永遠の花畑と記念日のフラワーケーキ
第15話 ふ、ざまぁ…………
冒険者ギルドは、年中無休でやっている訳ではない。
一週間に一度、休みの日があるのだ。
今日はその休みの日なので、ラナさんと何をするかは特に決めていない。
取り敢えずわたしはいつものように魔法の修行を済ませ、町中を闊歩していた。
「るっるるるんるん、るるるん♪」
無意識のうちに、鼻歌をうたってしまう。
何故かと言うと――本日の魔法修行で、ついに直径百メテミレの高度破壊魔法〈無属性〉を起動することに成功したからだ!
「ふっふっふー、さっすがわたしだよ? 昨日
無意識のうちに独り言を呟きながら、わたしは意気揚々とお散歩に洒落込む。
――――そのとき。
「おい! お前、シャロン=リルティーヒだよな!?」
「んあ?」
後ろからそう呼び止められて、わたしはぴたりと足を止めて振り返った。
そこにいたのは、焦げ茶色の短髪の男。
筋肉質なのが、服の上からもわかる。
そして……どこかで見た覚えが、あるようなないような……
「うん、そうだけど……君、誰だっけ?」
「俺はオリバー。ラナの元パーティーメンバーだ!」
「ん……あああっ、あああー!」
わたしは目の前の男――オリバーくんを指差しながら、声を上げる。
思い出した!
男に興味がなさすぎて忘れていた!
アンさんのパーティーにいた奴か!
「わかったわかった! オリバーくんね! え、わたしに何か用?」
「ああ、そうだ! 今お前、ラナとパーティーを組んでるらしいじゃねえか」
「え、もう噂になってるの……?」
ギルドの情報、回るのはええ……。
驚いているわたしに、オリバーくんは腕組みしながら頷く。
「で、本題なんだが……頼む! ラナを返してくれ!」
そう言って、オリバーくんは少しだけ頭を下げる。
思わず自分の口から、「え……えええ……?」という声が漏れた。
「は、いや何で? ラナさんを追放したの、オリバーくんたちじゃん。というかまだ二日くらいしか経ってないじゃん」
「それはそうなんだけどよ……気付いたんだよ! 俺たちのパーティーには、あいつがいなきゃダメなんだ!」
「どうして?」
「アンの料理がクソ不味いんだよ!」
怒鳴るオリバーくん。
「今までラナがつくってた分を、アンがつくるようになったんだが……不味すぎるんだ!」
「いやじゃあ君がつくればいいじゃん。人間誰だって得意不得意あるでしょ」
「ハァ? 料理は女の役目だろ?」
「女の子が誰でも料理できると思ったら大間違いだよ? わたしが君の家で料理してやろうか?」
わたしは眉の辺りをピクピクさせながら、そう返答する。
おおお……やばい。
そもそもわたしは男に苦手意識があるけれど、コイツは苦手というより嫌いだ。既に嫌い。
「とにかく、ラナを返せ! 返さなきゃどうなるかわかってんだろうな!」
「ん……君、忘れてない? わたしはあの、シャロン=リルティーヒなんだよ? わたしに喧嘩で勝てる訳ないよね?」
「う、うぐっ……」
「わたし、ラナさんと違ってそんなに性格良くないよ? 瞬間移動魔法を使って、君のことをげきつよモンスターが彷徨く世界の果てまで飛ばすことくらい簡単なんだけど、それでも何かする気あるのかな?」
「うぐぐ…………」
押し黙るオリバーくん。
それにしても、ちょっと話しただけでわかったが、コイツかなりのクズだな。
ラナさんが、こんな奴に色々言われていたと思うと……何だか、すごく苛ついてきた。
何か、仕返しできないだろうか……
そこでわたしは、妙案を思い付く。
にこっと笑って、口を開いた。
「……でもさ、そもそも確かオリバーくんって、ラナさんのこと嫌いなんじゃあなかった? 嫌いな人がパーティーにまた戻るのってさ、嫌じゃないかな?」
「まあ、それもそうなんだけどよ……それよりは、美味い飯を食いてえんだよ、俺は!」
「それならさ、わたしにいい案があるんだよ? ちょっと待ってて」
そう告げて、わたしは魔法で紙とペンを出して、さらさらさらーと文字を書いていく。
そうして、一つのレシピを書き終えた。
わたしは微笑みながら、オリバーくんへとそれを渡す。
「はいっ、どうぞ」
「何だこれ?」
「これは、わたしが最近ラナさんから教わった、すっごく美味しいオムライスのレシピ!(※嘘) 実はわたしもね、料理が大好きでさ。(※嘘) これの通りにつくったら、最高のオムライスができちゃったんだよねえ……(※嘘)」
「なっ、何だと!」
「だから、このレシピをしっかり真似すれば、きっと美味しいオムライスができあがるんじゃあないかな? 頑張って!」
「おう……それじゃあこれを、アンにつくらせればいいんだな!」
「うんうん! レシピならまたいつでも教えてあげるよ? それじゃあ、またね!」
「ああ、またな!」
去っていくオリバーくんに、わたしは笑顔で手を振る。
彼の姿が見えなくなってから、わたしはにやりと笑った。
そう、今のレシピは、わたしが即席で考えたものだ。
なので、恐らく「呪いのレシピ」のため、つくったら何らかの災いが降りかかるだろう。
わたしは大きく伸びをしながら、ひとりごちた。
「ふ、ざまぁ…………」
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フラワーケーキ編、始まりました。
お読みいただきありがとうございます!
ざまぁから始まりますが、本編はハートフルの予定です!
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