第6話~ラグビーの国際試合~
初めて岩瀬と出会ってから、3年が過ぎた昭和9年、オーストラリアの大学選抜ラグビーチームが、日本へ交流試合に来日し、日本の強豪大学と数試合対戦した。
今日は、オーストラリアの大学選抜 対 慶塾大学 戦。
競技場には、約2万人の人々が観戦に来ていた。
日本の旗を振っている人や慶塾大学の旗を振っている人達。
試合は拮抗し、観衆も白熱を帯びて来た。
「日本頑張れ~!」「毛唐(けとう)に日本人魂見せてやれ!」「慶塾~行け!」人々は大声で声援を送った。
この当時、現在の得点方法とは大分違い、トライを取ってもその後にあるゴールキックを決めないと、折角に取った点数3点が0点となってしまうルールで、キッカーの技量がすべてを握ると言っても過言ではなかった。
所謂(いわゆる)、ラグビーは、キックが主体となったスポーツ、ラグビーフットボールなのである。
前半戦は、オーストラリア大学選抜の体格を利した攻撃があり、日本は攻められ続けていたが、慶塾大学伝統の激しいタックルにつぐタックルで、両校の点数は6点対6点のイーブンに終わった。
ハーフタイムに入り、天内猛主将が「諸君。良く頑張った!巨体で力がバカ強い異人達の突進を良く止めてくれた。俺達には日本人特有の足の短さがある。後半も短足を利した低いタックルを決めてくれたまえ。」と励ました。
メンバー全員、土で口の中もお歯黒くなった顔で笑いながら「おー。」と叫んでいた。
試合が進み後半の終盤、得点はオーストラリア12点 対 慶塾大学11点のなか、慶塾大学にチャンスが来た。
オーストラリア陣内でオーストラリアがペナルティを犯し、慶塾大学がゴールを狙えることになった。キッカーの青木がそのポイントへ歩き、グランドへボールをセットした。
ペナルティゴールの点数は入れば2点追加となる。ゴールポストまでの距離は約40m。
青木は「ジャリ。」と口の中に砂埃が入っていたが、余り気にならない程、極度の緊張で足が震えていた。
しょんべんちびりそうやで。
離れた所からフォワードの長瀬が、「おーい。青木。ゴールを決めればヒーローになれるぞ。かわいい女子も見てるよ。」と青木の緊張をほぐそうとして言ったが、
青木は「じゃかぁし~いっ。しょうもな。」と大きな声で言い返した。
我を忘れると、青木は地元の言葉(関西弁)が出てしまう癖がある。
その時、観客の一人から「君、元気がいい声だね、それじゃあ大丈夫。」と大きな声がした。
観客のみんながどっと笑っていた。
青木の体から力がスーと抜けた。
青木の身体が始動し、「ドゥン。」ボールを蹴り上げ、それは綺麗な放物線を描いた。
「ピー。ゴール。ノーサイド。」審判のホィッスルの音と声がした。
慶塾大学が勝ち、2万の観客が「わあー。おー。やったー。」と騒然となり立ち上がって拍手を送った。
慶塾大学ラグビー部の皆は、オーストラリアのメンバーに全員で挨拶をし、各々握手を交わしてから、勝った余韻に浸った。
「やったー。俺らは勝ったんだ。」
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