけれど、もしやもしや、もしかして……」
「ふふっ! さあ、どうかな? 取り敢えず、一緒にリビング行こ!」
ラナさんはそう笑って、わたしの手を取った。
「きょぽはわ!?」
動揺で謎の奇声を上げるわたしを気にした様子もなく、ラナさんはわたしの手を引っ張って歩いて行く。
え、最近の女の子って皆こんな感じなの……?
わたしが遅れてるの……?
そんなことをぐるぐる考えているうちに、すぐにリビングへと到着した。
扉の先に広がっていたのは、朝陽の差し込む穏やかな世界、そしてテーブルの上には……陽光を浴びてきらきらと輝く、美味しそうな二人分の朝ご飯。
二種類のパンの隣には、昨日つくった真っ赤な苺ジャムとバターが添えられている。
瑞々しいサラダには様々な野菜が使われており、掛かっているのはどうやら自家製ドレッシング。
オムレツは見るだけでふわっふわなのが丸わかり。柔らかな黄色をしていて、とても美味しそうだ。
飲み物はミルク。牛が小さく描かれたマグカップに注がれていて、くすっとさせてくれるところも素敵。
「ほわああああ…………」
感動の余り、わたしは声を漏らしてしまう。
「パーティー結成記念に、シャロンちゃんに朝ご飯をご馳走したかったの! 頑張ってつくったから、よかったら食べてほしいな。……あ、もしかして、もう何か食べてきちゃったりした?」
「いやなーんも食べてません! 起きて支度してからずっと魔法修行していましたので!」
「起きてから……って、えええ、まだ八時だよ!? シャロンちゃん、何時に起きたの!?」
「五時四十五分ですよ?」
「すーごい早起き……! えらいねえ、シャロンちゃん! よしよし」
「あああ……また撫でられてるわたし……脳が蕩ける……」
こうされていると、視界に花畑とか見えてきそうだ。
「さあ、冷めちゃうとあれだから、早く食べよ!」
「ですねですね! ではでは……」
「「いただきます!」」
ラナさんとわたしはテーブルを挟んで向かい合わせになって、手を合わせる。
そうして、二人だけの朝ご飯タイムが始まった――
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