第9話 食後の雑談タイム
「あああ……マージで美味かったです……」
わたしはお腹をさすりながら、満足げに頷いた。
「よかった! シャロンちゃんにそう言ってもらえると、とっても嬉しいな。ふふっ」
「こんなんでよければ幾らでも言いますよ、というか言わせてください! どれも最高でしたが、特にオムレツマジ最高でした。みじん切りにされた玉ねぎとあったかふわふわの卵が織りなすハーモニー……あと9個くらい余裕で食べれましたね」
「そ、そんなに沢山食べれるのー!? すごい!」
「まあほら、元々大食いなのも勿論あるんですけれど、魔法沢山使った後だとよりお腹空くんですよね」
わたしの言葉に、ラナさんは何かを思い出したかのように首を傾げる。
「そういえば、魔法修行してたって言ってたけれど……具体的には、どういう魔法を練習していたの?」
「ああ、具体的にですか? 今日はずっと、高度破壊魔法〈無属性〉の練習を」
ラナさんの表情が、瞬く間に驚愕へと染まった。
「えっ、えええ、高度破壊魔法〈無属性〉ー!? すっごい! 確かに、一般魔法は何でも使えるって言ってたけれど!」
「いやいや、まだまだですよ……起動範囲の目標が直径百メテミレなんですが、良くて九十三メテミレ台止まりなんですよね……」
「いや既にめちゃめちゃすごいよー! シャロンちゃん、向上心がやばいよー!」
「エエエーッ!? わたしが今朝想像していたリアクションと一言一句変わらぬリアクション!?」
「へ……? どういうこと、シャロンちゃん?」
「ああいや、こっちの話です気にしないでください!」
わたしは親指を立てながら、にこっと笑う。
ラナさんはきょとんとした顔で、「そ、そうなの? それならいいんだけれど」と言っている。
よ、よかった……ラナさんがいないときにラナさんのリアクションを想像していたなんて、恥ずかしいのでラナさんに余り知られたくない。(ラナさんの多用)
わたしは話題を変えようと思って、「そういえば!」と口にした。
「わたし、ラナさんがこういう感じの性格なの、ちょっと意外だったんですよね」
「意外?」
「そうですそうです。ほら、アンさんたちと過ごしているときのラナさんって、口数が少なめだったのもあって、物静かな感じのイメージだったんですよ? なので、いざ話してみたら、すごいノリ良くツッコんでくれるなあって少しびっくりしたんです」
「あああー、なるほど……」
うんうん、と頷くラナさん。
それから困ったように微笑んで、口を開いた。
「私、前のパーティーにいたときは、全然自分を出せてなかったの。何というか、アンちゃんたちが私を見下しているのがわかって、そしたらどんどん自分が縮こまっちゃって」
「ふーむ、なるほどです。ところで、何でこんなに可愛くて優しくて明るくて頑張り屋で極めつけに料理が上手すぎるラナさんを見下すんですか? むしろ空を眺めるように見上げて然るべきでは?」
「そっ、そんなにいきなり褒められると、顔が赤くなっちゃうよー!」
バタバタと手を振りながら慌てるラナさん。
確かに心なしか、耳の辺りが桃色に染まっている気がする。可愛い。
それからラナさんは、少し寂しそうな、それでいて嬉しそうな面持ちを浮かべた。
「……シャロンちゃんが、珍しいんだよ。私のことをこんなに高評価してくれる人って、いないもん」
「そうですかね? 全く、人々の目は節穴ですねえ」
「もー、またそんなこと言って!」
ラナさんはくすくすと笑う。
わたしは大きく伸びをしながら、口を開く。
「いやでも、わたし、思ってないことは言いませんよ? お世辞とか苦手なんで」
「た、確かにシャロンちゃんって、嫌いな人にはバッサリ色々言いそう……! なんか想像できちゃったよー!」
「そうなんです、そうなんです。……お、そろそろ八時半ですね」
何となく時計を見たわたしは、そう呟いた。
「ということは、ギルドが始まる時間だね!」
「ですねえ。今日は天気もめっちゃいいし、引くほどの冒険日和……」
窓の外に広がる世界は、文句なしの青空に包まれている。
「シャロンちゃん!」
「んあ、何ですか?」
声のした方を見れば、ラナさんがテーブルから乗り出しながら、きらきらと目を輝かせていた。
「そうしたら、一緒に行こうよ、冒険!」
「おおお……」
そう提案されて、わたしもわくわくとした気持ちに包まれていく。
今までは一人で冒険していたが、今日からはラナさんと二人だ。
一体、何が待ち受けているのだろうか……!
気付けばわたしは勢いよく立ち上がって、ぐっと両手の親指を立てた。
「ぜひぜひ、行きましょう! 美味い食材手に入れるぞー!」
「えいえい、おー!」
ラナさんも立ち上がってくれる。わたしたちは顔を見合わせて、ふふっと笑い合った。
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