第14話 激うまオムライス

「るるるんるん、るるっるー、るんるるーん♪」


 わたしは鼻歌をうたいながら、ラナさんと帰路についていた。


 わたしの腕の中には、黒くて大きなドラゴンの卵がある。


 星屑ノ竜ティリラーシィの卵は、黄金色だと有精卵で、黒色だと無精卵だ。


 そのため、この中にドラゴンの赤ちゃんがいる心配もないので、安心して美味しく頂ける。


「雌のドラゴンでよかったねえ、シャロンちゃん」


「ほんとラッキーでした! 巣の中に卵があるのを発見したときは、ウッキウキでしたよ?」


「ちょっと踊ってたもんね!」


「それは無意識でしたが!?」


「それじゃあ今日の夕ご飯は、オムライスをつくってあげるから! 楽しみにしててね!」


「イェーイ!」


「ま、また踊ってるよー! シャロンちゃん!」


「これも無意識でしたが!?」


 そんな会話を交わしながら、わたしたちは町を目指して歩いていくのだった――


 *・*・


 時間はあっという間に過ぎて、気付けば夜に。


 わたしは右手にスプーン、左手にフォークを持ちながら、わくわくとした気持ちでテーブルの近くに座っていた。


 既に先程から、キッチンからいい香りが漂ってきていて……正直、すごく待ち遠しい。


 居ても立っても居られなくなって、わたしはばっと立ち上がる。


「あのっ、ラナさん!」


「どうしたの、シャロンちゃん?」


「その、よければ何かお手伝いしますよ! わたしにできることなら何なりと!」


「いや危ないよー! 私、この家が焼けたら困るから! もうちょっとだから座ってて、座ってて!」


「はあい……」


 わたしはしゅんとなりながら、クッションへと腰を落とす。


 早く食べたいのも勿論あるけれど、そもそも料理を任せっきりなのが少々申し訳ない。

 せめて皿洗いは二人分ちゃんとやろう……わたしは、そう心に決めた。


 それから、少しの時間が経って。


「お待たせー、シャロンちゃん!」


 そんな言葉と共に、わたしの前にことりとお皿が置かれる。


 目の前に広がるのは、ふかふかとした黄色の卵生地に包まれた、とても大きなオムライス。

 卵生地には真っ赤なケチャップで、「おつかれさま♡」と可愛らしい文字で書かれている。

 付け合わせの野菜は瑞々しい緑色。黄、赤、緑の鮮やかな色合いのコントラストが目に眩しい。


 焼かれた卵生地のいい香りが、鼻をくすぐる。

 気付けばわたしは、言葉を発していた。


「たっ、食べていいですか!?」


「どうぞどうぞー、いっぱい食べて!」


「うわーい、いっただきまーす!」


 わたしは持っていたスプーンで、オムライスをひとすくい。


 卵生地で隠れていたケチャップライスが顔を覗かせる。何やら肉も入っているようだ。


 そっと口に運んで食べると、ふうわりとろとろの卵生地と、少し酸味のあるケチャップライスがよく合っていて、驚くほど美味しい……!

 しかも、この口の中で蕩ける肉は、もしかして……!


 わたしは目を輝かせながら、ラナさんの方を見る。


「あのっ、ラナさん! もしかしたら、この肉って!」


「ふふっ、気付いた? そうです、星屑ノ竜ティリラーシィのお肉を使ってみました! どうかなあ?」


「まーじで美味いです!」


 そう言いながら、わたしはオムライスをもうひとすくい。


 ふわとろの卵、蕩ける肉、しゃきしゃきの玉ねぎ、柔らかなご飯――


 そんな味わいが組み合わさって、口の中いっぱいに広がるのが幸せすぎて、ぱくぱく食べてしまう……!


 しかも、この星屑ノ竜ティリラーシィの肉は、どこか昔食べた星屑災竜ティリジアーズのステーキを彷彿とさせる。


 同系種のドラゴンだからというのも勿論あるだろうけれど、今まで食べた星屑ノ竜ティリラーシィの肉の中で、一番美味しい。


 それはきっと、今回の星屑ノ竜ティリラーシィが弱点克服個体なことと、ラナさんの調理技術が神がかっていることの、二つの要因が合わさっているからだろう。


「ううう……美味い……美味いです……」


「シャ、シャロンちゃんが泣き出しちゃった!? ど、どうしたのー!?」


「余りの美味さと懐かしさに、思わず涙が……」


「すっ、すごいご飯への情熱! そこまで喜んでもらえてよかったよー!」


 嬉しそうににこにことしているラナさん。可愛い。


 ……わたしはふと、昔のことを思い出す。


 食材を調理できずに生で食べていた結果、食中毒の苦しみを十秒間だけ味わったわたし。


 聞こえますか、あの日のシャロン。


 わたしは今、最高に美味しいオムライスを食べて、最高に幸せです――――



――【星屑ノ竜の卵を使ったふわとろオムライス】編 fin.


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 第二編もお読みいただき、ありがとうございます! 作者の汐海です。


 本作品は、「第6回ドラゴンノベルス小説コンテスト」に参加中です!

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 次編では華やかなケーキをお届けする予定です。ついにざまぁも……! ではでは!

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