第17話 寝起きラナさん
「さあ、こちらが最高のパティシエさんがいる家ですよ?」
わたしは得意げな表情をしながら、ラナさんの家の前で大きく両手を広げた。
トリエッタさんは目を輝かせながら、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。
「さいこうの、パティシエさんが……! いっけん、ふつうのおうちなのです!」
「ふっふっふ、中にいるのは全然普通の女の子ではありませんよ? なんと最高の女の子です! さ、ではでは行きましょう!」
わたしはそう言って、こんこん、と扉を叩く。
……が、一分ほど経っても音沙汰がない。
「ああ、そういえばまだ寝てるんでしたっけ……って、どうかしました?」
隣を見れば、トリエッタさんが先程のわくわくした表情から一転、何やら不安そうな面持ちを浮かべている。
彼女はわたしから目線を逸らしながら、小さな声で言う。
「トリエ、よく考えたら……知らない人にのこのこついてきてしまって、あぶないかもしれないのです」
「い、今更ぁ!?」
「うう、トリエ、何だかきゅうに、おじけづいてきたのです……」
「難しい言葉知ってますね?」
そうツッコみながら、わたしは内心焦り始める。
トリエッタさんはこの機会を逃せば、本日の母親の誕生日をケーキで祝うことができなくなるだろう。
それが悲しくて泣いていたくらいだから、きっと明日以降も心残りになると思う。
何と言うか……それは、すごく避けたい!
わたしは扉をガンガンガンガン叩き始める。
「ラーナさーん! いるんでしょー! 起きてくださいよー! ラナさんってばー!」
大声で呼んでみるも、何の反応もない。
しかも隣ではトリエッタさんが「うう……シャロンさん、なんかこわいのです……」とか言ってる。な、何でそうなるんだあ!
「仕方ない、こうなったら……トリエッタさん、ちょっとでいいので待っていてくださいね! 最高のパティシエさんの姿を見れば、きっと誤解も解けるはずですから!」
そう伝えて、わたしはとある魔法を唱える。
ガチャリ――――と鍵が開いた。
使ったのは解錠魔法だ。勿論どこの家も解錠魔法への対策くらいしてあるが、わたしは最強の解錠魔法を使えるので、これくらい余裕である。良い子は真似しないでね!
「なっ、何でひらいたのです!?」
「ご想像にお任せしますー! もう一度言いますが待っていてくださいね! 約束ですよ?」
トリエッタさんの「わ、わかったのです……」という言葉に頷きを返して、わたしはラナさんの家へと足を踏み入れる。
(えーと多分、寝室はこの部屋!)
ブーツを脱いだわたしは廊下を少し進んで、それから右側の扉を開いた。
そこに広がるのは、予想通り寝室。
小さな部屋に、透明なレースカーテンから真っ白な陽の光が差し込んで、優しく煌めいている。
ラナさんは、ベッドで眠っているようだった。
わたしはずかずかと近付いていく。
「ラナさん急用です起きてくだ……ってエエエーッ!?」
わたしは思わず叫び声を上げた。
何故かと言うと……ラナさんのパジャマがはだけて、おへそは丸出しだし、大きな胸の谷間も見えているしで、何というかかなり心臓に悪い光景だったからだ!
わたしはふらあっ……と倒れかけて、それからぶんぶんと首を横に振る。
「……いや今そういうのいいですから! 早くしないとトリエッタさん家帰っちゃいますから! 起きてくださいゆさゆさゆさゆさ!」
わたしはラナさんの肩を掴んで強く揺さぶる。
「んん〜……シャロン、ちゃん……」
「起き……てなあい! 目ガッチリ閉じてる! ということはわたしの夢見てます!? な、内容気になるー!」
「食べ物が、好きだからって……プリンの着ぐるみは……どうかと、思うの……」
「いや何ですかその内容は! わたしもどうかと思いますよプリンの着ぐるみは! ああもう、こんなときは魔法魔法!」
わたしは覚醒魔法(※眠らせてくるモンスターへの対策になる)を唱える。
すると、ラナさんのまぶたがゆっくりと開かれた。
「あれえ……シャロンちゃん? どうして、プリンじゃないの……?」
「わたしは元々プリンじゃないですが!? というか来客です、来客! ほら、パジャマのボタン閉めてください!」
「う、うん、わかったあ……」
のろのろボタンを閉めているラナさんを、重力魔法を活用して宙に浮かべつつ運ぶ。
「わああ、たのしいぃ……」
「それは何よりです!」
わたしはそう言いながら、急いで廊下と玄関を抜けた。
トリエッタさんの前に、ゆっくりとラナさんを下ろす。
「連れてきましたあ! こちらが最高のパティシエさん、ラナさんですっ!」
「え、わたし、ぱてぃしえさん……? なにごと?」
目を擦りながらきょとんとしているラナさん。可愛い。
トリエッタさんは表情を驚きに染めた後で、
「すっ……すっごく、びじんさんなのですっ!」
町中に響き渡るかと思うほどの大声で、そう叫んだ――
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