第12話 目指せ星屑ノ竜

 依頼されていた星屑ノ竜ティリラーシィの住処は、町から歩いて一時間ほどのところだった。


 今朝のように瞬間移動魔法を使っても行けるのだけれど、それだと折角のラナさんとの初冒険が勿体ない気がしたので、相談の上歩いて行くことに。


 町の南門を出ると、見慣れた草原が広がっている。

 春風が吹き抜けて、淡く花の香りがした。


「るんるん、るるるーん♪」


「ご機嫌だねえ、シャロンちゃん」


「そりゃあそうでしょう。記念すべき新パーティー初めての冒険なんですから! 心が躍るというものです」


「そう言ってもらえて嬉しいよー。私も何だかうきうきしてるもん。……あっ、そうだシャロンちゃん! 荷物持つよ!」


「へ、荷物ですか? そんなに重くないですし、何よりラナさんに持たせるのはめっちゃ気が引けますよ?」


「え、えええっ!? 荷物、持たなくていいの!?」


「いや、何でそんなに驚いているんですか?」


「その……前のパーティーでは、最年少の私が全員分持つのが当たり前だったから、それに慣れきっていて……」


 とても真面目な顔で言うラナさん。


 ……薄々気付いてはいたが、ラナさんの前のパーティー、やばいのではないだろうか?


「というかラナさんってお幾つでしたっけ?」


「私? 十七歳だよー」


「ラナさんの理論で行くと、十六歳のわたしがこのパーティー最年少ですから、わたしがラナさんの荷物を持つべきでは?」


「い、言われてみれば確かにー! で、でも、それは申し訳ないよー! 私荷物多いタイプだから、色々入ってて重いし!」


 ラナさんは両手をバタバタと振りながら言う。


 ……薄々気付いてはいたが、ラナさんは呆れ返るほどにいい子なのではないだろうか?


「まあ、荷物が重かったら言ってください。空間操作魔法を使えば、いつでもどこでも保存しておけますので!」


「前も伝えたけれど、その使い方はやっぱり間違ってると思うの!」


 あわあわしながらツッコんでくれるラナさん。可愛い。


「あ、そうだ! シャロンちゃんに一つ、聞きたいことがあったの!」


「んあ、何ですか?」


「その、カルミアさんのことなんだけど」


「ああ、今日様子がなんか変だったカルミアさんですね。彼女がどうかしたんですか?」


 わたしの質問に、ラナさんは神妙な面持ちを浮かべる。


「私、気付いちゃったんだ。カルミアさんってさ、シャロンちゃんのこと――――」


 一拍置いて、ラナさんは口を開いた。



「――――もしかしたら、嫌いなのかなあって……」



 その言葉に、わたしも神妙な面持ちを浮かべる。


「ラナさんも気付いてしましたか。いやはや、そうなんですよね……」


「うん。だってカルミアさん、シャロンちゃんに対してだけ毒舌だったよね……?」


「ですね、しかもあれ平常運転なんですよ。その話をリアさん(※受付嬢その2)にしたら、『そう……? 私には全然そんなこと言わないけど』って。これはもう、確実に嫌われているってことですよね……」


「うん、それで間違いないと思う……」


 わたしたちは一緒に、はあと溜息をつく。


「それで、聞きたかったことなんだけれど。シャロンちゃん、カルミアさんに何かしちゃったりしたの?」


「いやあ、これといって特に……あ、でも、一つだけ大きなイベントがありましたよ?」


「大きなイベント!? なになに?」


 うずうずと聞きたそうにしているラナさんに、わたしはどこか遠くを見つめながら話す。



「以前、カルミアさんがげきつよモンスターに襲われかけているところを、助けたことがあるんですよね……」



「えええっ、そんなことが……! って、あれ? それだけ聞くと、むしろ好感持たれそうなイベントじゃない?」


「んー、そうなんですよね。でもこれ以外に大したことはなかったですし……」


「んー……はっ、ひらめいた! もしかしたらカルミアさん、げきつよモンスターと仲良くなりたかったんじゃないかな!?」


「エッ……エエエーッ!?」


 提示された衝撃的な可能性に、わたしは思わず叫んでしまった。


「でっ、でも、確かに有り得ますね! 仲良くなろうとしていたげきつよモンスターを突然現れたわたしがあっさり倒したら、そりゃあ嫌いにもなりますわ!」


「そうだよー! もう、シャロンちゃん! めっ、だよ!」


 人差し指を立てながら、めっ! とやるラナさん。可愛い。


「うう、気を付けます……」


「まあ、大丈夫だよ! シャロンちゃんのことをもっとよく知ってもらえば、好感度も戻るはず!」


「うう、頑張ります……!」


 わたしはラナさんへと、大きな頷きを返す。


 それにしても、やっぱり女の子から嫌われるのは悲しいものがある。


 いつかカルミアさんからの好感度が、せめてマイナスからゼロへと上がるといいなあ……


 そう考えながら、わたしは大きく伸びをした。

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